はじめに
研修医・医学生のみなさん、日々の子連れ外来や当直業務、本当にお疲れ様です!
外来で最も頻度の高い主訴の一つ、それが「不正性器出血」です。 「あ、また不正出血か」と慣れてしまいがちですが、実はその裏には、見逃すと致命的な「異性外妊娠」や、若年性のがん、あるいは全身性の凝固異常が隠れていることがあります。
今回は、ガイドラインをベースに、性成熟期女性の不正出血をどう「システマティックに」紐解いていくか、その極意を解説します。
なぜ「不正出血」は混乱するのか?
日本語の「不正出血」という言葉は便利ですが、実は定義が非常に曖昧です。 「生理じゃないのに血が出た」「生理が長すぎる」「量が多すぎる」…これらすべてが「不正出血」と表現されます。
世界標準(FIGO:国際産婦人科連合)では、これらをAUB(Abnormal Uterine Bleeding:異常子宮出血)と呼び、原因を系統的に分類する「PALM-COEIN(パーム・コイン)分類」を用いることが推奨されています。
まずは、目の前の患者さんの出血が「どこから」「なぜ」出ているのかを特定する、プロの思考プロセスを身につけましょう。
絶対に忘れてはいけない「鉄則」:妊娠を疑え(推奨A)
性成熟期女性の診察において、「妊娠を否定するまで、すべての不正出血は妊娠関連である」と考えても大げさではありません。
- なぜ重要か: 異性外妊娠(子宮外妊娠)の破裂は致命的だからです。
- ピットホール: 「前回の生理は普通に来ました」「心当たりはありません」という言葉を鵜呑みにしてはいけません。本人が気づいていない妊娠、無意識に隠している妊娠は日常茶飯事です。
アクション: 少しでも可能性があれば、本人の同意を得て尿中hCG定性検査を行いましょう。これが「診断のスタート地点」です。
出血部位の特定:上からか、下からか
妊娠が否定されたら、次は「どこから出血しているか」を確認します。
- 外陰部・腟・子宮腟部: 視診やコルポスコピーで直接見える場所です。腟炎、子宮頸管ポリープ、子宮頸がん、腟壁の裂傷などが原因となります。これらは厳密には「AUB」には含まれません。
- 子宮頸管・子宮内腔: 奥から流れてくる出血です。これが今回のメインテーマである「AUB」の領域です。
診断の羅針盤:PALM-COEIN分類をマスターする
FIGOが提唱したこの分類は、原因を「器質的(形がおかしい)」と「非器質的(機能がおかしい)」に分ける画期的なものです。
① PALM(器質的疾患:画像でわかるもの)
- P (Polyp): 子宮内膜ポリープ
- A (Adenomyosis): 子宮腺筋症
- L (Leiomyoma): 子宮平滑筋腫(筋腫)
- M (Malignancy and hyperplasia): 悪性腫瘍(子宮体がんなど)や子宮内膜増殖症
② COEIN(非器質的疾患:画像でわかりにくいもの)
- C (Coagulopathy): 凝固異常(特発性血小板減少性紫斑病やフォン・ヴィレブランド病など)
- O (Ovulatory dysfunction): 排卵障害(多嚢胞性卵巣症候群やストレスによる無排卵)
- E (Endometrial): 子宮内膜機能異常(内膜局所の止血機構の異常)
- I (Iatrogenic): 医原性(抗凝固薬の服用や避妊用ピルなどの副作用)
- N (Not yet classified): その他(慢性子宮内膜炎など)
臨床現場での立ち回り:問診と検査のセット
研修医として、指導医にコンサルトする前にこれだけは準備しておきましょう。
必須の問診項目
- 出血のパターン: 周期性はあるか?(あれば排卵性、なければ無排卵性の疑い)
- 服用薬: 抗凝固薬、低用量ピル、漢方、健康食品。
- 随伴症状: 腹痛(妊娠や炎症)、月経痛(腺筋症や筋腫)。
- 家族歴: 血が止まりにくい親族はいないか。
必須の初期検査
- 内診・クスコ診: 部位の特定と、子宮の大きさ・可動性をチェック。
- 経腟超音波(TV-US): 内膜の厚さ、筋腫やポリープの有無。
- 血液検査: 貧血の程度(Hb)、hCG、必要に応じて凝固系やホルモン値。
問題 医師国家試験レベル
問題1
28歳の女性。不正性器出血を主訴に来院した。月経周期は不規則で、最終月経は2ヶ月前。血圧 110/60 mmHg、脈拍 72/分。下腹部に軽度の圧痛を認める。 まず行うべき検査として適切なのはどれか。
A. 子宮頸部細胞診
B. 尿中hCG定性検査
C. 骨盤部MRI検査
D. 基礎体温の測定
E. 子宮内膜全面掻爬
【正解】B
【解説】 性成熟期女性の不正出血、かつ無月経(最終月経2ヶ月前)がある場合、まずは妊娠関連疾患(異性外妊娠、流産など)を否定するのが鉄則です。尿中hCG検査は簡便で最も優先されます。
問題2
FIGOのPALM-COEIN分類において、非器質的疾患(COEIN)に含まれるのはどれか。
A. 子宮内膜ポリープ
B. 子宮腺筋症
C. 子宮平滑筋腫
D. 凝固異常
E. 子宮内膜増殖症
【正解】D
【解説】 PALM(Polyp, Adenomyosis, Leiomyoma, Malignancy/Hyperplasia)は器質的疾患です。Dの凝固異常はC (Coagulopathy) であり、非器質的疾患に分類されます。
まとめ
- 「とりあえず妊娠検査」をためらわない: 人生を左右する疾患を見逃さないために。
- PALM-COEINで頭を整理する: 「何か形がおかしいのか?」「仕組みがおかしいのか?」を常に自問自答する。
- 内科的・医原性疾患も視野に: 抗凝固薬や血液疾患が隠れていないか、お薬手帳と家族歴をチェックする。
不正性器出血は、産婦人科の面白さと奥深さが詰まった主訴です。このシステマティックなアプローチを身につければ、もう外来で迷うことはありません!

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