CQ302:月経周期異常の診断 原因を「脳・首・卵巣」で仕分ける技術

婦人科ガイドラインを勉強する

はじめに

研修医・医学生のみなさん、日々の子連れ外来や当直、本当にお疲れ様です!

外来で「生理がバラバラなんです」「3ヶ月以上生理が来ていません」という主訴、非常に多いですよね。 「とりあえずピルを処方して様子を見よう」…ちょっと待ってください!その月経異常の裏に、実は見逃してはいけない脳外科疾患や内科疾患、あるいは人生を左右する妊娠が隠れているかもしれません。

今回は、ガイドライン「月経周期異常を診断する場合の留意点」をベースに、診断のピットホールを徹底解説します。

月経周期の「正常」を言えますか?

意外と答えられないのが「正常な月経」の定義です。まずはここを固めましょう。

  • 正常な周期: 25〜38日
  • 頻発月経: 24日以内
  • 希発月経: 39日以上〜90日未満
  • 続発性無月経: 90日(3ヶ月)以上の停止

特に「3ヶ月来ていない」はレッドフラッグ。原因が視床下部にあるのか、下垂体にあるのか、それとも卵巣なのか…。これを整理するのが私たちの仕事です。


絶対に最初に行うこと:妊娠の除外(推奨A)

CQ301(不正出血)でもお伝えしましたが、月経異常の診察でも鉄則は同じです。

「妊娠を否定するまで、無月経は妊娠である」

  • ピットホール: 思春期の患者さんの場合、親の前では「心当たりはありません」と答えるのが普通です。
  • アクション: 必ず「保護者のいない状態」で問診し、少しでも疑わしければ尿中hCG定性検査を行いましょう。

探偵のように聞く!問診の重要項目

月経異常の診断は、問診で8割決まります。以下の項目を「攻め」の姿勢で聞き出しましょう。

① 身体・生活の変化

  • 体重減少: 「ダイエットを始めてから止まった」は視床下部性無月経の典型例です。BMIが18を切ると要注意。
  • 激しい運動: アスリートやダンサーに多いです。
  • 精神的ストレス: 環境の変化(就職、入学、失恋など)は視床下部を直撃します。

② 薬剤服用歴(超重要!)

意外と盲点なのが、他科で処方されている薬です。

  • 抗ドパミン薬(スルピリドなど): 精神科や消化器科(胃薬)でよく出ます。
  • SSRI/SNRI: 抗うつ薬。
  • H2ブロッカー、メトクロプラミド: これらも高プロラクチン(PRL)血症を引き起こし、無月経の原因となります。

③ 全身症状

  • 甲状腺疾患: 易疲労性、便秘、寒がり(低下症)や、動悸、多汗(亢進症)がないか。
  • 高アンドロゲン症状: 多毛、ニキビ(痤瘡)。これは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を示唆します。

フィジカルと検査:乳汁とエコー

診察室でできる重要なフィジカルが、「乳汁漏出」の確認です。

患者さんが自覚していなくても、指で圧迫してじわっと出る場合があります。これは高PRL血症のサイン。高PRL血症の背景には、薬剤性だけでなく**下垂体腺腫(プロラクチノーマ)**が隠れていることもあるため、絶対に見逃せません。

超音波検査(エコー)のポイント

  • 子宮内膜: 厚みがあればエストロゲン(E2)が出ている証拠。
  • 卵巣: 10個以上の小卵胞が並ぶ「ネックレスサイン」があればPCOSを疑います。
  • 子宮留血腫: 経血の出口が塞がっていないかを確認。

ホルモン検査:パズルを組み立てる

採血結果が出たら、以下のマトリックスで診断を絞り込みます。

ホルモンパターン考えられる診断
FSH/LH 高値 + E2 低値卵巣性(早発卵巣不全など):工場(卵巣)の故障
FSH/LH 低値 + E2 低値視床下部・下垂体性:司令塔のサボり
LH > FSH + E2 正常PCOS の典型パターン
TSH 異常甲状腺機能異常(低下症・亢進症)
PRL 高値高プロラクチン血症(薬剤性、下垂体腺腫など)

Clinical Pearl:「採血のタイミング」に注意!無月経ならいつでもOKですが、周期がある場合は卵胞期初期(生理2〜5日目)がベストです。


問題 医師国家試験レベル

問題1

24歳の女性。3ヶ月前からの無月経を主訴に来院した。半年間で体重が 10kg 減少(身長 160cm、体重 42kg)している。内診で子宮・付属器に異常を認めない。

この患者で認められる可能性が高い血液検査所見はどれか。

A. FSH 高値

B. LH 低値

C. プロラクチン 高値

D. TSH 低値

E. テストステロン 高値

【正解】B

【解説】

急激な体重減少に伴う視床下部性無月経の症例です。視床下部からのGnRH分泌が低下するため、下垂体から出るFSHやLHは低値(または正常下限)となります。

A:卵巣不全で高値になります。

C:授乳中や薬剤性、下垂体腺腫で高値になります。

E:PCOSで高値になります。


問題2

月経周期異常の診断において、適切でない組み合わせはどれか。

A. 多毛 ―― 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

B. 乳汁漏出 ―― 高プロラクチン血症

C. 薬剤服用(スルピリド) ―― 視床下部性無月経

D. FSH 高値・E2 低値 ―― 早発卵巣不全

E. 基礎体温 ―― 排卵の有無の推定

【正解】C

【解説】

C:スルピリドは抗ドパミン作用により、下垂体からのプロラクチン分泌を抑制できなくなり(ブレーキが外れる)、高プロラクチン血症を引き起こします。視床下部性ではなく「薬剤性高プロラクチン血症による無月経」です。


まとめ

  1. 「まずはhCG」: どんなに否定されても妊娠チェック。
  2. 「お薬手帳」をガン見する: 胃薬や抗精神病薬が原因の「高PRL」は非常に多い。
  3. 「首と乳房」を診る: 甲状腺の腫大はないか、乳汁は出ないか。
  4. 「脳・首・卵巣」の三段構え:
    • 脳(視床下部・下垂体):ストレス、体重、PRL
    • 首(甲状腺):TSH
    • 卵巣(工場):PCOS、卵巣不全

月経周期は女性の健康のバロメーターです。「ただ生理が来ないだけ」と思わず、全身疾患の窓口として丁寧に診察する姿勢を大切にしましょう!

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