はじめに
研修医・医学生のみなさん、日々の子連れ外来や当直、本当にお疲れ様です!
外来で「生理がバラバラなんです」「3ヶ月以上生理が来ていません」という主訴、非常に多いですよね。 「とりあえずピルを処方して様子を見よう」…ちょっと待ってください!その月経異常の裏に、実は見逃してはいけない脳外科疾患や内科疾患、あるいは人生を左右する妊娠が隠れているかもしれません。
今回は、ガイドライン「月経周期異常を診断する場合の留意点」をベースに、診断のピットホールを徹底解説します。
月経周期の「正常」を言えますか?
意外と答えられないのが「正常な月経」の定義です。まずはここを固めましょう。
- 正常な周期: 25〜38日
- 頻発月経: 24日以内
- 希発月経: 39日以上〜90日未満
- 続発性無月経: 90日(3ヶ月)以上の停止
特に「3ヶ月来ていない」はレッドフラッグ。原因が視床下部にあるのか、下垂体にあるのか、それとも卵巣なのか…。これを整理するのが私たちの仕事です。
絶対に最初に行うこと:妊娠の除外(推奨A)
CQ301(不正出血)でもお伝えしましたが、月経異常の診察でも鉄則は同じです。
「妊娠を否定するまで、無月経は妊娠である」
- ピットホール: 思春期の患者さんの場合、親の前では「心当たりはありません」と答えるのが普通です。
- アクション: 必ず「保護者のいない状態」で問診し、少しでも疑わしければ尿中hCG定性検査を行いましょう。
探偵のように聞く!問診の重要項目
月経異常の診断は、問診で8割決まります。以下の項目を「攻め」の姿勢で聞き出しましょう。
① 身体・生活の変化
- 体重減少: 「ダイエットを始めてから止まった」は視床下部性無月経の典型例です。BMIが18を切ると要注意。
- 激しい運動: アスリートやダンサーに多いです。
- 精神的ストレス: 環境の変化(就職、入学、失恋など)は視床下部を直撃します。
② 薬剤服用歴(超重要!)
意外と盲点なのが、他科で処方されている薬です。
- 抗ドパミン薬(スルピリドなど): 精神科や消化器科(胃薬)でよく出ます。
- SSRI/SNRI: 抗うつ薬。
- H2ブロッカー、メトクロプラミド: これらも高プロラクチン(PRL)血症を引き起こし、無月経の原因となります。
③ 全身症状
- 甲状腺疾患: 易疲労性、便秘、寒がり(低下症)や、動悸、多汗(亢進症)がないか。
- 高アンドロゲン症状: 多毛、ニキビ(痤瘡)。これは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を示唆します。
フィジカルと検査:乳汁とエコー
診察室でできる重要なフィジカルが、「乳汁漏出」の確認です。
患者さんが自覚していなくても、指で圧迫してじわっと出る場合があります。これは高PRL血症のサイン。高PRL血症の背景には、薬剤性だけでなく**下垂体腺腫(プロラクチノーマ)**が隠れていることもあるため、絶対に見逃せません。
超音波検査(エコー)のポイント
- 子宮内膜: 厚みがあればエストロゲン(E2)が出ている証拠。
- 卵巣: 10個以上の小卵胞が並ぶ「ネックレスサイン」があればPCOSを疑います。
- 子宮留血腫: 経血の出口が塞がっていないかを確認。
ホルモン検査:パズルを組み立てる
採血結果が出たら、以下のマトリックスで診断を絞り込みます。
| ホルモンパターン | 考えられる診断 |
| FSH/LH 高値 + E2 低値 | 卵巣性(早発卵巣不全など):工場(卵巣)の故障 |
| FSH/LH 低値 + E2 低値 | 視床下部・下垂体性:司令塔のサボり |
| LH > FSH + E2 正常 | PCOS の典型パターン |
| TSH 異常 | 甲状腺機能異常(低下症・亢進症) |
| PRL 高値 | 高プロラクチン血症(薬剤性、下垂体腺腫など) |
Clinical Pearl:「採血のタイミング」に注意!無月経ならいつでもOKですが、周期がある場合は卵胞期初期(生理2〜5日目)がベストです。
問題 医師国家試験レベル
問題1
24歳の女性。3ヶ月前からの無月経を主訴に来院した。半年間で体重が 10kg 減少(身長 160cm、体重 42kg)している。内診で子宮・付属器に異常を認めない。
この患者で認められる可能性が高い血液検査所見はどれか。
A. FSH 高値
B. LH 低値
C. プロラクチン 高値
D. TSH 低値
E. テストステロン 高値
【正解】B
【解説】
急激な体重減少に伴う視床下部性無月経の症例です。視床下部からのGnRH分泌が低下するため、下垂体から出るFSHやLHは低値(または正常下限)となります。
A:卵巣不全で高値になります。
C:授乳中や薬剤性、下垂体腺腫で高値になります。
E:PCOSで高値になります。
問題2
月経周期異常の診断において、適切でない組み合わせはどれか。
A. 多毛 ―― 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
B. 乳汁漏出 ―― 高プロラクチン血症
C. 薬剤服用(スルピリド) ―― 視床下部性無月経
D. FSH 高値・E2 低値 ―― 早発卵巣不全
E. 基礎体温 ―― 排卵の有無の推定
【正解】C
【解説】
C:スルピリドは抗ドパミン作用により、下垂体からのプロラクチン分泌を抑制できなくなり(ブレーキが外れる)、高プロラクチン血症を引き起こします。視床下部性ではなく「薬剤性高プロラクチン血症による無月経」です。
まとめ
- 「まずはhCG」: どんなに否定されても妊娠チェック。
- 「お薬手帳」をガン見する: 胃薬や抗精神病薬が原因の「高PRL」は非常に多い。
- 「首と乳房」を診る: 甲状腺の腫大はないか、乳汁は出ないか。
- 「脳・首・卵巣」の三段構え:
- 脳(視床下部・下垂体):ストレス、体重、PRL
- 首(甲状腺):TSH
- 卵巣(工場):PCOS、卵巣不全
月経周期は女性の健康のバロメーターです。「ただ生理が来ないだけ」と思わず、全身疾患の窓口として丁寧に診察する姿勢を大切にしましょう!

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