CQ801:新生児蘇生法(NCPR) 最初で最大の「30秒」を制する技術

Uncategorized

はじめに:蘇生は「予測」と「準備」が9割

全出生児の約10%が何らかの呼吸補助を必要とし、本格的な蘇生(胸骨圧迫や薬物投与)が必要な児は約1%と言われています。「まさか」は常に起こり得ます。

NCPR 2020の最大のポイントは、「評価」と「介入」のサイクルを30秒ごとに回すという極めてシンプルなアルゴリズムにあります。


1. 出生直後の評価:3つの質問

赤ちゃんが誕生した瞬間、私たちは3つのポイントを瞬時に評価します。

  1. 早産児ではないか?
  2. 呼吸・啼泣は良好か?
  3. 筋緊張は良好か?

これらすべてが「Yes」なら、お母さんのそばでルーチンケア(保温・気道確保・皮膚乾燥)を行い、早期母子接触へ進みます。

一つでも「No」があれば、すぐに温かいラジアントウォーマーの上へ移動し、「蘇生の初期処置」を開始します。

医師国家試験のポイント:出生直後の評価に「皮膚色」や「Apgarスコア」は含まれません。これらは蘇生開始の判断基準にはならないので注意!


2. 蘇生の初期処置(〜生後30秒)

ウォーマーの上で行うことは4つです。

  • 保温: 乾いたタオルで拭き、濡れたタオルはすぐに捨てる。
  • 気道確保: 「乳児の吸気位(Sniffing position)」をとらせる。
  • 気道吸引: 必要な場合のみ行う。口腔→鼻腔の順。
  • 刺激: 背中や足の裏を優しく刺激して呼吸を促す。

3. 人工呼吸:蘇生のメインディッシュ(生後30秒〜)

初期処置を30秒行っても、「無呼吸(喘ぎ呼吸を含む)」 または 「心拍数 100/分未満」 であれば、直ちに人工呼吸(バッグ・マスク換気)を開始します。

人工呼吸のコツ

  • 回数: 40〜60回/分。
  • 酸素濃度: 正期産児は空気(21%)から開始。32週未満の早産児は21〜30%で開始。
  • 評価: 30秒換気を行い、胸が上がっているか、心拍が上がっているかを確認。

目標とすべきSpO2値(分娩室の壁に貼っておくべき表)

出生直後の赤ちゃんは、すぐには酸素飽和度が上がりません。以下の「目標値」を知らないと、過剰に酸素を投与してしまい、かえって児にダメージを与えてしまいます。

出生後経過時間ターゲットSpO2
1分60%
3分70%
5分80%
10分90%

4. 胸骨圧迫と薬物:高度な蘇生(生後90秒〜)

適切な人工呼吸を30秒行っても心拍数が 60/分未満の場合、いよいよ胸骨圧迫を開始します。

  • 手技: 両母指圧迫法が推奨されます(二本指法より有効)。
  • リズム: 圧迫3:換気1の割合。
  • 酸素: 胸骨圧迫を開始するタイミングで、吸入酸素濃度を上げます。
  • アドレナリン: 胸骨圧迫でも改善しない場合、0.01〜0.03mg/kgを静注(または0.05〜0.1mg/kgを気管内投与)します。

5. 蘇生後の管理と記録

蘇生に成功した後も、気を抜いてはいけません。

① Apgarスコア

1分値と5分値を判定します。5分値が7点未満の場合は、改善するまで5分ごとに(最長20分まで)記録を続けます。

② 臍帯動脈血ガス分析

分娩中の児のストレスを客観的に評価する唯一の指標です。可能な限り全例で採取し、記録に残すことが推奨されています(推奨レベルB)。

③ 早期母子接触(Skin-to-Skin Contact)

安定した児に行うのは素晴らしいことですが、「見守り人員の配置」「パルスオキシメータによる監視」が必須です。安全が確保できない状況では無理に行わない決断も必要です。


問題 医師国家試験レベル

問題1

出生直後の新生児。在胎39週、吸引分娩で出生した。出生直後の評価で自発呼吸はなく、筋緊張は低下していた。直ちにラジアントウォーマー上で保温、気道確保、吸引および皮膚刺激を行ったが、生後30秒時点での心拍数は80/分であり、有効な自発呼吸を認めない。

次に行うべき対応として最も適切なのはどれか。

A. 胸骨圧迫の開始

B. アドレナリンの気管内投与

C. バッグ・マスクによる人工呼吸の開始

D. 酸素テントによる高濃度酸素投与

E. Apgarスコアの判定を優先する

【正解】C

【解説】

心拍数が100/分未満、あるいは無呼吸・喘ぎ呼吸を認める場合は、アルゴリズムに従い「人工呼吸」を開始します。胸骨圧迫(A)は「有効な人工呼吸を行っても心拍60未満」の場合のステップです。


問題2

新生児蘇生法において、正しいのはどれか。

A. 胎便性羊水混濁がある場合、全例で直ちに気管内吸引を行う。

B. 正期産児の蘇生は、100%酸素による人工呼吸から開始する。

C. 胸骨圧迫と人工呼吸の回数比は15:2である。

D. 生後1分時点での目標SpO2値はおおむね60%である。

E. 臍帯動脈血ガス分析は、第1度仮死の場合のみ実施する。

【正解】D

【解説】

A:活気のない児であっても、ルーチンの気管内吸引は現在推奨されていません。

B:空気(21%酸素)から開始します。

C:新生児では3:1です。

D:正解。表の通りです。

E:可能な限り全例実施が推奨されています。


まとめ

  1. 「30秒」を計る: 漫然と処置を続けない。30秒ごとに評価し、次のステップへ進む決断をする。
  2. 「換気」がすべて: 新生児の徐脈の原因のほとんどは呼吸不全です。胸骨圧迫を急ぐ前に、まず「正しく胸が上がる換気」ができているかを確認してください。
  3. 「チーム」で動く: 一人で評価・時計・換気・記録は無理です。人手を集め、リーダーを明確にしましょう。

新生児蘇生は、適切な手順さえ踏めば、多くの命を救うことができる「希望の医療」です。アルゴリズムを分娩室の壁に貼り、イメージトレーニングを欠かさないようにしましょう!

コメント

タイトルとURLをコピーしました