はじめに
研修医・医学生の皆さん、お疲れ様です!産婦人科外来や手術室で「TCR-M(子宮鏡下子宮筋腫摘出術)」という言葉、よく耳にしますよね。
過多月経で貧血ボロボロの患者さんが、手術翌日には「体が軽い!」と笑顔で退院していく…。そんな低侵襲でドラマチックな改善が期待できるのがこの手術の魅力です。しかし、何でもかんでも子宮鏡で取れるわけではありません。
今回はガイドラインを軸に、「子宮鏡で攻めていい筋腫」と「引くべき筋腫」の境界線を、プロの視点で徹底解説します。
1. なぜ「子宮鏡」なのか?
子宮粘膜下筋腫(Submucosal Myoma)は、たとえ1-2cm程度の小ささであっても、内膜をボコッと押し出すことで過多月経や重症貧血、さらには受精卵の着床を妨げる「不妊の元凶」となります。
これに対する外科的アプローチには、開腹、腹腔鏡、子宮鏡がありますが、子宮鏡下手術(TCR-M)は以下の点で圧倒的に優れています。
- お腹を切らない: 腟経由なので傷跡ゼロ。
- 回復が爆速: 多くは 1泊2日〜2泊3日で社会復帰可能。
- 子宮筋層へのダメージが最小限: 将来の妊娠(帝王切開のリスクなど)を考えても有利。
まさに「粘膜下筋腫における保存的治療の第一選択」なのです。
2. 攻めの境界線:ガイドラインの「30mm/50%ルール」
ガイドラインが示す標準的な適応基準は非常にシンプルですが、奥が深いです。
成功の目安(推奨B)
- 筋腫の直径: 30mm(3cm)以下
- 子宮内腔への突出度: 50%以上
なぜこの数字なのか:3cmを超えると切除に時間がかかり、後述する「水中毒(TUR症候群)」のリスクが跳ね上がります。また、半分以上が筋層に埋まっている(突出度50%未満)と、削っても削っても筋腫の底が見えず、子宮穿孔のリスクが高まるからです。
専門医による適応拡大
もちろん、これはあくまで「目安」です。熟練した術者であれば、以下のようなケースも対象になります。
- 直径 40mm程度: 術前にGnRHアゴニストで小さくしてから挑む。
- 突出度 50%未満(STEP 1〜2): 2回に分けて手術する(Two-step surgery)という戦略もあります。
3. 術前診断:エコー・MRI・そして「子宮鏡」
手術の適応を決めるには、筋腫の「住所」と「サイズ」を正確に把握する必要があります。
- 経腟超音波(TVS): 最初のスクリーニング。
- MRI: 筋腫がどれくらい「潜っているか(漿膜下までの距離:5mm以上あるか)」を評価するのに最適。
- ソノヒステログラフィー(SHG): 生食を注入してエコーを撮る。突出度の評価に極めて有用。
- 術前子宮鏡検査(必須!): 実際にカメラで見て、「これは削れる!」という確信を持ちます。
4. 術中管理のキモ:灌流液とTUR症候群
子宮鏡手術は、子宮腔を「水」で膨らませて行います。この水(灌流液)の管理が、麻酔科医や研修医にとって最も神経を使うポイントです。
灌流液の種類
- モノポーラ電極使用時: 非電解質液(ウロマチック®など)。電気が逃げないようにするため。
- バイポーラ電極使用時: 電解質液(生理食塩水)。最近の主流。
恐怖の「水中毒(TUR症候群)」
長時間の手術で、子宮の血管から灌流液が大量に血中に吸収されると起こります。
- 非電解質液の場合: 低ナトリウム血症(Na⁺<125mEq/L)、意識障害、脳浮腫。
- 電解質液(生食)の場合: 低Naは起こりにくいが、過剰輸液(Fluid Overload)による心不全・肺水腫のリスクは残ります。
撤退の基準:灌流液の IN(出した量)と OUT(回収した量)の差が1Lを超えたら、手術を中断して電解質チェックや利尿剤投与を検討するのが鉄則です!
5. 不妊症と子宮鏡下手術
「不妊症の患者さんに、他に原因がなければ粘膜下筋腫は取るべきか?」
答えは YES です。
- 妊娠率の向上: 筋腫を取り除くことで、胚の着床環境が劇的に改善します。
- IVFの前処置: 体外受精に進む前にTCR-Mを行うことで、移植の成功率が上がることがエビデンスとして示されています。
問題 医師国家試験レベル
問題1
38歳の女性。過多月経と挙児希望を主訴に来院した。経腟超音波検査および子宮鏡検査にて、子宮腔内に直径25mm、子宮内腔への突出度70%の粘膜下筋腫を認めた。その他の不妊原因は認めない。
この患者に対する治療として最も適切なのはどれか。
A. 子宮全摘術
B. 腹腔鏡下筋腫核出術
C. 子宮鏡下子宮筋腫摘出術(TCR-M)
D. 偽閉経療法(GnRHアゴニスト)単独
E. 経過観察
【正解】C
【解説】
サイズ30mm以下、突出度50%以上であり、挙児希望があるため低侵襲なTCR-Mが第一選択となります。Aは挙児希望に反し、Bは粘膜下筋腫に対しては侵襲が大きく、Dは根本治療になりません。
問題2
子宮鏡下手術(TCR-M)中の管理について誤っているのはどれか。
A. 非電解質灌流液の使用により低ナトリウム血症が起こりうる。
B. 灌流液の IN と OUT の差が500mLに達したら直ちに手術を中止しなければならない。
C. バイポーラ電極を使用する場合は、生理食塩水を灌流液として使用できる。
D. 術中の合併症として子宮穿孔がある。
E. 大量吸水が疑われる場合、肺水腫のサイン(SpO2低下など)に注意する。
【正解】B
【解説】
A:非電解質液の過剰吸収はTUR症候群(低Na血症)の原因です。
B:誤り。 中止・中断を検討する目安は一般に1,000mL(1L)以上の欠損(deficit)です。500mLでは注意喚起レベルです。
C:正しい。バイポーラの利点です。
D:正しい。特に突出度が低い筋腫を削る際にリスクが高まります。
E:正しい。過剰輸液による急性心不全・肺水腫に注意が必要です。
まとめ
- 適応を守る: 基本は「30mm・50%$。無理な症例は術前投与や2回手術を検討。
- 術前診断を詰める: MRIと子宮鏡で「漿膜までの距離」と「突出度」をガン見する。
- 水管理を徹底する: 1Lの欠損は「イエローカード」。命に関わる合併症を防ぐ。
- 挙児希望に寄り添う: 正常な内膜を傷つけない丁寧な手技を心がける。
TCR-Mは、術者のスキルと判断が結果に直結する非常にやりがいのある手術です。ガイドラインの基準を「お守り」として持ちつつ、安全で確実な手術を目指しましょう!

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