はじめに:Late Pretermという「グレーゾーン」
在胎34週0日から36週6日までに出生した児をLate Preterm(LP)児と呼びます。 かつては「Near Term(正期産に近い)」と呼ばれていましたが、現在はあえて「Preterm(早産)」であることを強調する呼び方が主流です。
なぜなら、彼らは正期産児に比べて、死亡率や罹患率が有意に高いからです。 「大きいから大丈夫」というバイアスを捨て、解剖・生理・代謝のすべてが未熟であるという前提で管理を始める必要があります。
1. 呼吸器の落とし穴:見逃せない「無呼吸」と「TTN」
LP児の管理で最も頻度が高いトラブルが呼吸障害です。
- TTN(新生児一過性多呼吸): 肺胞液の吸収遅延により起こります。
- RDS(肺表面活性物質欠乏症): 34週を超えても、肺の成熟が不十分な児は珍しくありません。
- 無呼吸発作: 脳幹の呼吸中枢が未熟なため、突然呼吸が止まることがあります。
臨床のポイント: 34〜36週で出生した児がNICUに入院する最大の原因の一つは「無呼吸発作」です。蘇生時に元気であっても、生後数時間はパルスオキシメータや呼吸監視モニターを装着し、厳重に観察することがガイドラインでも推奨されています。
2. 代謝・体温の落とし穴:エネルギー切れを防げ
LP児は、エネルギーを蓄える力が弱く、かつ消費しやすいという「低燃費かつタンクが小さい」状態です。
① 低血糖
LP児は肝臓のグリコーゲン貯蔵が少なく、糖新生も未熟です。
- 症状: 活気がない、哺乳不良、震え(Jitteriness)、または無症状。
- 対策: 定期的な血糖測定が不可欠です。特に生後数時間は、症状がなくてもスクリーニングを行う施設が多いです。
② 低体温
皮下脂肪(断熱材)が薄く、熱産生に必要な褐色脂肪細胞も少ないため、あっという間に体温が奪われます。
- リスク: 低体温は酸素消費量を増やし、呼吸障害や低血糖を悪化させる負のループを招きます。
③ 黄疸
肝臓でのビルリビン抱合能が低いため、正期産児よりも黄疸が強く出やすく、かつ核黄疸(脳性麻痺の原因)を起こす閾値が低いとされています。より慎重な光線療法の適応判断が求められます。
3. RSV感染症とパリビズマブ:34〜35週への「守備」
ガイドラインが特に強調しているのが、RSウイルス(RSV)への対策です。
なぜLP児にRSVが怖いのか?
33〜35週で生まれた児は、正期産児に比べてRSVによる入院リスクが約3.6倍も高いというデータがあります。また、乳児期のRSV細気管支炎は、将来の喘息発作のリスクを跳ね上げます。
パリビズマブ(シナジス®)の投与基準
RSV重症化予防薬であるパリビズマブは、以下のLP児が対象となります。
- 在胎29〜35週: RSV流行開始時に6か月齢以下であること。
インフォームドコンセントの必須事項: 34〜35週の児を退院させる際、医師は家族に以下の3点を伝える義務があります(ガイドライン推奨レベルB)。
- RSVは重症化しやすいこと。
- 流行期の予防薬(パリビズマブ)で症状軽減が期待できること。
- どこでその注射が打てるのか(自施設 or 紹介先)。
4. 哺乳障害と退院基準:焦りは禁物
LP児は「吸う・飲み込む・呼吸する」のコーディネーションが未熟です。
- スリーピー・ベイビー: よく寝ているように見えて、実は体力がなくて飲めずに眠っているだけ、というケースがあります。
- 退院の目安: 少なくとも48時間は大きなトラブルがないこと、直接母乳または哺乳瓶で十分な量を自力摂取できることを確認してから退院させましょう。
問題 医師国家試験レベル
問題
在胎35週2日、体重2,350gで出生した新生児の管理について、適切なのはどれか。
A. 出生直後に異常がなければ、呼吸監視モニターの装着は不要である。 B. 正期産児と比較して、高ビルリビン血症による脳性麻痺のリスクは低い。 C. 呼吸障害がなければ、生後早期の血糖測定を行う必要はない。 D. RSV流行期に入る場合、パリビズマブの投与対象となる。 E. 36週未満の出生であるため、全例に人工サーファクタントを予防投与する。
【正解】D
【解説】 A:無呼吸発作のリスクがあるため、モニター装着による観察が望ましいです。 B:LP児は血液脳関門が未熟なため、低いビルリビン値でも核黄疸を起こすリスクが正期産児より高いです。 C:無症候性低血糖が多いため、スクリーニングとしての血糖測定が推奨されます。 D:正解。29〜35週の児は、流行期に6か月齢以下であれば対象です。 E:予防投与は一般的ではありません。臨床症状(RDS)がある場合のみ検討します。
まとめ
研修医の皆さんが、今日から実践すべきポイントは以下の3点です。
- 「正期産児のミニチュア」ではない: 呼吸・血糖・体温のすべてにおいて、正期産児より1ランク上の警戒レベルで監視すること。
- 血糖と呼吸のダブルチェック: 活気がなくても「眠いだけ」で済ませない。モニターをつけ、血糖を測る。
- 退院時の「RSV教育」を忘れずに: 35週までの児には、パリビズマブの情報提供を必ず行う。これが将来の喘息や重症肺炎を防ぐ鍵になります。
LP児は、産科と小児科の境界線にいる「もっとも注意深いケアを必要とする」存在です。見た目の大きさに惑わされず、彼らの未熟な生理機能をサポートしてあげてください!


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