はじめに
産科医療において、もっとも心が痛み、かつ冷静な判断が求められる場面。それが「子宮内胎児死亡(IUFD)」です。 「昨日の健診では元気だったのに…」というご家族の深い悲しみに寄り添いながら、私たちはプロフェッショナルとして、「なぜ亡くなったのか(原因検索)」と「これからどう支えるか(家族ケア)」を同時に進めなければなりません。
今回は、産婦人科診療ガイドライン における原因検索と産婦・家族への対応」を解説します。研修医や学生の皆さんが、現場で「何を、どの順番で調べるべきか」を整理するためのバイブルとして活用してください。
1. なぜ原因検索が必要なのか?
胎児死亡が確認された際、原因を特定することは以下の3つの意味を持ちます。
- 家族の納得: 「自分のせいで亡くなったのではないか」という母親の自責の念を和らげる。
- 次回妊娠の管理: 再発リスク(抗リン脂質抗体症候群や糖尿病など)を評価し、対策を立てる。
- 医学的進歩: 救えたはずの命はなかったか、知見を蓄積する。
実際には25~40%が「原因不明」とされますが、全力を尽くして調べる姿勢そのものがグリーフケア(悲嘆のケア)の一部となります。
2. 死亡時期の推定
まず最初に行うのは、「いつ亡くなったのか」のアセスメントです。
- 超音波所見: 心拍停止だけでなく、羊水量や児頭の変形(Spalding徴候)を確認します。
- 児の肉眼的な浸軟(しんじゅん)状態: 死亡から時間が経つと、皮膚の剥離や関節の弛緩が進みます。これらを総合して、死亡時期を推定します。
3. 徹底的な原因検索:何を調べるべきか?
ガイドラインでは、原因が明らかでない場合、以下の「胎児側」と「母体側」の両面からのアプローチを推奨しています。
① 胎児・胎盤・臍帯へのアプローチ(胎児側検査)
胎児そのものよりも、「胎盤と臍帯」に答えが隠されていることが多いのが特徴です。
- 外表検査: 形態異常(奇形)の有無を詳細に観察します。
- 胎盤・臍帯の病理組織検査: 死因特定に最も寄与する(有用性約65%)検査です。常位胎盤早期剥離、梗塞、絨毛膜羊膜炎、臍帯過捻転などを見逃さないために必須です。
- 病理解剖(剖検): ご家族の承諾が必要ですが、内臓奇形や感染、貧血などを診断する「黄金の標準」です。
- 画像診断(AI:Autopsy Imaging): 解剖の承諾が得られない場合、CTやMRIでの画像検索も有用です。
- 染色体検査: 死産児の8〜13%に染色体異常があるとされます。ただし、死後変化で培養がうまくいかないこともあるため、マイクロアレイ検査(培養不要)が検討されることもあります。
② お母さんの体を調べる(母体側検査)
次回妊娠へのリスクヘッジが主目的となります。
- 抗リン脂質抗体(APS): 不育症の代表格。10週以降の原因不明の胎児死亡は、これだけでAPSの臨床基準を満たします。
- 胎児母体間輸血(FMH): 赤ちゃんの血液がお母さんの体内に流れ出してしまう現象。Kleihauer-Betke(KB)試験で母体血中の胎児HbFを検出します。
- 感染症スクリーニング:
- 梅毒: 近年日本で急増しており、見逃せません。
- パルボウイルスB19: 胎児水腫の原因になります。
- 内分泌検査: 未診断の糖尿病(GDM)や甲状腺機能異常をチェックします。
- 不規則抗体スクリーニング: 血液型不適合による胎児水腫を否定します。
4. 家族への精神的支援(グリーフケア)
医学的な検索と同じくらい重要なのが、ご家族への対応です。
- 対面と抱っこ: ご家族の希望に合わせ、児を清潔にし、服を着せ、対面の時間を設けます。「亡くなった子」としてではなく、「授かった命」として尊厳を持って接します。
- 遺品(メモリアル・アイテム): 写真、足形、手形、産着などを残す提案をします。これらは、後になってご家族が「確かに生きていた」と実感する大切な支えになります。
- 専門家との連携: 臨床心理士やMSW(ソーシャルワーカー)と協力し、退院後のメンタルヘルスをサポートします。
5. 医療事故調査制度との兼ね合い
もし、胎児死亡が「何らかの医療行為(薬剤投与や手技)」に起因し、かつ「予期せぬもの」であった場合、医療事故調査制度の対象となる可能性があります。院内の管理者に速やかに報告し、制度に則った手続きが必要か判断を仰ぎましょう。
問題 医師国家試験レベル
問題1
妊娠34週の妊婦。胎動消失を主訴に来院し、子宮内胎児死亡(IUFD)と診断された。児の皮膚は蒼白であり、形態異常を認めない。母体側検査として、胎児貧血の原因となる「胎児母体間輸血症候群」を疑った場合に行うべき検査はどれか。
A. 直接クームス試験
B. Kleihauer-Betke試験
C. 抗リン脂質抗体測定
D. パルボウイルスB19 IgM抗体測定
E. 染色体マイクロアレイ検査
【正解】B
【解説】 胎児母体間輸血症候群(FMH)の診断には、母体血中に漏れ出した胎児赤血球を検出するKleihauer-Betke試験(またはフローサイトメトリー)が用いられます。Aは自己免疫性溶血性貧血、Cは不育症、Dはウイルス感染、Eは遺伝学的検査であり、FMHの直接的な診断にはなりません。
問題2
子宮内胎児死亡(IUFD)の原因検索において、最も死因特定の寄与率(有用性)が高いとされる検査はどれか。
A. 胎児染色体検査
B. 母体糖尿病スクリーニング
C. 胎児の全身X線検査
D. 胎盤・臍帯の病理組織検査
E. TORCH症候群の抗体検査
【正解】D
【解説】 ガイドラインの解説にある通り、胎盤病理検査の有用性は約64.6%と極めて高く、死産原因の検索において最も重要な検査です。染色体(11.9%)や糖尿病(1.6%)と比較しても、その貢献度は圧倒的です。
まとめ
- 「胎盤」を絶対に出す: 肉眼的な観察だけでなく、必ず病理検査へ。胎盤こそが最大の証言者です。
- 次回への「バトン」を渡す: APS、糖尿病、FMHなど、次回妊娠で対策が打てる疾患を確実にスクリーニングする。
- 「家族の時間」を大切にする: 検査や処置を急がず、ご家族が児と過ごす時間を最優先し、精神的なサポートをチームで行う。
IUFDは、医療者にとっても辛い経験です。しかし、正しく原因を検索し、誠実に対応することは、残されたご家族が前を向くための唯一の道標となります。この記事が、皆さんの実践の一助となれば幸いです。

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