はじめに
妊婦は免疫機能の変化により、インフルエンザにかかると重症化しやすいことが知られています。特に2009年のH1N1インフルエンザパンデミックでは、妊婦の入院率や死亡率が一般よりも高く、医療現場でも大きな問題となりました。
そのような背景から、妊婦や出産直後の褥婦に対して、ワクチンや抗インフルエンザ薬をどう使うかが非常に重要な課題です。
ワクチンは妊婦に使っても大丈夫?
結論から言うと、妊娠中のすべての時期においてインフルエンザワクチン(不活化ワクチン)は接種可能であり、安全性も高く有効性も認められています。
- 母体のインフルエンザ重症化リスクを軽減
- 胎児への影響は極めて低い
- 出生後6か月までの乳児にも感染予防効果
また、日本で使用されているワクチンの中には防腐剤としてチメロサール(エチル水銀)が含まれるものがありますが、含有量はごく微量であり胎児への悪影響はないとされています。
ワクチン接種のタイミングは?
日本のインフルエンザ流行期(1月~3月)に備え、10~12月中旬の接種が望ましいとされています。
抗インフルエンザ薬は妊婦に使える?
妊婦や出産直後(分娩後2週間以内)の女性がインフルエンザに感染した場合は、重症化リスクが高いため、積極的に治療を行うべきです。
主に使われる薬剤:
薬剤名 | 投与経路 | 妊婦への使用実績 |
---|---|---|
オセルタミビル(タミフル®) | 内服 | 安全性確認済み |
ザナミビル(リレンザ®) | 吸入 | 安全性確認済み |
ラニナミビル(イナビル®) | 吸入 | 安全性確認済み |
ペラミビル(ラピアクタ®) | 点滴 | 有益性投与 |
バロキサビル(ゾフルーザ®) | 内服 | 有益性投与 |
CDC(米国疾病予防センター)は、症状出現から48時間以内に治療開始することを推奨しており、早期投与がICU入室や死亡リスクを下げるという報告もあります。
濃厚接触しただけで予防投与は必要?
インフルエンザ患者と濃厚接触した妊婦や褥婦に対しては、オセルタミビルやザナミビルによる予防投与も考慮されます(予防効果70~90%)。ただし、耐性ウイルスの出現リスクがあるため、ルーチン投与は推奨されていません。
授乳中のワクチンや薬剤は?
授乳中のワクチン接種や抗インフルエンザ薬の使用についても、乳児への有害な影響は認められていません。そのため、希望があれば授乳中の褥婦にも接種を推奨できます。
問題
妊娠中のインフルエンザ対策に関する記述で正しいのはどれか。1つ選べ。
A. 妊娠第1三半期にはワクチン接種は禁忌である
B. 妊婦へのインフルエンザワクチンは生ワクチンが用いられる
C. 妊婦が発熱を伴うインフルエンザに罹患した場合は、原則として治療を控える
D. 妊婦はインフルエンザ重症化リスクが高く、抗ウイルス薬は早期に投与する
E. 授乳中の母親に抗インフルエンザ薬は禁忌である
正解
D. 妊婦はインフルエンザ重症化リスクが高く、抗ウイルス薬は早期に投与する
解説
- A → 誤り。不活化ワクチンであり妊娠全期間に投与可能。
- B → 誤り。不活化ワクチンが使用される。
- C → 誤り。早期治療(発症48時間以内)が重要。
- D → 正しい。妊婦は重症化しやすく、抗インフルエンザ薬の早期投与が推奨される。
- E → 誤り。授乳中の抗ウイルス薬使用は問題ない。
まとめ
妊婦・褥婦へのインフルエンザ対策は、母体と胎児・新生児の両方を守る重要な医療行為です。ガイドラインに基づいた適切なワクチン接種や治療が、命を守ることにつながります。
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