CQ211:異型のない子宮内膜増殖症 その「厚み」の正体と最適解

婦人科ガイドラインを勉強する

はじめに

研修医・医学生の皆さん、日々の診療・学習お疲れ様です!

外来で「月経がダラダラ続く」「エコーで内膜がやけに厚い」という患者さんに出会ったとき、皆さんの頭には何が浮かびますか?「体がん?」「ポリープ?」「それともホルモンバランス?」

今回はガイドラインの重要項目、「異型のない子宮内膜増殖症(Endometrial Hyperplasia without atypia)」を徹底解説します。

「異型(Atypia)」がないからといって放置していいのか、それともガッツリ治療すべきなのか。ガイドラインの行間を読み解きながら、明日から使える知識を整理していきましょう!

1. エストロゲンの「暴走」を理解する

子宮内膜増殖症をひと言で表すなら、「プロゲステロン(黄体ホルモン)のブレーキが効かない状態での、エストロゲン(卵胞ホルモン)によるアクセル全開」です。

通常、月経周期はエストロゲンで内膜が厚くなり、プロゲステロンで維持・成熟し、両方が下がることで剥がれ落ちます(月経)。しかし、無排卵周期や肥満、エストロゲン製剤の単独投与などが原因でプロゲステロンが不足すると、内膜はひたすら増殖を続け、構造が複雑化していきます。

ここで重要なのは、「異型(細胞の顔つきの悪さ)」があるかないかです。異型がなければ、がん化のリスクは数パーセントと低く、多くは自然に治る可能性を秘めています。


2. 診断のステップ:ただの厚みか、病的な増殖か

「内膜が厚い」と言われたら、まずは「本当に増殖症なのか?」を確認するステップが必要です。

① 経腟超音波(エコー)でのスクリーニング

まずは厚さを測ります。

  • 閉経後: 不正出血があり、内膜厚が 5mm以上なら精査(内膜組織診)を検討。
  • 閉経前(性成熟期): 月経直後でも 20mm以上の厚みがあれば異常を疑います。
    • 注意: 妊娠の可能性(着床期の内膜肥厚)は常に除外しましょう!

② 組織診:確定診断のゴールデンスタンダード

細胞診で異常が出たり、エコーで肥厚が強ければ内膜組織診を行います。

もし、組織診で「異型(Atypia)があるかも?」あるいは「がんが隠れているかも?」と疑われた場合は、子宮内膜全面掻爬(D&C)を行い、内膜全体をくまなくチェックする必要があります。

③ 特殊なケース:タモキシフェン(TAM)服用者

乳がん治療でタモキシフェンを飲んでいる方は要注意。タモキシフェンは乳腺には抗エストロゲンとして働きますが、子宮内膜にはエストロゲン様に働きます。そのため、内膜増殖症や体がんのリスクが上がることが知られています。


3. 治療戦略:自然退縮を待つか、ホルモンで介入するか

異型のない子宮内膜増殖症の素晴らしいところ(?)は、自然に治る(退縮する)ケースが多いことです。半年間の経過観察で75〜80%以上が自然退縮したというデータもあります。

しかし、不正出血がひどい、あるいはリスク因子が消えない場合は治療が必要です。

治療の三本柱

  1. プロゲスチン(MPA)周期的投与:
    • メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)を月に10〜14日間内服。これを3〜6か月繰り返します。内膜を強制的に「分泌期」に変えてリセットさせるイメージです。
  2. LNG-IUS(ミレーナ®):
    • レボノルゲストレル放出子宮内システム。局所で強力にプロゲステロンを効かせるため、過多月経を伴う症例には非常に有効です。ガイドラインでも強く推奨(Cですが実臨床では多用)されています。
  3. LEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬):
    • PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)などで無排卵が続いている若年女性には、ホルモンバランスを整える意味で有効です。

4. ライフステージに合わせた個別化医療

ガイドラインは常に「患者さんの背景」を重視します。

  • 挙児希望がある若年女性:プロゲスチン治療で内膜を正常化した後、放置すると再発しやすいため、早めに排卵誘発などを行い、妊娠を目指すことが再発予防にも繋がります。
  • 妊孕性(妊娠する能力)を考えなくて良い場合:閉経後で出血を繰り返し、病変が持続する場合は、思い切って子宮全摘術を選択肢に入れることもあります。これは「隠れたがん」を見逃さないための究極の治療でもあります。

問題 医師国家試験レベル

問題1

48歳の女性。不正性器出血を主訴に来院した。経腟超音波検査で子宮内膜厚 $22\text{mm}$ と肥厚を認め、子宮内膜組織診を行ったところ「異型のない子宮内膜増殖症」と診断された。

この疾患の管理について正しいのはどれか。

A. 直ちに子宮全摘術を行うのが第一選択である。

B. 異型がない場合、子宮体がんへの進展率は約50%である。

C. 自然退縮することは稀である。

D. 不正出血などの症状がある場合、プロゲスチン投与を検討する。

E. 治療としてエストロゲン単独投与を行う。

【正解】D

【解説】

A:異型がない場合、まずは保存的治療(ホルモン療法)が優先されます。

B:進展率は1〜3%程度と低いです。50%は異型内膜増殖症(EIN)を無治療で放置した場合に近い数字です。

C:多く(7割以上)が自然退縮します。

D:正解。症状があればMPA投与などが推奨されます。

E:エストロゲンは原因です。投与すべきは拮抗するプロゲステロンです。


問題2

32歳の女性。挙児希望あり。無月経が続き、エコーで内膜肥厚を指摘された。組織診の結果「異型のない子宮内膜増殖症」と診断された。今後の対応としてガイドライン上、適切なのはどれか。

A. 永久的な避妊を指導する。

B. 治療により内膜が正常化した後、挙児希望があれば排卵誘発を検討する。

C. 直ちに広汎子宮全摘術を行う。

D. 閉経するまで無治療で経過観察を続ける。

E. 乳がんの合併がなければタモキシフェンを投与する。

【正解】B

【解説】

A:挙児希望があるため不適切。

B:正解。内膜の状態を改善させた後に妊娠を目指すのが、治療と再発予防(排卵による自前のプロゲステロン分泌)の両面で有効です。

C:過剰診療です。

D:放置するとがん化のリスクがゼロではないため、フォローまたは治療が必要です。

E:タモキシフェンは内膜を厚くさせる原因になります。


まとめ

  1. 「異型の有無」が運命の分かれ道: 異型がなければ、がん化率は低い(1〜3%)。まずは保存的治療を考える。
  2. 「プロゲステロンでリセット」: 治療の基本はプロゲスチン(MPA、LNG-IUS、LEP)。エストロゲンの暴走を止める。
  3. 「背景を診る」: 挙児希望の有無、PCOSの有無、タモキシフェン使用歴などを確認し、個別にプランを立てる。

「厚い内膜」を見たときに、ただ怖がるのではなく、「よし、まずは異型があるかチェックして、それから患者さんのライフプランに合わせてプロゲステロンをどう使うか考えよう!」と思えるようになれば、あなたも立派な産婦人科通です。

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