はじめに
研修医・医学生の皆さん、お疲れ様です。救急外来や婦人科外来で、もっとも頻繁に遭遇する「コモン・ディジーズ」といえば何でしょうか?
そう尿路感染症(UTI: Urinary Tract Infection)です。
「ただの膀胱炎でしょ?」と侮るなかれ。妊婦さんなら早産のリスクになり、高齢者ならあっという間に敗血症(Urosepsis)へ進行する、実は奥が深く、スピード感の求められる疾患です。今回はガイドラインを軸に、明日から使える「攻めの尿路感染診療」を解説します。
1. 尿路感染症の「型」を身につける
尿路感染症を診るとき、ベテラン医師の頭の中には瞬時に「分類の四分面」が展開されています。
- 部位: 下部(膀胱炎)か、上部(腎盂腎炎)か。
- 背景: 単純性(基礎疾患なし)か、複雑性(結石、カテーテル、糖尿病などあり)か。
産婦人科領域では、これに「妊娠の有無」と「閉経の前後」という重要な変数が加わります。この型が決まれば、自ずと選ぶべき武器(抗菌薬)が決まります。
2. 診断の極意:症状と尿所見のアンサンブル
診断はシンプルですが、丁寧なステップが必要です。
① 3大症状をチェック
- 膀胱炎: 排尿痛、頻尿、残尿感。(熱はないのが普通!)
- 腎盂腎炎: 発熱、腰痛(CVA叩打痛)、悪心・嘔吐。
② 検査の読み方
- 尿定性: 白血球反応(膿尿)と亜硝酸塩(細菌尿)をチェック。
- 尿培養: 「単純性なら不要」という意見もありますが、ガイドラインでは薬剤耐性菌(ESBLなど)の増加を背景に、培養提出を強く推奨しています。
③ 無症候性細菌尿(ASB)の扱い
「症状はないけど尿に菌がいる」状態。通常は放置でOKですが、妊婦さんだけは別格です。
- なぜ治療する?: 妊娠中は尿管の拡張や蠕動低下により、ASBから腎盂腎炎へ移行しやすく、それが早産や低出生体重児のリスクになるからです。妊娠初期のスクリーニングは「愛」だと思ってください。
3. 治療戦略:ターゲットに合わせた武器の選択
起炎菌の80%以上は大腸菌(E. coli)です。しかし、近年の大腸菌は「キノロン耐性」という盾を持ち始めています。
A. 急性単純性膀胱炎
患者さんの背景で使い分けます。
| カテゴリ | 推奨薬剤 | 理由・注意点 |
| 閉経前 | セフェム系、キノロン系 | 大腸菌以外の S. saprophyticus も意識。 |
| 閉経後 | β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン、セフェム系 | キノロン耐性率が高いため、慎重に。 |
| 妊婦 | セフェム系、ペニシリン系 | キノロンは原則禁忌!胎児への安全性を最優先。 |
B. 急性単純性腎盂腎炎
「上部」まで火の手が回っているため、より強力な対応が必要です。
- 軽症: キノロン系やセフェム系の内服。
- 中等症以上: 点滴加療。脱水や経口摂取不可があれば迷わず入院管理、または専門施設へ紹介しましょう。
4. 現場で差がつく!アドバンスド・チップス
「3日後の評価」を忘れない
抗菌薬を開始して3日経っても症状が改善しない、あるいは熱が下がらない場合は、「薬剤耐性菌」か、あるいは「複雑性(石がある、膿瘍がある)」を疑い、CT検査や薬剤変更を検討してください。
予防の指導も治療のうち
「トイレを我慢しない」「性交後の排尿」「前から後ろへ拭く」といった生活指導は、再発に悩む女性にとって、どの薬よりも価値のあるアドバイスになることがあります。
問題 医師国家試験レベル
問題1
26歳の妊婦(妊娠12週)。特に症状はないが、妊婦健診の尿定性検査で白血球(3+)、亜硝酸塩(陽性)を認めた。尿培養では E. coli が 105 CFU/mL 検出された。次に行うべき対応として適切なのはどれか。
A. 無症状であるため、経過観察とする。
B. セフェム系抗菌薬の内服を開始する。
C. ニューキノロン系抗菌薬の内服を開始する。
D. 1週間後に再度、尿培養を行い確定診断する。
E. 分娩後に治療を行う。
【正解】B
【解説】 A:妊婦の無症候性細菌尿(ASB)は、腎盂腎炎や早産のリスクとなるため治療対象です。 B:正解。妊婦には安全性の高いセフェム系やペニシリン系を用います。 C:キノロン系は妊婦には原則禁忌です。 D:既に 105 CFU/mL 出ており、診断・治療を急ぐべきです。 E:遅すぎます。
問題2
急性単純性腎盂腎炎の診断・治療について誤っているのはどれか。
A. 患側の肋骨脊柱角(CVA)に叩打痛を認めることが多い。
B. 悪心・嘔吐を伴う場合は入院治療を検討する。
C. 起炎菌は Escherichia coli が最も多い。
D. 閉経後女性では、閉経前と比較してキノロン耐性菌の割合が高い傾向にある。
E. 治療開始にあたり、血液培養の採取は必須ではない。
【正解】E
【解説】 A, B, C, D:すべて正しい記述です。 E:誤り。発熱を伴う腎盂腎炎は、菌血症を来している可能性があるため、血液培養2セットの採取が強く推奨されます(ガイドライン解説参照)。
まとめ
- 「妊婦のASB」は全力で叩く: 無症状でも、それは早産予防という重要なミッション。
- 「背景」を見て薬を選ぶ: 閉経後のキノロン耐性に注意。妊婦にはセフェム。
- 「腎盂腎炎」は全身管理: 腰痛+熱を見たら、脱水の評価と血液培養を忘れずに。
尿路感染症は、皆さんが医師として最も多く「治癒の喜び」を患者さんと共有できる疾患の一つです。的確な診断と、背景を考慮した薬剤選択で、スマートな診療を目指しましょう!

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