CQ802:正期産児の管理 産声のあとの「24時間」と「退院まで」の全戦略

産科ガイドラインを勉強する

はじめに

産婦人科や小児科のローテート中、もっとも「平和」に見える場所。それが正期産児の新生児室です。しかし、その平和な風景の裏では、胎内から胎外への劇的な環境変化(適応)が静かに、かつダイナミックに進行しています。

研修医の皆さんが当直中に呼ばれる「なんとなく活気がない」「ちょっと呼吸が早いかも」というコール。これを「様子見」で済ませるか、重篤な疾患(先天性心疾患や敗血症)のサインとして拾い上げるかが、腕の見せ所です。

今回は、産婦人科診療ガイドライン「正期産新生児に対する管理の注意点」をベースに、出生から退院までのチェックポイントを徹底解説します。


1. 出生直後の「見落とし厳禁」チェックリスト

生まれたばかりの赤ちゃん。まずは「おめでとうございます!」ですが、医師の目は冷静に全身をスキャンする必要があります。

分娩損傷と先天異常のスクリーニング

  • 頭部: 吸引分娩や鉗子分娩後は、頭血腫(骨膜下出血)だけでなく、帽状腱膜下出血(致死的になり得る)の有無を触診。
  • 口腔: 指を入れて口蓋裂を確認。口唇裂がなくても口蓋裂があるパターンは見逃されやすいです。
  • 背部: 脊柱に沿って異常な陥凹や膨隆がないか。二分脊椎のサインを見逃さない。
  • 肛門: 鎖肛の有無。初回の検温時に確認するのがスムーズです。
  • 心血管: 大腿動脈の拍動。触知しにくければ大動脈縮窄症(CoA)を疑います。

2. 生体情報のモニタリング:正常値を知る

新生児は「小さな大人」ではありません。バイタルサインの基準値が独特です。

  • 体温: 36.5~37.5℃。低体温は酸素消費量を増やし、アシドーシスを招きます。
  • 呼吸数: 40~60回/分。多少の不規則性は「周期性呼吸」として許容されますが、呻吟(うなり声)や陥没呼吸があれば異常です。
  • 血糖: 母親が糖尿病(GDM含)や、リトドリンを使用していた場合は低血糖に注意。活気がない時の第一歩は血糖測定です。

3. 黄疸:24時間以内の出現は「レッドカード」

新生児のほとんどに生理的黄疸が出ますが、タイミングが重要です。

出現時期意味合い対応
生後24時間以内早発性黄疸(病的)溶血性疾患(ABO不適合など)を疑い、即精査。
生後2〜3日生理的黄疸基準値内かビルリビン値をチェック。
遷延(2週以降)母乳性、または胆道閉鎖症便の色を確認!

現場の知恵:黄疸の評価は「クラーマーの分類」が有名ですが、視診だけでは不十分。必ず経皮ビルリビン値(ミノルタ)で客観的な評価を行いましょう。


4. 予防処置とスクリーニング:令和のスタンダード

特に注目すべきは、ビタミンKの投与方法です。

① ビタミンK欠乏性出血症の予防(3か月法)

これまでは「出生時・生後1日・1か月健診」の3回投与(3回法)が主流でしたが、現在は「生後3か月まで毎週投与(3か月法)」が強く推奨されています。これは、3回法でも頭蓋内出血を防げなかった症例があったためです。

② 抗菌薬点眼

淋菌性結膜炎の予防として、エリスロマイシン眼軟膏などを出生直後に塗布します。

③ 各種スクリーニング

  • 先天性代謝異常等検査(タンデムマス): 生後5日頃に採血。
  • 聴覚スクリーニング: 生後3〜5日。同意を得た上で行い、結果を母子手帳に貼ります。
  • 胆道閉鎖症: 母子手帳の「便色カード」を用いて、お母さんに「この色(1〜3番)ならすぐ連絡して」と指導します。

5. 母子同室と母乳育児:安全性の確保

最近は「早期母子同室」が推奨されていますが、ガイドラインでは「安全への配慮」が強調されています。

  • 突然死(SIDS)予防: 添い寝による圧迫や窒息に注意。必ず仰向け寝
  • パルスオキシメータの活用: 生後2〜3時間までは適応期で不安定なため、監視下で行うことが望ましいです。
  • 「10か条」: WHO/UNICEFの「母乳育児成功のための10か条」に基づき支援しますが、脱水や体重減少(生理的体重減少は10%以内が目安)が強い場合は、適切に人工乳を補足する柔軟性も必要です。

6. 退院時の判断:早すぎることのリスク

「生後3日以内に退院」というケースもありますが、これには注意が必要です。

  • リスク: 重症黄疸や脱水の見逃し。
  • 対策: 生後3日以内退院の場合は、退院後$48\sim72$時間以内のフォローアップが必須です。
  • 社会的な目: エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)を用いて母親のメンタルを評価。育児不安が強ければ、保健所と連携して「産後ケア事業」などにつなぎます。

問題 医師国家試験レベル

問題1

生後1日の新生児。在胎39週、体重3,200gで正常分娩にて出生した。生後12時間の診察で、皮膚の黄染を認める。血清総ビルリビン値は12.0mg/dLであった。

この児への対応として最も適切なのはどれか。

A. 生理的黄疸であり、経過観察する。

B. 母乳を中止し、人工乳に切り替える。

C. 光線療法を開始し、原因精査(溶血の有無など)を行う。

D. 3か月までのビタミンK毎週投与を開始する。

E. 生後5日の代謝異常スクリーニングまで待つ。

【正解】C

【解説】

生後24時間以内の黄疸は「早発性黄疸」であり、病的なもの(溶血性疾患など)が強く疑われます。生後12時間で12.0mg/dLは明らかな異常値(光線療法基準を上回ることが多い)であり、直ちに治療と精査が必要です。


問題2

新生児の管理について、誤っているのはどれか。

A. 淋菌性結膜炎予防のために抗菌薬の点眼を行う。

B. ビタミンKの投与は、生後3か月までの毎週投与が推奨される。

C. 胆道閉鎖症の早期発見のために便色カードを活用する。

D. 聴覚スクリーニングは全例に強制実施される法定検査である。

E. 母親のメンタルヘルス評価にEPDSを用いる。

【正解】D

【解説】

A:正しい。

B:正しい。ガイドラインの重要ポイント。

C:正しい。

D:誤り。聴覚スクリーニングは「任意」の検査であり、インフォームドコンセントと同意が必要です(自治体の公費助成は多いですが)。

E:正しい。


まとめ

  1. 「24時間以内」の黄疸は即紹介: 病的黄疸を疑い、光線療法と原因精査を。
  2. ビタミンKは「毎週投与」: 生後3か月まで続けるのが令和の新常識。
  3. バイタルの「3つの数字」: 体温37℃前後、呼吸40~60、心拍120~160。
  4. 「なんとなく変」を信じる: 活気がない、皮膚色が悪い場合は、血糖と感染症をまず疑う。
  5. 社会背景も診る: 母親のEPDSと育児環境を確認。退院はゴールではなく、育児のスタート地点。

新生児の診察は「語らぬ患者」との対話です。ガイドラインという辞書を片手に、赤ちゃんのわずかなサインを見逃さない「鋭い目」を養ってください!

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