CQ611:妊婦の水痘(みずぼうそう)対策:母体・胎児・新生児を守るための全知識

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はじめに:なぜ妊婦の水痘は「緊急事態」なのか?

水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は非常に感染力が強く、空気感染(飛沫核感染)も起こします。 妊婦さんが水痘に感染すると、以下の3つの大きなリスクが生じます。

  1. 母体の重症化: 大人の水痘は肺炎や脳炎を合併しやすく、特に妊婦は死亡率が高いと報告されています。
  2. 先天性水痘症候群(CVS): 妊娠初期〜中期の感染により、児に四肢低形成や皮膚瘢痕、神経障害が生じるリスクがあります。
  3. 重症新生児水痘: 分娩直前・直後の感染は、母体からの移行抗体がないため、赤ちゃんの命を脅かします。

これらを防ぐための「予防」「曝露後対応」「治療」のタイムラインを整理していきましょう。


1. 予防とスクリーニング:まずは「免疫の有無」を知る

対策として基本は「かからないこと」です。

妊娠前のワクチン、妊娠中の指導

  • 水痘ワクチンは「生ワクチン」: 妊婦への接種は禁忌です。接種後は2か月間の避妊が必要です(推奨レベルA, C)。
  • 免疫情報の確認: 妊娠初期の問診で「水痘にかかったことがあるか?」「ワクチンを打ったか?」を必ず確認します。不明な場合は抗体検査(ELISA法など)を検討します。
  • 免疫がない妊婦への指導: 水痘患者との接触を徹底的に避けるよう指導します。

豆知識:うっかり打ってしまったら? もし妊娠に気づかずワクチンを接種してしまっても、これまでのデータで児への異常報告はありません。「中絶を考える必要はない」と優しく説明してあげましょう。


2. 接触してしまった!「曝露後」の対応

「昨日、水痘の子どもと1時間一緒にいました」という免疫のない妊婦さんが来たらどうしますか?

濃厚接触の定義

  • 同居家族が発症。
  • 患者と5分以上対面。
  • 同室に60分以上滞在。

曝露後の「ガンマグロブリン投与」

水痘に対する免疫がない妊婦が濃厚接触した場合、発症予防のために免疫グロブリンを投与します。

  • 理想は水痘免疫グロブリン(VZIG)ですが、日本では入手困難です。
  • 代用として、静注用ガンマグロブリン(IVIG)を2.5〜5g投与します(保険適用外ですが、ガイドラインで推奨されています)。
  • タイミング: 接触後、遅くとも10日以内であれば効果が期待できます。

3. 母体が発症してしまったら?

発疹(紅斑、丘疹、水疱、膿疱が混在)が出現したら、治療と感染拡大防止を同時に行います。

  • アシクロビル(ACV)の内服: 二次感染防止とともに投与を開始します(推奨レベルC)。
  • 重症化のサインを見逃さない: 呼吸器症状(咳、息切れ)が出たら、水痘肺炎の疑いで即入院・集中治療が必要です。この場合はアシクロビルの点滴静注を行います。
  • 隔離: 院内感染を防ぐため、陰圧室での管理が理想的です。

帯状疱疹はどうなの? 帯状疱疹は「再活性化」であり、ウイルス血症にならないため胎児への感染リスクはありません。 免疫グロブリンも不要です。ただし、皮疹から未感染者へ水痘として移ることはあるので、接触感染には注意します。


4. 【最重要】分娩前後の感染:魔の「5-2ルール」

ここが国家試験や専門医試験でもっとも狙われる、かつ臨床で一番怖いポイントです。

なぜ「分娩前5日〜産褥2日」が危険なのか?

  • 分娩前6日より前: 母体が感染しても、赤ちゃんが生まれるまでに母体で抗体が作られ、胎盤を通じて赤ちゃんに届くので、軽症で済みます。
  • 分娩前5日〜産褥2日: 赤ちゃんがウイルスに曝露される一方で、母体からの移行抗体が届く前に生まれてしまうため、赤ちゃんが無防備な状態で重症化(死亡率30%)します。

対応策

この期間に母体が発症した場合:

  1. 母体: アシクロビルを投与。
  2. 分娩抑制: 移行抗体が届く時間を稼ぐため、可能であれば子宮収縮抑制薬で分娩を数日遅らせる検討をします(保険適用外)。
  3. 新生児: 出生直後にガンマグロブリン(IVIG)を投与し、発症した場合は即アシクロビルで治療します。

演習問題 医師国家試験レベル

問題1

妊娠20週の水痘抗体陰性の妊婦。3日前に水痘を発症した甥と1時間室内で遊んでいた。この妊婦への対応として最も適切なのはどれか。

A. 水痘ワクチンを即日接種する。

B. アシクロビルの予防的内服を開始する。

C. 静注用ガンマグロブリンの投与を検討する。

D. 児に先天性水痘症候群が必発することを説明する。

E. 治療法はないため、発疹が出るまで待機する。

【正解】C

【解説】 A:妊婦に生ワクチンは禁忌。 B:曝露後の予防的投与としてのアシクロビルは一般的ではありません。 C:正解。免疫のない妊婦の濃厚接触後10日以内であれば、IVIG投与が推奨されます。 D:CVSのリスクはありますが、必発ではありません(中期で1.4%程度)。


問題2

水痘感染と分娩について正しいのはどれか。

A. 妊娠10週の感染は、20週の感染よりも先天性水痘症候群のリスクが高い。

B. 帯状疱疹を発症した妊婦には、速やかにガンマグロブリンを投与する。

C. 分娩前5日に母体が水痘を発症した場合、新生児は重症化しやすい。

D. 水痘ワクチン接種後、1か月間の避妊が必要である。

E. 授乳中の水痘ワクチン接種は禁忌である。

【正解】C

【解説】 A:CVSのリスクは妊娠中期(13-20週付近)が最も高いとされています。 B:帯状疱疹は胎児感染のリスクがないため、IVIGは不要です。 C:正解。「5-2ルール」の通り、移行抗体が間に合わないため重症化します。 D:ガイドラインおよび添付文書では「2か月」の避妊を推奨しています。 E:授乳中の接種は可能です。


まとめ

ブログの締めくくりに、実務で役立つポイントを振り返りましょう。

  • 問診が命: 妊娠初期に水痘の既往・ワクチン歴を必ずチェック。
  • 曝露後のスピード: 免疫なしの妊婦が接触したら、10日以内にIVIG!
  • 「5-2ルール」の徹底: 分娩直前の発症は新生児の命に関わる。産科・小児科の緊密な連携を。
  • 帯状疱疹はパニック不要: 胎児への直接的な影響はないことを説明して安心させる。
  • ワクチン後の避妊: 2か月間はしっかりと。

水痘は、適切な知識があれば防げる悲劇がたくさんあります。妊婦さんやその家族に正しい情報を提供し、母児ともに健やかな出産をサポートしましょう!

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