CQ004-2:分娩後の静脈血栓塞栓症(VTE)予防はどうする?

産科ガイドラインを勉強する

妊娠・分娩後の女性は血栓症(特に静脈血栓塞栓症:VTE)のリスクが高まるため、適切な予防対策が重要です。ここでは日本産科婦人科学会のガイドラインに基づき、分娩後のVTE予防についてポイントを解説します。


1.基本的な予防策

  • 脱水を避けること:水分補給や輸液により母体の脱水を防止し、血液がドロドロになるのを防ぎます。
  • 早期離床の推奨:術後できるだけ早く起きて歩くことで血液のうっ滞を減らします。
  • 体位の工夫:帝王切開時は開脚位や仰臥位で行い、砕石位での膝窩圧迫を避けることが望ましい。

2.機械的予防法

  • 間欠的空気圧迫法(IPC)や弾性ストッキングの使用が推奨されます。
  • 帝王切開を受ける女性では特に積極的にIPCや弾性ストッキングの使用を行います。
  • IPCは術中から開始し、歩行可能になると中止します。
  • 下肢に血栓の疑いがある場合は、IPCは禁忌であり超音波検査などの検査が必要です。

3.薬物療法(抗凝固療法)

  • 未分画ヘパリンまたは低分子量ヘパリンを用います。
  • 分娩後6〜12時間後(止血確認後は直後からも可)に開始し、1日2回皮下注射が基本。
  • 長期の抗凝固療法が必要な場合は、ワルファリンに切り替えますが、効果が出るまでヘパリンとの併用が必要です。
  • 授乳中の投与も基本的に安全であり、授乳中止は不要とされています。

4.リスク分類に基づく対応(表11-2参照)

  • 第1群(高リスク):分娩後の抗凝固療法または抗凝固療法とIPCの併用を行う。
  • 第2群(中リスク):抗凝固療法またはIPCを行う。
  • 第3群(低リスク):抗凝固療法またはIPCの検討。

妊娠中にVTEの既往がある場合や血栓性素因がある場合は特に注意が必要です。


5.注意点

  • ワルファリン開始時は皮膚壊死などの副作用に注意し、慎重な投与が必要。
  • 抗凝固療法の血液検査や麻酔処置のタイミングには注意が必要です(詳細はCQ004-1参照)。
  • IPCと弾性ストッキングの併用は相乗効果がないため、どちらかを選択することが多いです。

まとめ

分娩後のVTE予防は脱水回避と早期離床を基本に、リスクに応じて機械的予防法や抗凝固療法を組み合わせます。特に帝王切開後の女性はVTEリスクが高いため、積極的な予防が重要です。安全な授乳のためにも、適切な抗凝固療法の継続が推奨されています。

問題:
35歳の女性が帝王切開で出産後、分娩後6時間が経過した。患者には過去に深部静脈血栓症の既往があり、現在は歩行可能であるが、VTE予防のための適切な管理として最も正しいのはどれか。

  1. 抗凝固療法は分娩後24時間以降に開始する。
  2. 間欠的空気圧迫法は下肢に既知の血栓があるため禁忌である。
  3. ワルファリンを直ちに単独で開始し、ヘパリンは不要である。
  4. 抗凝固療法として未分画ヘパリンを分娩後6〜12時間後から開始し、歩行可能なため間欠的空気圧迫法は中止する。
  5. 弾性ストッキングの着用はVTE予防効果がないため不要である。

解答と解説:
正解:4

  • 抗凝固療法は未分画ヘパリンまたは低分子量ヘパリンを分娩後6~12時間後(止血確認後は直後からでも可)に開始するのが一般的。
  • 歩行可能であれば間欠的空気圧迫法は中止してもよい。
  • 間欠的空気圧迫法は血栓が既知の場合は禁忌だが、今回は既知の血栓の記載はない。
  • ワルファリンは効果発現に時間がかかるため、ヘパリンと併用する必要がある。
  • 弾性ストッキングは予防効果があるため不要とは言えない。

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