はじめに
研修医・医学生の皆さん、お疲れ様です!
産婦人科の外来や当直で「生理痛がひどくて…」と受診される患者さんは非常に多いですよね。超音波検査でチョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)があれば診断はスムーズですが、「エコーでは何も異常がないのに、のたうち回るほど痛い」というケースに遭遇したことはありませんか?
これこそが、今回解説する「嚢胞性病変を伴わない子宮内膜症(腹膜病変や深部病変)」の難しさであり、腕の見せ所です。ガイドラインをベースに、目に見えない敵とどう戦うか、ブログ形式で徹底解説します!
1. エコー正常=内膜症否定、ではない!
子宮内膜症には大きく分けて3つの形態があります。
- 腹膜子宮内膜症(腹膜病変): 腹膜に散在する小さな病変。
- 卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞): エコーで見える「袋」。
- 深在性子宮内膜症(深部病変): ダグラス窩や靭帯の奥深くに潜む硬結。
今回のテーマは「1」と「3」。これらは経腟エコーでは捉えにくいのが厄介な点です。内診で「子宮の動きが悪い(固定)」「ダグラス窩を押すと激痛が走る(痛性硬結)」といった身体所見が、画像診断以上に重要になります。
2. 治療のステップアップ:低コスト・低リスクから攻める
子宮内膜症は閉経まで続く慢性疾患です。ガイドラインでは「リスクとコストが低いものから」という原則に基づき、ステップアップ治療を推奨しています。
STEP 1:まずは鎮痛薬(NSAIDs)
まずは対症療法です。ロキソプロフェンなどのNSAIDsで痛みをコントロールします。
- 注意点: 鎮痛薬は「今ある痛み」を抑えるだけで、病気の進行を止める効果はありません。 漫然と数年も鎮痛薬だけで引っ張るのは、専門医としては「負け」に近い判断です。
STEP 2:ホルモン療法(第一選択)
鎮痛薬で不十分、あるいは病気の進行を抑えたい場合の「真の第一選択」です。
- LEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬): いわゆる「ピル」です。排卵を抑え、内膜を薄く保ちます。最近は「連続投与(休薬を置かずに数ヶ月飲み続ける)」タイプが主流で、月経回数を減らすことで疼痛日数を劇的に減らせます。
- ジエノゲスト(プロゲスチン製剤): ディナゲスト®など。排卵抑制に加え、病変に直接作用して萎縮させます。GnRHアゴニストに匹敵する効果がありながら、長期投与が可能です。
STEP 3:レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)
ミレーナ®のことです。
- メリット: 子宮内に留置するだけで5年間有効。全身への副作用(血栓症リスクなど)がほとんどありません。
- 適応: 子宮内膜症に伴う月経困難症に非常に有効で、最近はガイドラインでも強く推奨されています。
STEP 4:GnRHアナログ(第二選択)
- アゴニスト(リュープリン®等)/ アンタゴニスト(レルミナ®等): 強力にエストロゲンを下げて「偽閉経」状態にします。非常に効きますが、骨密度の低下や更年期症状が出るため、原則6ヶ月しか使えません。手術前の「追い込み」や、閉経間際の「逃げ切り」に使います。
3. 手術療法の立ち位置
「薬があるなら手術はいらないのでは?」と思うかもしれませんが、以下の場合は手術(主に腹腔鏡)を検討します。
- 薬物療法が無効な激痛: 深部病変などで癒着がひどい場合。
- 不妊症を伴う場合: 子宮内膜症に伴う不妊に薬物療法は無効です。妊娠を目指すなら、腹腔鏡下で病変を焼灼(焼き払う)したり癒着を剥がしたりすることが、妊孕能(にんようのう)向上に直結します。
4. 臨床子宮内膜症という考え方
ここが研修医の皆さんに最も覚えてほしいポイントです。 かつては「腹腔鏡で病変を視認してはじめて診断確定」とされてきました。しかし、今は違います。 「問診・身体所見・除外診断から子宮内膜症が強く疑われるなら、確定診断を待たずに治療を開始してよい」 これを**臨床子宮内膜症(Clinical Endometriosis)**と呼びます。痛みを我慢させて病気を進行させるより、早期介入してQOLを守ることが現代のスタンダードです。
問題 医師国家試験レベル
問題1
25歳の女性(未経産)。学生時代からの増悪する月経困難症を主訴に来院した。 現症:内診にて子宮は正常大、可動性は良好だが、ダグラス窩に軽度の圧痛を認める。 検査所見:経腟超音波検査および骨盤MRI検査で、子宮・卵巣に明らかな異常所見を認めない。CA125 45 U/mL(基準35以下)。 この患者への対応として適切でないのはどれか。
A. NSAIDsの処方
B. 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)の処方
C. レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)の挿入
D. ジエノゲストの処方
E. 診断確定のため、直ちに開腹による検索を行う
【正解】E
【解説】 エコーやMRIで異常がないため「腹膜子宮内膜症」が疑われます。A〜Dはいずれもガイドラインで推奨される有効な治療です。 E:正解(不適切)。 現代では低侵襲な薬物療法から開始するのが原則です。どうしても手術が必要な場合でも、まずは「腹腔鏡」を検討すべきであり、「直ちに開腹」は過剰侵襲です。
問題2
子宮内膜症の治療について正しいのはどれか。
A. 子宮内膜症に伴う不妊症に対し、ピルの投与は受胎率を向上させる。
B. GnRHアゴニストは骨量低下のリスクがあるため、通常2年間の継続投与を行う。
C. 鎮痛薬(NSAIDs)は子宮内膜症病変の進行を抑制する効果がある。
D. ジエノゲストは、GnRHアゴニストと比較して長期投与が可能である。
E. LNG-IUS(ミレーナ®)は、全身の血栓症リスクがLEPより高い。
【正解】D
【解説】 A:薬物療法は不妊治療には無効です(排卵を止めてしまうため)。 B:原則6ヶ月までです。 C:鎮痛薬は対症療法であり、進行抑制効果はありません。 D:正解。 ジエノゲストは骨量を比較的維持するため、長期使用が可能です。 E:LNG-IUSは局所作用がメインのため、全身の血栓症リスクはLEPより低いです。
まとめ
- 「エコー正常=異常なし」ではない: 問診と内診(痛性硬結)で病態を炙り出す。
- 「臨床子宮内膜症」で早期介入: 確定診断を待たずに、LEPやジエノゲストで「痛みの芽」を摘む。
- 「不妊には手術、痛みには薬」: 治療の目的(妊娠か除痛か)を明確にして、患者さんと術式・薬剤を選ぶ。
子宮内膜症は、患者さんの学業、仕事、そして人生のプランを大きく左右する疾患です。皆さんが適切に「臨床子宮内膜症」を疑い、早期治療を提案できるようになることで、救われる女性が確実に増えます。

コメント