はじめに
前置胎盤は、妊娠後期に突発的な出血を引き起こす重要な疾患であり、適切な管理が母児の生命を左右します。今回は、日本産科婦人科学会のガイドラインCQ304をベースに、研修医・医学生でも理解しやすい形で解説します。
前置胎盤の診断
診断の基本
- 経腹・経腟超音波により、胎盤が子宮内口にかかっているかどうかを確認します。
 - ただし、妊娠中期(20週頃)では「placental migration」による変化があるため、確定診断は妊娠30〜36週頃が適切。
 
診断のポイント
- 子宮下部の開大・伸展後が望ましい。
 - 判断に迷う場合は「前置胎盤疑い」として経過を見て、妊娠32週頃に再評価。
 
管理方針の決定
高次施設への紹介
- 自院で緊急対応が困難な場合 → 妊娠32週末までに高次施設受診を完了させる。
 - 警告出血は妊娠28週以降に増加するため、早めの紹介が望ましい。
 
自院で管理する場合
- 緊急帝王切開に対応できる体制(夜間・休日含む)を確保。
 - 低出生体重児や早産児に対応できる新生児管理体制も必要。
 
帝王切開の時期と準備
帝王切開の時期
- 低リスク例:無症状・癒着なし → 妊娠38週までに予定帝王切開。
 - リスクあり例(出血歴、頸管短縮など)→ 妊娠34~36週台に早めの帝王切開も検討。
 
手術の準備
- 輸血準備(自己血 or 同種血)
 - 癒着胎盤の可能性がある場合は多診療科連携と子宮全摘の可能性の説明
 - 麻酔科・放射線科・小児科とも事前に情報共有
 
癒着胎盤の併存への対応
- 既往帝王切開が多いほど癒着胎盤リスク増加(3回以上で60%!)。
 - 超音波やMRIでの事前評価を行い、合併が濃厚なら妊娠34~35週で計画的分娩も可。
 - バルーン、動脈塞栓術、子宮全摘も視野に入れておく。
 
インフォームド・コンセント
- 出血、輸血、子宮全摘のリスクについて、患者・家族に文書で同意取得。
 - 前置胎盤の病状について、早期に説明し理解を得る。
 - 最重症例では母体死亡のリスクもあるが、説明の可否は施設ごとに検討。
 
問題
32歳、2経妊2経産の女性。妊娠32週の妊婦健診で前置胎盤が疑われた。本人はこれまで出血歴はなく、自宅近くの産院での分娩を希望している。産院では夜間の帝王切開対応が困難であり、新生児集中治療体制もない。次にとるべき対応として最も適切なのはどれか。
A. 入院管理とし、妊娠38週で予定帝王切開
B. 妊娠36週まで経過観察し、改めて胎盤位置を評価
C. 妊娠37週まで経過観察し、分娩様式を検討
D. 妊娠32週末までに高次施設への受診を完了する
E. 自宅安静とし、出血時に来院を指導する
正解
D. 妊娠32週末までに高次施設への受診を完了する
解説
- 自院で緊急対応が困難な場合、出血リスクの高まる妊娠28週以降に備えて早めに高次施設へ紹介することが推奨されています。
 - ガイドラインでは、遅くとも妊娠32週末までに受診を完了させるように調整する必要があります。
 - 無症候であっても、出血は突発的であり、事前の対策が母体救命に直結します。
 
まとめ
前置胎盤は、「早期診断・早期転院判断・計画的手術とインフォームドコンセント」が管理の鍵です。日常診療でも出血リスクの評価と対応力が問われます。ガイドラインを活かした臨床判断を心がけましょう。
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