はじめに
妊娠中に糖代謝異常をきたすケースには、以下の3パターンがあります:
- 妊娠糖尿病(GDM)
- 妊娠中に初めて診断された明らかな糖尿病(Overt Diabetes in Pregnancy)
- 妊娠前から糖尿病がある妊婦
これらの管理は、母体・胎児ともに重篤な合併症を防ぐうえで極めて重要です。CQ005-2では、それぞれのケースでの血糖管理、妊娠末期の管理、分娩の方針などが詳しくガイドされています。
1. 食事療法とインスリン導入のタイミング
まず治療の基本は**食事療法(カロリーコントロール)**です。それで目標血糖値に達しなければ、インスリン療法を開始します。
目標血糖値の目安
時間 | 目標値(mg/dL) |
---|---|
空腹時 | 95未満 |
食後1時間 | 140未満 |
食後2時間 | 120未満 |
補助指標
- HbA1c:6.5%未満
- グリコアルブミン(GA):15.8%未満
Point: 内服薬(SU薬やメトホルミンなど)は、原則として妊娠中は避け、インスリンに切り替えます。
2. 妊娠後期の管理と分娩時期の決定
妊娠32週以降は、胎児のwell-being(健康状態)の評価が重要。NST(ノンストレステスト)などで定期的にチェックし、異常があれば入院管理も検討します。
妊娠37週以降では、以下のどちらかの方針を取ります:
- 頸管熟化を見て分娩誘発
- 自然陣痛の発来を待機
ただし、以下のような場合は個別に分娩時期や方法を決めるべきです:
- 血糖コントロール不良
- 合併症の悪化
- 巨大児が疑われる
3. 分娩時の管理
胎児管理
- 原則として**連続的胎児心拍数モニタリング(CTG)**を行う。
母体血糖コントロールの目標
- 70~120 mg/dLに維持するよう、5%ブドウ糖+必要に応じてインスリン投与
分娩後の注意点
- インスリン需要は急減するため、低血糖に注意!
- 投与量は分娩前の1/2~2/3を目安に調整
4. 新生児への影響と産後の対応
- 血糖コントロール不良や妊娠39週未満での帝王切開例では、**新生児呼吸窮迫症候群(RDS)**に注意が必要です。
- GDMの妊婦には、分娩後6~12週に75gOGTTを実施して耐糖能を再評価。将来の糖尿病発症リスクも高いため、長期フォローアップが推奨されます。
まとめ
- GDMの多くは食事療法+運動療法で対応可能
- 血糖コントロール不良ならインスリンへ移行(内服は原則不可)
- 分娩後は低血糖に注意してインスリン減量
- 胎児well-beingを見ながらNSTや分娩時期を調整
- GDMの母体は将来の2型糖尿病のハイリスク群
問題:
妊娠糖尿病(GDM)と診断された妊婦に対し、血糖自己測定と食事療法を開始したが、目標血糖値を超える日が続いている。次に適切な対応はどれか。
A. メトホルミンの内服を追加する
B. インスリン療法を導入する
C. HbA1cが6.5%未満なので経過観察とする
D. 糖負荷試験を再度実施する
E. 分娩まで待機する
解答: B. インスリン療法を導入する
解説:
妊娠中は内服薬の使用が原則禁忌であり(特に日本では)、血糖管理不良が続く場合はインスリン導入が第一選択です。HbA1cの基準は参考にはなりますが、食後高血糖が明らかであれば介入が必要です。
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