はじめに:
ある日、妊婦健診の外来で「最近、胎動が少ない気がするんです」と不安そうに話す妊婦さんが受診しました。胎動は赤ちゃんの「元気のサイン」。でもその“感じ方”はとても主観的で、個人差も大きい――。
あなたが産婦人科の研修医や医学生なら、「胎動が少ない」訴えをどう受け止め、どんな検査や対応を選ぶべきか迷うこともあるかもしれません。
今回は、**「胎動減少」を主訴に来院した妊婦さんへの対応について、産科診療ガイドライン2023(CQ007)**をベースに、わかりやすく整理してみます。国家試験対策としても活用できるよう、最後に確認問題もご用意しました。
胎動が減ったとき、まず考えるべきこと
胎動の減少は、胎児に何か異常が起きているサインである可能性があります。実際、胎児死亡(死産)や胎児発育不全(FGR)の前兆として胎動が減ることは多くの研究でも示唆されています。
ですので、妊婦が胎動の減少を訴えた場合は、その“感覚”を軽視してはいけません。
具体的にどう評価するのか?
胎動減少を訴える妊婦さんに対して、まず行うべきことは、胎児の「元気さ(=well-being)」を客観的に評価することです。
具体的には、以下のような検査が選択肢になります:
- NST(ノンストレステスト)
→ 胎児心拍のパターンを見る、最も基本的な検査です。 - 超音波検査
→ 羊水量・胎児の推定体重・血流などを評価します。 - **BPS(バイオフィジカルスコア)やCST(陣痛負荷試験)**なども検討されることがあります。
 
※ただし、これらの検査方法の優劣を比較したRCT(無作為比較試験)は存在しないため、実際は状況に応じて柔軟に判断します。
胎動カウントって本当に意味あるの?
胎動カウント(日々の胎動記録)は、周産期死亡の予防に有効なのか?
これは、今でも議論が続いているテーマです。
【賛成の立場】
- 胎動カウント導入後に死産率が低下したという観察研究がいくつか存在します。
 - カウントによって妊婦自身が異常に早く気づけるという副次的メリットも。
 
【慎重な立場】
- RCT(Grantら)では有意な効果は示されず。
 - Cochraneレビュー(2015年)、ACOG(2020年)いずれも「明確な有効性は不明」としています。
 
  つまり、**「やっても害はないけど、絶対にやるべきとも言い切れない」**というのが現時点のスタンスです。
ただし、不安軽減効果や、FGRの早期発見という点で価値はありそうです。
胎動カウントの実際
多くの施設で使われているのは:
- 10回胎動カウント法(Count to Ten)
→ 胎動を10回感じるまでにかかる時間を記録する。
→ 平均で15〜20分程度が一般的。 
「2時間かかっても10回感じなければ要受診」という基準を設けている施設もありますが、絶対的な基準はなく、「急に減った」と感じたら相談するよう指導するのが実用的です。
臨床のリアルポイント
- BMIが高い妊婦では、胎動の自覚が鈍くなりやすい。
 - 夜間や安静時のほうが胎動は強く感じやすい。
 - 妊娠後期は「胎動の強さ」はやや弱まってくることもあるが、それでも急激な減少は要注意。
 
また、常位胎盤早期剥離などの深刻な異常では、出血や腹痛よりも先に胎動減少が現れるケースもあります。
📝 まとめ:実際にどう動くか?
| 妊婦の訴え | 最初にやるべきこと | 
|---|---|
| 胎動が減った | 胎児のwell-being評価(NST、超音波) | 
| 明らかな異常なし | 胎動カウントを指導・継続観察 | 
| 胎児に異常所見あり | 状況に応じて入院・分娩誘発も検討 | 
妊婦さんの「なんとなく変だな」という直感が、胎児の命を救うこともあります。
そのサインに敏感でありたいですね。
問題:
妊娠36週の妊婦が「昨日から胎動が少ない」と訴えて受診した。NSTでは異常なく、超音波でも胎児発育・羊水量ともに正常である。次に行うべき対応として最も適切なのはどれか。
A. 帝王切開
B. 分娩誘発
C. 入院管理
D. 胎動カウントを指導する
E. 特に対応せず帰宅させる
正解:D. 胎動カウントを指導する
解説:
明確な異常が見つからなかったとしても、「胎動減少」は今後の変化を見逃さないよう継続的なモニタリングが重要です。胎動カウントは妊婦自身で日々の変化に気づける手段となるため、非常に有用です。
  
  
  
  

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