妊娠と甲状腺ホルモンの関係
- 甲状腺ホルモンは胎児の脳や神経発達に不可欠。
- 妊娠中はホルモン需要が増加 → ホルモンバランスの崩れやすい時期。
妊婦に甲状腺疾患を疑うサイン
- **バセドウ病(甲状腺機能亢進症)**の症状
→ 頻脈、体重減少、発汗、手の震え、神経過敏、眼球突出など - **橋本病(甲状腺機能低下症)**の症状
→ 無気力、眠気、体重増加、寒がり、便秘、むくみなど
➡ 症状や既往があれば検査(TSH, FT4)を行う!
妊娠中の検査と診断の流れ
TSH | FT4 | 疾患の可能性 |
---|---|---|
↓ | ↑ | 甲状腺機能亢進症(例:バセドウ病) |
↑ | ↓ | 甲状腺機能低下症(例:橋本病) |
その他の検査:
- FT3(T3トキシコーシスを疑うとき)
- 抗TPO抗体, Tg抗体(橋本病)
- TRAb(バセドウ病、胎児への影響を評価)
妊娠中の治療戦略
甲状腺機能亢進症(バセドウ病が最多)
- 第一選択:抗甲状腺薬(ATD)
- 妊娠初期(〜9週):**PTU(プロピルチオウラシル)**を使用(MMIは催奇形性がある)
- 妊娠中期以降:MMIに切り替えてもよい
- TRAb高値 → 胎児バセドウ病リスク → 胎児モニタリングが必要
- 放射性ヨード:胎児甲状腺に影響 → 禁忌!
甲状腺機能低下症(橋本病が最多)
- 第一選択:T4補充(レボチロキシン)
- 妊娠中は用量増加が必要なこともある
- TSHは4〜6週ごとに測定・調整
- 目標TSH値:<2.5μU/mL(妊娠初期)
胎児への影響
疾患 | 胎児へのリスク |
---|---|
甲状腺機能亢進症 | 胎児甲状腺腫、頻脈、低出生体重、胎児死亡など |
甲状腺機能低下症 | 神経発達遅延、知的障害、注意欠陥多動症(ADHD)など |
臨床ポイント
- 「TSH+FT4は妊娠中に必ず押さえる検査」
- バセドウ病の妊婦をみたら「妊娠初期かどうか+TRAbのチェック」が超重要
- 抗甲状腺薬は「奇形リスク+白血球減少リスク」あり → フォローアップ必須
- 甲状腺疾患は専門医との連携がマスト
問題
妊娠初期に動悸・体重減少・眼球突出を主訴に来院した女性。血液検査でTSHが著明に低下、FT4が上昇していた。妊娠は7週。適切な治療として正しいのはどれか。
A. チアマゾール(MMI)を投与する
B. プロピルチオウラシル(PTU)を投与する
C. 放射性ヨード治療を行う
D. 治療せず経過観察する
E. 甲状腺全摘術を行う
正解:B. プロピルチオウラシル(PTU)を投与する
解説:
- 妊娠初期(〜妊娠9週6日)はMMIが催奇形性あり → PTUが第一選択。
- 放射性ヨードは胎児甲状腺を破壊するため禁忌。
- 経過観察できるのは妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症(FT4は正常)であり、本例ではFT4上昇あり=治療必要。
- 手術療法は抗甲状腺薬が使えないときの最終手段。
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