【体験談+最新研究紹介】腰痛対策に「歩くこと」が効く?歩行時間と慢性腰痛の意外な関係

最新医学トピック解説

私には、産婦人科勤務医として働きながらも、ずっと大切にしてきた趣味がある――筋トレだ。学生時代から続けていたもので、勤務医となってからも、当直でない日は定時に帰宅してジムに通うという生活を送っていた。大学病院勤務だと難しいが、私の勤務先ではそれが可能だった。

しかし今から4年前、人生が変わるような出来事が起きた。息子が生まれた直後、デッドリフトで160kgを持ち上げた際、腰に異変を感じた。サポーターの位置が高かったことは気づいていたが、「まあ大丈夫だろう」と甘く見ていた。その瞬間、背中に嫌な感覚が走り、一気に全身へ痛みが広がった。

ぎっくり腰、急性腰痛症の発症である。整形外科では骨折がないと診断され、鎮痛薬のロキソニンを処方された。しかしその後も痛みは続き、特に「立ちっぱなし」が辛く、右足にしびれも出た。

こうして日常生活は送れるが、立ち続けるだけで痛むという不自由な状態が4年も続いた。そして、ようやく重い腰を上げて別の整形外科を受診。MRIでヘルニアが判明した。

整形外科医は「中等度のヘルニアで、こういう人は意外と日常生活を送っているものですよ」とのこと。そこから本格的にリハビリが始まった。

腹筋の弱さと姿勢が鍵

リハビリでは、私の体の使い方のクセが浮き彫りになった。反り腰、背筋の使い過ぎ、腹筋の弱さ――どれも腰痛を助長する要因だった。筋トレはしていたのに、腹筋が付かないと思っていたが、それはやり方が間違っていたからだった。

そして最近、私にとっても希望となるような論文に出会った。「歩行時間」が腰痛予防に寄与するというものだ。


【論文紹介】歩く時間が長いほど、慢性腰痛のリスクは下がる!

2025年6月13日にJAMA Network Open誌に掲載されたノルウェーの前向きコホート研究によると、

1日の歩行時間が101分以上の人は、78分未満の人に比べて慢性腰痛のリスクが23%も低い

という驚きの結果が報告された。

研究の概要

  • 対象:HUNT4研究に登録された11,194人(平均年齢55.3歳)
  • 方法:加速度計で歩行時間・強度を測定、平均追跡期間は約4.2年
  • 慢性腰痛の定義:12カ月の間に3カ月以上続く腰痛

主な結果

歩行時間(1日あたり)慢性腰痛リスク(相対リスク)
78分未満(第1四分位)1.00(基準)
78~100分0.87(95%CI:0.77~0.98)
101~124分0.77(95%CI:0.68~0.87)
125分以上0.76(95%CI:0.67~0.87)

さらに、65歳以上では歩行時間と腰痛予防の関連性がより顕著に認められた。

強度よりも「時間」が重要

ウォーキング強度(MET)も腰痛リスクと関係はあったが、歩行時間で補正すると、その関連は弱まった。つまり、

どれだけ速く歩くかよりも、どれだけ長く歩くかが大事

ということになる。

信頼性の高い研究設計

  • 歩行は**加速度計(ウェアラブル端末)**で客観的に測定
  • 慢性疾患や痛み既往などを除外する感度分析を複数実施
  • 交絡因子(年齢、性別、喫煙歴、うつ症状など)も調整済み

実生活への応用:「1日100分以上歩く」ことの価値

この研究は、私自身の体験とも非常にリンクする。

私がヘルニアとわかった後、徐々にウォーキングをリハビリに取り入れるようになった。実際に1日1万歩=約100分以上を目指して歩いている。すると、たしかに腰の違和感が軽減してきた感覚がある。

ウォーキングは何より「手軽」だ。道具もいらないし、ランニングのような衝撃も少ない。歩く習慣をつけることは、腰痛だけでなく心身の健康にもつながる。産婦人科医としても、妊婦さんや高齢女性にも「歩くこと」の重要性を伝えたいと感じる。


実践のポイント

  • いきなり長時間歩かなくてもよい。毎日少しずつ増やす
  • 腰に違和感があるときは、硬い路面ではなく土や芝生を歩くのも良い
  • 歩数で管理するなら、1日8,000~10,000歩を目標に

まとめ

慢性腰痛は誰にでも起こりうる問題であり、私自身もまさにその当事者だった。筋トレをしていたからこそ、正しい知識と方法がいかに大切かを身をもって学んだ。

そして今回の研究で明らかになったのは、日常的なウォーキングが腰痛の予防につながるということ。強度よりも**「時間」**が重要という点は、誰でも今から実践できる有益な知見だ。

筋トレも大切だが、まずは「歩くこと」から始めてみよう――。

腰痛に悩むすべての人に、この研究が希望となることを願っている。

コメント

  1. Nick より:

    こんにちは、とても興味深い記事をありがとうございます。医師としてのご経験と最新の研究を組み合わせた解説は、慢性腰痛に悩む多くの読者にとって非常に貴重な情報だと思います。

    歩行が腰痛予防に効果的という点は、特に「強度よりも時間が重要」という知見が実践的で素晴らしいですね。リハビリとして歩行を取り入れる際、特にご指摘の通り「硬い路面ではなく土や芝生を歩く」というのは痛みを感じる方には重要なアドバイスだと思いました。

    一点、質問があります。記事の中でリハビリや痛みの管理について触れられていますが、例えば生理食塩水(Physiologicasolのような製品情報:https://pillintrip.com/ja/medicine/physiologicasol)を注射するような他の治療法と歩行療法を組み合わせる場合の効果や注意点について、医師のご見解を伺えればと思います。特に、脱水症状や電解質バランスの調整が必要な患者さんにとって、運動と水分補給のバランスはどのように考えればよいのでしょうか?

    これからも、ご自身の体験を交えた有益な情報を楽しみにしています。

    • 夏のきつね より:

      こんにちは、丁寧なコメントとご質問をありがとうございます。記事を興味を持って読んでいただき、とても嬉しく思います。

      ご質問の「歩行療法と水分・電解質バランスの関係」についてですが、これは確かに運動習慣のある方や高齢の方にとって重要なテーマですね。

      まず、通常のウォーキングや軽度の運動レベルであれば、脱水や電解質の大きな乱れはほとんど起きません。私自身も趣味でランニングをしており、20kmほど走ることもありますが、その程度でも水分補給とバランスの良い食事を心がけていれば、特別な電解質補正が必要になることはほとんどありません。

      むしろ、過剰に生理食塩水を補うことや、電解質ドリンクを飲みすぎることのほうが、ナトリウム過剰などのリスクにつながることがあります。人の体は非常に巧妙にできていて、脱水や電解質のアンバランスが生じると、口の渇き、倦怠感、吐き気など、何らかのサインを出してくれます。そうした信号を感じたら、まずは休息と水分補給を優先するのがよいと思います。

      一方で、脱水傾向や電解質異常を起こしやすい持病のある方(腎疾患、心疾患、利尿薬使用中など)は、運動中の水分摂取量やタイミングについて、主治医と相談しておくことをおすすめします。歩行自体は安全な運動ですが、背景疾患によっては水分調整が治療の一部になる場合もあります。

      基本的には、「汗ばむ程度のウォーキング+こまめな水分補給」で十分です。気温や体調に合わせて、無理のない範囲で歩くことが大切だと思います。

      今後も、こうした日常の工夫や体験を通じて、少しでも実践的な健康情報をお届けできればと思っています。引き続き読んでいただけたら嬉しいです。

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