はじめに
分娩誘発は、母体や胎児の状態から「予定日を待たずに出産を進める」必要があるときに行われます。
しかし、子宮頸管が十分にやわらかく開いていない状態で陣痛を起こしても、分娩はスムーズに進みません。そこで重要になるのが「頸管熟化(けいかんじゅくか)」です。
CQ412-2は、日本産科婦人科学会の産科診療ガイドラインの中で、分娩誘発に先立つ頸管熟化や拡張を行う際の安全管理・注意点についてまとめた項目です。
この記事では、ガイドラインを丸写しせず、背景や臨床現場での実践ポイントを交えて解説します。
頸管熟化とは?
子宮頸管は妊娠後期まで硬く閉じていますが、分娩が近づくと柔らかく短くなり、徐々に開き始めます。これを頸管熟化といいます。
頸管熟化が不十分な状態で陣痛を起こすと、
- 分娩が長引く
- 帝王切開率が上がる
- 母体・胎児に負担がかかる
などのリスクがあります。
そこで、人工的に頸管を熟化させる処置が行われます。
頸管熟化法の分類
1. 器械的頸管熟化法
物理的に頸管を広げる方法で、日本では以下がよく使われます。
- 吸湿性頸管拡張材(日本ラミナリア桿、ダイラパン®、ラミセル®など)
- バルーン(メトロイリンテル、フォーリーカテーテルなど)
特徴
- 陣痛発来までに時間がかかることがある
- 感染や臍帯脱出などのリスクがある
- 陣痛促進剤との併用は原則避ける
2. 薬剤性頸管熟化法
主に**プロスタグランジンE2製剤(PGE2)**を使用します。
日本では、**腟内留置型ジノプロストン製剤(プロウペス®)**が2020年から使用可能となりました。
特徴
- 比較的早く頸管熟化と陣痛が起こる
- 過強陣痛や胎児機能不全のリスク
- モニタリングが必須
実施前の説明と同意が必須
いずれの方法でも、利益とリスクを文書で説明し同意を得ることが必須です。
特に以下のリスクは強調して説明する必要があります。
- 感染
- 過強陣痛
- 臍帯脱出
- 胎児機能不全
- 帝王切開の可能性
実施のタイミング
頸管熟化は入院中に行うのが原則です。
外来での実施は、急変時の対応が遅れるリスクがあるため推奨されません。
感染対策と前期破水例の注意
前期破水がある場合は特に感染に注意します。
- 定期的に血算・CRPをチェック
- 感染徴候(発熱・子宮圧痛・胎児心拍数変化)を観察
- 必要時は抗菌薬投与
プロスタグランジンE2製剤(プロウペス®)使用時の注意
使用条件
- 原則、妊娠37週以降
- 投与中は分娩監視装置で連続モニタリング
- 器械的頸管熟化法との同時使用禁止
薬剤除去の条件
以下のいずれかが起きた場合は速やかに除去し、再投与はしません。
- 3分以内の間隔で痛みを伴う規則的な子宮収縮
- 過強陣痛
- 破水
- 胎児機能不全
- 全身副作用(悪心・嘔吐・低血圧など)
前期破水例
破水により薬剤の放出速度が上がり、過強陣痛リスクが増すため注意が必要。
早産期での使用
添付文書では推奨されませんが、禁忌ではありません。海外報告では有効性・安全性が示されています。
器械的頸管熟化法の注意点
吸湿性頸管拡張材
- 水分を吸収して膨張し、頸管を広げる
- 感染リスクは近年の報告では増加しない
- 陣痛促進剤との併用は禁止(過強陣痛リスク)
メトロイリンテルの容量別リスク
- 40mL以下:頸管熟化目的
- 41mL以上:分娩促進作用が強く、臍帯脱出リスクも増加
使用時の注意
- 臍帯下垂がないか確認
- 陣痛発来時はモニタリング
- 破水・腟外脱出時は臍帯脱出確認
- 帝王切開が即応できる体制を確保
フォーリーカテーテル使用時
- 本来は泌尿器用器具 → 目的外使用
- メトロイリンテル40mL以下と同様の注意を適用
子宮収縮薬併用のタイミング
- メトロイリンテルまたはプロウペス®除去後1時間以上あける
- 添付文書上、同時または短時間での併用は禁忌
臍帯脱出時の対応
- 胎児予後は発症から娩出までの時間に依存
- 胸膝位など骨盤高位をとらせる
- 用手的に先進部を挙上
- 迅速に帝王切開(例外的に吸引分娩)
問題
問題1
プロウペス®使用中に3分以内の間隔で強い陣痛が発生した。適切な対応はどれか。
A. オキシトシン点滴開始
B. プロウペス®を除去し、再投与する
C. プロウペス®を除去し、再投与しない
D. 分娩促進のため器械的頸管熟化法を併用
E. そのまま経過観察
正解:C
解説:過強陣痛や頻発陣痛が生じた場合は速やかに除去し、再投与しません。
問題2
メトロイリンテル使用時の注意点で正しいのはどれか。
A. 臍帯脱出のリスクはない
B. 破水後も確認不要
C. 容量41mL以上では頸管熟化目的として扱う
D. 挿入前に臍帯下垂の有無を確認する
E. 帝王切開が即応できなくても使用可能
正解:D
解説:臍帯下垂確認は必須。41mL以上は分娩促進目的であり、リスクも高い。帝王切開即応体制が必要。
問題3
吸湿性頸管拡張材の使用時に避けるべき併用はどれか。
A. オキシトシン
B. フォーリーカテーテル
C. メトロイリンテル
D. 経口PGE2製剤
E. バルーンブージー
正解:A
解説:器械的頸管熟化中の子宮収縮薬投与は過強陣痛リスクがあるため禁忌。
まとめ
CQ412-2は、分娩誘発前に頸管熟化を安全に行うための具体的な指針を示しています。
- 実施前の説明・同意は必須
- 入院下での実施が原則
- 感染・過強陣痛・臍帯脱出への注意
- プロウペス®はモニタリング必須、異常時は除去・再投与なし
- 器械的頸管熟化法と子宮収縮薬の同時使用は禁止
- メトロイリンテル容量とリスクを理解して使用することが重要
現場では「安全性の確保」と「迅速な対応」が分娩誘発成功の鍵です。

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