はじめに
妊娠12週未満の人工妊娠中絶は、母体保護法のもとで行われる医療行為であり、安全性と倫理的配慮が強く求められます。本記事では、日本産科婦人科学会ガイドラインCQ205の内容を噛み砕いて解説し、日常診療に役立てる視点を提供します。
法律と制度の確認
- 母体保護法を順守することが前提。
 - 指定医師の管理下でのみ実施可能。
 - 原則として本人と配偶者の同意が必要(例外あり。DVや配偶者の所在不明等では厚労省通知に準拠して判断)。
 
ポイント:手術適応、同意取得、規定の届出の3点が重要。
手術前の評価
妊娠週数の正確な把握
- 最終月経日や超音波計測で確定。
 
既往・合併症の確認
- 心疾患、てんかん、ワルファリン内服中などは要注意。
 - EPA含有サプリメントなども術前に把握する。
 
子宮の状態確認
- 超音波で以下を評価:
- 子宮の大きさ・屈曲
 - 胎盤付着部位
 - 筋腫・奇形・帝王切開瘢痕部妊娠の有無
 
 
術前検査
- 必須:
- ABO血液型・RhD型
 - 血算(Hb低下確認)
 - 感染症(クラミジア・淋菌)
 - 心電図(モニター代用可)
 
 - Rh陰性の場合は術後に抗D免疫グロブリンの投与を検討。
 
手術説明と同意取得
- 手術法・麻酔法・合併症・術後経過について口頭&文書で説明。
 - 特に、穿孔・感染・出血・麻酔関連のリスクに触れる。
 
術中・術後管理
- 術中は心肺モニタ(パルスオキシメータ・心電図等)装着。
 - 静脈路確保・酸素投与体制・緊急対応薬剤を準備。
 - 全身麻酔時は入院管理も検討。
 
術後の評価・フォロー
- 摘出物に絨毛があるか確認(なければ異所性妊娠も考慮)。
 - 術後7日目頃に再診し、遺残確認(経腟超音波で評価)。
 - 少量出血や軽い腹痛は許容だが、中等量出血・発熱は再診を。
 
避妊指導
- 反復中絶防止のため、退院前に適切な避妊法について指導。
 - 月経再開時期や妊娠可能性についても説明。
 
手術法の選択肢
日本では主に以下の2つが用いられます:
- 掻爬法(D&C)
 - 吸引法(手動/電動吸引、MVAなど)
 
手技の選択は妊娠週数・術者の熟練度により決定。
海外の状況(参考)
- アメリカやイギリスでは**薬物療法(ミフェプリストン+ミソプロストール)**が主流。
 - 日本では2023年に製剤が承認され、日本でも選択され始めている。
 
問題
妊娠9週、経妊2経産2の女性が人工妊娠中絶を希望して来院した。妊娠12週未満での手術に際して適切な対応はどれか。2つ選べ。
A. 摘出物に絨毛が含まれているかを確認する。
B. 術前に抗D免疫グロブリンを投与する。
C. 術後は特にフォローアップは不要である。
D. 術中のモニタリングは不要である。
E. 妊娠歴や合併症歴を確認する。
正解
A, E
解説
- A:正しい。 絨毛の有無は異所性妊娠の除外に重要。
 - B:誤り。 Rh陰性でかつ胎児がRh陽性である可能性がある場合、術後に抗Dグロブリンを投与する。
 - C:誤り。 術後7日目頃に遺残物確認のため再診が必要。
 - D:誤り。 術中はパルスオキシメータや心電図による監視を行う。
 - E:正しい。 手術の安全性確保のために妊娠歴・既往歴・アレルギー歴等の確認は必須。
 
おわりに
CQ205は、単なる「手技の手順」ではなく、妊娠中絶を行う際の医療倫理・リスク管理・患者支援の観点が詰まった重要な項目です。医師としての姿勢が問われるテーマでもあるため、日々の臨床でもこの視点を忘れないようにしましょう。
  
  
  
  
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