CQ606:妊娠中にHBs抗原陽性が判明!ガイドラインに基づく母子感染対策と母体管理

産科ガイドラインを勉強する

はじめに なぜ「B型肝炎」は産婦人科医・小児科医の必須知識なのか

B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染は、放置すれば児を「一生のキャリア」にしてしまいます。乳幼児期にキャリア化すると、将来的に慢性肝炎、肝硬変、そして肝細胞がんへと進行するリスクを背負わせることになります。

しかし、現代の医療では適切な管理を行えば、母子感染はほぼ100%防げる時代になりました。 2023年の最新ガイドラインで特に注目すべきは、「母体のウイルス量に応じた抗ウイルス薬の投与」です。これを理解しているかどうかが、若手医師の腕の見せ所となります。


1. 検査の第一歩|HBs抗原陽性が出たら次に何をすべきか?

妊娠初期検査でHBs抗原(HBsAg)が陽性と出た場合、その妊婦さんはほぼ間違いなくHBVキャリア(持続感染者)です。

まず行うべき「追加検査」

単に「陽性でした」で終わらせず、以下の項目を直ちにチェックします。

  1. HBe抗原 / HBe抗体: ウイルスの増殖能力(感染力)の指標。
  2. HBV-DNA量(定量): ウイルスが血液中にどれくらい存在するか(IU/mL)。これが治療方針を決めます。
  3. 肝機能(AST/ALT): 母体自身の肝炎の活動性を評価。

なぜHBe抗原を測るのか?

  • HBe抗原(+): ハイリスク群。ウイルス増殖が盛んで、対策なしだと児のキャリア化率は80〜90%に達します。
  • HBe抗原(ー): ローリスク群。児のキャリア化は稀ですが、一過性感染による劇症肝炎のリスクがゼロではないため、対策は必須です。

2. 【最重要アップデート】テノホビル(核酸アナログ製剤)の導入

近年のガイドラインで最大の変更点が、「妊娠28週からのテノホビル投与」です。

投与が必要な基準

母体のウイルス量が非常に多い場合、出生後のワクチンだけでは防ぎきれない「胎内感染」のリスクが生じます。

  • 基準値:HBV-DNA 5.3 log IU/mL(または 200,000 IU/mL)以上

この基準を超えた場合、母子感染阻止率を高めるために、妊娠28週から分娩までテノホビル(テノゼット等)を投与することが推奨されています(推奨レベルC)。

なぜテノホビルなのか?

  • 薬剤耐性が生じにくい。
  • 胎児への安全性が比較的高いことが国際的に証明されている。
  • **「第一子で母子感染を防げなかったケース」**でも、第二子で投与することで成功した事例が多く報告されています。

3. プライバシーと告知|患者さんへどう説明するか

HBVは血液・体液を介して感染します。つまり、性交渉や共同生活における注意が必要です。

  • 告知の原則: 結果を配偶者や家族に伝えるかどうかは、「妊婦本人の意思」を尊重します(推奨レベルB)。
  • アドバイス: 家族が未感染(HBs抗体陰性)であれば、家族へのワクチン接種を勧めるのが親切です。
  • 内科連携: 産婦人科医だけで抱え込まず、必ず肝臓専門医(内科)への受診を勧めましょう。分娩後の肝炎再燃リスクがあるからです。

4. 出生児への「鉄壁」のプロトコル

赤ちゃんが生まれた瞬間から、時間との戦いが始まります。小児科との連携が不可欠です。

標準的な母子感染防止スケジュール

  1. 出生直後(12時間以内): HBグロブリン(HBIG)を筋肉注射。
    • HBワクチン(第1回)を接種。
  2. 生後1か月: HBワクチン(第2回)を接種。
  3. 生後6か月: HBワクチン(第3回)を接種。

成功したかどうかの確認

生後9〜12か月に採血を行い、

  • HBs抗原が陰性
  • HBs抗体が陽性(10 mIU/mL以上) であれば、「完全勝利(予防成功)」です!

5. 授乳制限は必要か?

かつては「母乳からの感染」が懸念された時期もありましたが、現在は明確に否定されています。

  • ガイドラインの結論: 上記の感染防止策(HBIG+ワクチン)を適切に行っていれば、授乳を制限する必要はありません(推奨レベルB)。
  • お母さんには「自信を持って母乳を与えて大丈夫ですよ」と伝えてあげましょう。

医師国家試験・専門医試験対策問題

問題1

HBs抗原陽性の妊婦の管理について適切なのはどれか。 A. 帝王切開が強く推奨される。 B. 母体のHBV-DNA量に関わらず妊娠初期から抗ウイルス薬を投与する。 C. 児へのHBワクチンは生後6か月から開始する。 D. HBe抗原陽性妊婦の出生児は、対策なしでは高確率でキャリア化する。 E. ウイルス量が多い場合でも母乳栄養は一切禁忌である。

【正解】D 【解説】 A:分娩様式(経膣か帝切か)で感染率に差はないため、産科的適応で決める。 B:投与開始は妊娠28週から。また、高ウイルス量(5.3 log IU/mL以上)が対象。 C:出生後12時間以内(できるだけ早く)に開始する。 E:適切な予防処置下では授乳制限は不要。


問題2

B型肝炎母子感染対策において、出生直後の児に投与する組み合わせとして正しいのはどれか。 A. HBs抗原 + HBワクチン B. HBs抗体 + HBグロブリン C. HBグロブリン + HBワクチン D. 抗ウイルス薬 + HBワクチン E. ステロイド + HBグロブリン

【正解】C 【解説】 受動免疫(HBIG)と能動免疫(ワクチン)の両輪でブロックするのが基本。


まとめ|CQ606の臨床ポイント

B型肝炎の管理を完璧にするための5ステップをまとめました。

  1. スクリーニング: 全妊婦にHBs抗原検査。
  2. 追加精査: 陽性ならHBe抗原、HBV-DNA、肝機能を即チェック。
  3. 抗ウイルス薬: HBV-DNA 5.3 log IU/mL以上なら、28週からテノホビル
  4. 児の処置: 生後12時間以内のHBIG+ワクチン。小児科へ確実なバトンタッチを。
  5. 長期フォロー: お母さんは内科へ、児は1歳まで抗体確認。

HBVキャリアの妊婦さんは、自身が感染源であることに強い罪悪感や不安を感じていることが多いです。「今の医療なら、赤ちゃんを守ることができますよ」という一言を添えられる医師を目指しましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました