CQ202:妊娠12週未満の流産診断時の注意点とは?

産科ガイドラインを勉強する

はじめに

妊娠初期における流産の診断と対応は、患者さんの身体的・精神的負担が大きく、医療者としても慎重な判断が求められる場面です。特に12週未満での流産では、診断の確実性・異所性妊娠の除外・患者への説明の仕方など、さまざまな配慮が必要となります。

本記事では、「産婦人科診療ガイドライン2023」CQ202の内容をもとに、医療者が実践すべきポイントをわかりやすく解説していきます。


流産診断時の5つの基本的注意点

① 患者・家族への共感的対応

妊娠初期の流産は、妊娠全体の15%程度に起こる一般的な現象ですが、多くの患者さんにとってはショックの大きな出来事です。

  • 原因の多くは胎児因子(染色体異常など)
  • 自責の念を持たないよう配慮する
  • 「あなたのせいではない」というメッセージを明確に伝える

共感と傾聴の姿勢が第一歩です。


② 異所性妊娠を除外する

流産と似たような症状(性器出血、下腹部痛)を呈する疾患の代表が異所性妊娠です。

  • 子宮内に胎嚢が確認できない場合、流産と即断しない
  • **正所異所同時妊娠(特にART後)**の可能性も考慮

→ 必ず超音波検査で異所性妊娠の可能性を評価しましょう。


③ 流産診断は慎重に(特に稽留流産)

a)胎児が見えない場合

  • 1回の超音波検査では確定しない
  • 1〜2週間後に再検査(排卵遅延の可能性もある)

b)胎児が見えても心拍なし

  • 心拍確認には慎重を要する
  • 再検査・複数の医療者による確認も考慮

胎嚢径が25mm以上や胎児頭殿長(CRL)が7mm以上でも心拍が確認できない場合は、流産と診断できるが、患者への配慮を欠かさず。


④ 流産診断後の対応:治療の選択肢と注意点

a)治療法の種類

  • 待機的管理(自然排出を待つ)
  • 外科的治療(子宮内容除去術)

どちらもメリット・デメリットがあるため、患者とよく話し合って決定することが重要

b)それぞれのリスク

治療法リスク
待機的管理出血、子宮内遺残、胞状奇胎の診断遅延
外科的治療子宮穿孔、頸管裂傷(合併症の頻度は比較的低い)

c)治療方法の選択に影響する要因

  • 大量出血がある場合 → 外科的治療
  • 感染の兆候がある場合 → 外科的治療
  • 患者が早期に心身の区切りをつけたい場合 → 外科的治療を希望することも

d)手術方法について

WHOの推奨は吸引法(MVAや電動吸引)>D&C
→ MVAは保険適用されており、侵襲性が低いとの報告もあります。


⑤ 血液型の確認とRhD陰性妊婦への対応

  • 全例でABO式およびRh式血液型を確認
  • RhD陰性妊婦には抗D免疫グロブリン投与を検討

これは将来の妊娠へのリスクを回避するために重要です。


関連知識

死産証書の発行要件

  • 妊娠12週以降の死産にのみ必要
  • 妊娠12週未満で死亡が確認された場合 → 不要

流産後の次回妊娠について

  • 待機療法・手術療法ともに妊孕性への影響は少ない
  • 約8割が5年以内に生児を得ているという報告も
  • 長期避妊の必要はない

問題

妊娠初期(10週)の妊婦が、性器出血を主訴に来院した。超音波で胎芽が確認できるが心拍が確認できない。この場合の対応として正しいのはどれか。

A. 稽留流産と診断し、直ちに子宮内容除去術を行う
B. 流産と診断し、抗菌薬を投与する
C. 異所性妊娠は否定されているので追加検査は不要
D. 心拍確認を複数回行い、慎重に診断する
E. 胞状奇胎の可能性があるため化学療法を開始する

正解:D

解説:
胎芽が見えていても心拍が確認できない場合には、再検査や複数医師での評価を行い、慎重に稽留流産と診断する必要があります。診断確定を急ぎすぎないことが重要です。A・B・C・Eはいずれも時期尚早または不適切。


まとめ

流産の診断と対応は、知識・技術に加えて患者への配慮も非常に重要な場面です。医学生・研修医としては、単に知識を覚えるだけでなく、患者さんに寄り添いながら診療にあたる姿勢を大切にしてください。

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