CQ412-1:分娩誘発の方法と注意点

産科ガイドラインを勉強する

はじめに

分娩誘発(Induction of labor)は、産婦人科臨床で頻繁に行われる処置の一つです。自然に陣痛が来るのを待たず、医療的に子宮収縮を促して分娩を進めるこの方法は、母体や胎児の安全確保、または妊娠を適切なタイミングで終わらせるために重要な役割を果たします。

しかし、分娩誘発は「便利だから使う」ものではありません。
適応の有無、安全条件の確認、方法の選択、患者説明の4つがそろって初めて安全に実施できます。

この記事では、産婦人科ガイドラインCQ412-1の内容をベースに、臨床で役立つ知識をわかりやすく解説します。医学生から初期・後期研修医まで使える内容にし、最後には確認問題も掲載します。


1. 分娩誘発とは?

分娩誘発は、自然に陣痛が始まる前に医療的に分娩を開始させる処置です。
目的は大きく分けて3つです。

  • 母体の安全確保
    例:妊娠高血圧症候群の悪化予防
  • 胎児の安全確保
    例:胎児発育不全で子宮内環境が悪化している場合
  • 妊娠週数の管理
    例:過期妊娠(41週以降)で胎盤機能低下を防ぐ

2. 分娩誘発の実施前に必ず確認すべき条件

ガイドラインでは、**「要約(criteria)」**として次のような条件を満たすことを求めています。

  1. 母児ともに経腟分娩に耐えられる状態であること
  2. 子宮収縮や頸管熟化などの準備が整っていること
  3. 児頭骨盤不適合(CPD)の所見がないこと
  4. 必要時に帝王切開ができる施設で実施すること
  5. 妊娠週数が正確に把握できていること

さらに、社会的適応(例:夫の立会い、遠方在住)で行う場合はCQ405で定められた条件も必要です。


3. 分娩誘発の主な適応

CQ415-1に基づく主な適応例をまとめます。

  • 妊娠高血圧症候群
  • 前期破水(感染リスク回避)
  • 胎児発育不全(FGR)
  • 妊娠41週以降(過期妊娠)
  • 巨大児(条件付き)
  • 社会的適応(条件を満たす場合)

適応の判断には、薬剤添付文書+ガイドライン独自の基準の両方を満たす必要があります。


4. 方法選択のカギ:頸管熟化

分娩誘発の成功率を大きく左右するのが頸管熟化の程度です。
特に初産婦では、頸管が硬く短縮していない状態で誘発すると帝王切開率が高くなります。

評価方法

  • Bishop score
    6点以下 → 頸管熟化不良
    3点以下 → 非常に不良
  • 経腟超音波による頸管長評価(研究で有用性報告あり)

頸管熟化不良(Bishop score ≤6)の対応

  • 器械的頸管拡張(例:メトロイリンテル)
  • プロスタグランジンE2腟用剤(プロウペスⓇ)
  • 分娩誘発の延期(緊急性がなければ)

頸管熟化非常に不良(Bishop score ≤3)

  • 子宮収縮薬は原則使用しない(過強陣痛・胎児機能不全リスク)

5. 主な分娩誘発法

5-1. 卵膜剥離(Membrane stripping)

  • 方法:内診で指を頸管内に入れ、卵膜を子宮壁から剥離
  • 効果:自然陣痛発来促進
  • 長所:薬剤不要、比較的簡便
  • 短所:疼痛・不快感、少量出血
  • エビデンス:分娩誘発の必要性を減らすが、帝王切開率や死産率の改善効果なし
  • 注意:患者説明必須

5-2. 器械的頸管拡張

  • :吸湿性頸管拡張材、バルーンカテーテル、メトロイリンテル
  • 長所:薬剤副作用なし
  • 短所:疼痛、感染リスク
  • 使いどころ:頸管熟化不良例で薬剤を避けたい場合

5-3. 子宮収縮薬

  • オキシトシン
    • 静脈点滴で投与
    • 即効性あり
    • 注意:過強陣痛、胎児心拍異常
  • プロスタグランジンE2(腟用・経口)
    • 頸管熟化促進+収縮誘発
    • 注意:下痢、発熱
  • プロスタグランジンF2α
    • 主に進行中の分娩促進に使用

6. 実施時のモニタリング

  • 母体バイタル(血圧、脈拍、体温)
  • 胎児心拍数(NST)
  • 陣痛強度・頻度
  • 分娩進行の定期評価

7. 分娩誘発を避けるべき場面

  • 頸管熟化が非常に不良で緊急性なし
  • CPDの疑い
  • 胎児の状態が不安定(まずは救急帝王切開検討)

8. 患者への説明例

「今回、〇〇さんの場合は妊娠が〇週を過ぎていて、赤ちゃんやお母さんの安全のために分娩を始めた方が良いと考えています。方法としては頸管を柔らかくする処置と、陣痛を促す薬を使う方法があります。それぞれメリットとリスクがあり、もしうまく進まなければ帝王切開に切り替えることもあります。」


9. 臨床エピソード

私が後期研修医の頃、41週を過ぎた初産婦の誘発例で、Bishop scoreはわずか2点。指導医から「頸管熟化が進んでないと無理やりオキシトシンを入れても徒労だよ」と教えられ、まずメトロイリンテルを使用。その翌日、Bishop scoreが6点まで上がり、オキシトシンでスムーズに経腟分娩できた経験があります。


問題

38歳、初産婦。妊娠41週3日で来院。Bishop scoreは4点。胎児推定体重は2,900g、児頭骨盤不適合なし。母児ともに安定。分娩誘発を行うことになった。適切なのはどれか。

A. オキシトシンの点滴静注で誘発開始
B. プロスタグランジンE2腟用剤で頸管熟化
C. 即時帝王切開
D. 卵膜剥離を必ず実施
E. 誘発を2週間延期

正解:B
解説:頸管熟化不良(Bishop score ≤6)の場合は、まず熟化促進を行う。オキシトシンは頸管熟化良好例で有効。帝王切開は適応なし。卵膜剥離は必須でない。過期妊娠では延期不可。


まとめ

  • 分娩誘発は適応・条件・方法選択・安全管理が必須
  • 成功のカギは頸管熟化の評価(Bishop score)
  • 頸管熟化不良では器械的拡張やプロスタグランジン製剤
  • 子宮収縮薬は適応・禁忌を遵守
  • 誘発前の患者説明とリスク共有が重要
  • ガイドラインは**CQ412-1+関連CQ(CQ415-1など)**を参照

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