よく笑う人ほどうつになりにくい?――6年間の追跡研究から見えた“笑い”の力

最新医学トピック解説

はじめに

「最近あまり笑っていないな…」そんな自分に気づいたことはありませんか?
仕事や家事、勉強に追われる毎日、ふと気づくと口角が下がり、笑う回数が減ってしまうことは誰にでもあります。でも、笑いって単なる楽しい気分だけじゃなく、心と体の健康に実は大きな影響を与えているかもしれません。

最近、日本の研究者たちが行った「6年間にわたる追跡研究」で、日常的に笑う頻度と“うつ”の発症リスクの関係を調べたデータが注目されています(Tamada et al., 2025)。今回はその研究結果をもとに、笑いが心の健康にどう影響するのか、また日常生活で簡単に取り入れられる笑い習慣についてわかりやすく紹介していきます。

1. 笑いと心の健康――なぜ注目されるのか?

私たちは子どもの頃から「笑顔は最高のコミュニケーション」と教えられます。実際、笑うことで気分が軽くなることは誰もが経験しているはずです。でも、笑いが心理的な健康、特に“うつ”の予防にどれだけ影響するのか、科学的にはまだ明確にされていませんでした。

これまでの研究では、笑いを取り入れた短期的な介入(たとえば笑いヨガやお笑い鑑賞など)で、数週間〜数か月の間に気分が改善することが示されていました(van der Wal & Kok, 2019)。しかし、日常生活の中での「自然な笑い」が長期的にうつの発症リスクにどのように影響するかを調べた研究はほとんどありませんでした。


2. 6年間の追跡でわかったこと――笑う頻度とうつの関係

東北大学を中心とした研究チーム(Tamada et al., 2025)は、2016年から2022年までの6年間に、日本全国の65歳以上の高齢者約3万3千人を対象に調査を行いました。参加者には「普段どのくらい笑っていますか?」という質問をし、回答を「ほぼ毎日」「週に1〜5日」「月に1〜3日」「ほとんど笑わない」の4つのカテゴリーに分けました。

そして、2022年時点でうつの症状が現れたかどうかを追跡したところ、驚くべき結果が出ました。

  • ほぼ毎日笑う人:うつ発症率 10.6%
  • 週に1〜5日笑う人:うつ発症率 15.7%
  • 月に1〜3日笑う人:うつ発症率 21.7%
  • ほとんど笑わない人:うつ発症率 30.0%

統計的に調整した結果、「ほとんど笑わない人」は「ほぼ毎日笑う人」に比べて、49%も高いリスクでうつを発症することがわかりました(Tamada et al., 2025)。さらに、笑う頻度が少ないほどリスクが高まるという明確な「用量反応関係(dose-response relationship)」も確認されました。

つまり、日常的に笑う回数が多い人ほど、うつになりにくい可能性が高いということです。


3. 笑いの力は単なる気分転換じゃない

では、笑うことで本当に心が守られるのでしょうか?
研究者たちは、笑いが心身に与えるさまざまな影響を指摘しています。

生理的な効果

笑うことでストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が減り、血圧や心拍数も安定します(Kramer & Leitao, 2023)。また、免疫細胞の働きが活発になることも報告されており、体の抵抗力アップにもつながる可能性があります(Bennett & Lengacher, 2009)。

心理的・社会的な効果

笑いは単なる表情の変化ではなく、他人とのつながりを深める重要なコミュニケーション手段です(Scott et al., 2014)。家族や友人と一緒に笑うことで、孤独感が減り、社会的サポートが増えることでうつリスクが下がると考えられます(Santini et al., 2020)。

この研究では、参加者の社会活動への参加状況も調整して解析されました。つまり、ただ単に社交的な人だから笑っているわけではなく、笑うこと自体が心の健康に影響している可能性が示されたのです。


4. 「自然な笑い」が大切

よく笑う習慣は、決してお笑い番組を無理に見たり、笑いヨガに通う必要はありません。研究では、日常生活の中での自然な笑い、たとえば友人との会話や家族との会話の中で笑うことが、うつリスクの低下に寄与すると考えられています(Tamada et al., 2022)。

ポイントは「無理に笑わないこと」。笑いを強制するのではなく、日常の中で自然と笑顔が出る機会を増やすことが大切です。


5. 若い世代にも笑いの習慣を

今回の研究は高齢者を対象としていますが、心の健康という観点では若い世代にも応用できます。働き盛りの20〜50代は、仕事のストレスや家庭での役割などで精神的な負担が大きくなりがちです。笑いを日常に取り入れることで、ストレス軽減やうつの予防につながる可能性があります。

例えば、

  • 同僚とランチ中に笑い話を共有する
  • SNSで面白い動画を見て自然に笑う
  • 家族と一緒にボードゲームやおしゃべりで笑う

など、日常生活の中で自然に笑える機会を増やすだけでも効果が期待できます。


6. 研究の限界と注意点

もちろん、この研究にはいくつかの注意点もあります。

  1. 自己申告の笑い頻度
    「今日どれくらい笑ったか」を自分で答える方式のため、実際の笑い回数と差があるかもしれません。たとえば「笑っていると思っているけど実際は少ない」とか「笑うべきと考えて多く答えた」というバイアスの可能性があります。
  2. 観察研究であること
    今回の研究は「観察研究」です。つまり、笑いが直接うつを防いだのか、それとも他の要因(睡眠や性格、生活習慣)が影響していたのかを完全には分けられません。それでも、研究チームは事前のうつ症状や社会参加などを調整して解析しており、信頼性の高い結果と考えられます。
  3. 文化的背景
    笑いの習慣や意味は国や文化によって異なる場合があります。この研究は日本の高齢者を対象としたものであり、海外の人々にそのまま当てはまるかは限定的ですが、笑いの生理的・心理的効果は比較的普遍的である可能性があります。

7. まとめ:笑いを生活に取り入れるヒント

6年間の追跡研究から明らかになったのは、「日常的に笑うこと」が長期的な心の健康に寄与する可能性がある、ということです。特に高齢期だけでなく、若い世代にとっても、笑いの習慣を持つことはうつ予防のヒントになります。

今日からできる簡単な笑い習慣

  • 家族や友人との会話でユーモアを取り入れる
  • 面白い動画や漫画で1日数分でも笑う
  • 運動や趣味の場で、笑顔を交わす
  • 笑顔日記をつけて、自分が笑った出来事を記録する

ポイントは「楽しむこと」が前提で、義務感で笑おうとする必要はありません。小さな笑いを積み重ねることが、心の健康に大きな効果をもたらすのです。


参考文献

  • Tamada Y, Saito M, Ohira T, et al. Frequency of laughter and depression onset among older adults: A 6-year longitudinal study from the Japan Gerontological Evaluation Study. J Affect Disord. 2025 Sep 4;392:120209. doi: 10.1016/j.jad.2025.120209. Online ahead of print.

ポイント
日常の何気ない笑いも、科学的には心の免疫力を高める可能性がある。忙しい毎日でも、1日数分の笑いを大切にするだけで、心の健康を守る助けになるかもしれません。

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