はじめに:歯や舌の衰えは「体のSOS」かもしれない
年を重ねてくると、「歯が弱くなる」「口が乾く」「舌が動かしにくい」といった口のトラブルが少しずつ増えてきます。
しかし、そうした口の変化が単なる老化ではなく、高血糖・脂質異常症・腎機能低下といった生活習慣病と関係していることが分かったらどうでしょうか。
今回、藤田医科大学の研究グループが行った調査で、
“口腔機能の低下”と“生活習慣病の血液検査値の異常”が関連している
という結果が発表されました。
口の機能と生活習慣病がどうつながるのか。
なぜ口のチェックが健康管理の第一歩になるのか。
一般の読者にもわかりやすいように、この研究をもとに解説していきます。
1. 今注目される「お口と全身の関係」
「歯周病が糖尿病を悪化させる」という話を耳にしたことがある方も多いでしょう。
実際に、近年の研究では、
- 歯周病は糖尿病と相互に悪影響を及ぼす
- 動脈硬化や心臓病のリスクと関連する
- 腎臓病(CKD)との関係も強い
など、口の中の状態と全身の病気が深く関わっていることが続々と明らかになっています。
さらに近年は「噛む力」「舌の動き」「唾液量」など、
口の機能そのものの低下が、栄養状態や全身の健康に影響するという知見が増えてきました。
★ポイント
口の機能が落ちると、
- 食べられるものが偏る
- 噛む刺激が減って脳や筋肉への良い刺激が弱まる
- 口の中で細菌が増えやすい
など、さまざまな不健康の“入口”になると考えられています。
2. 研究の概要:50歳以上の118人を対象に「血液検査」と「口腔機能」を比較
藤田医科大学の研究チームは、
2021年と2023年に同大学病院で健康診断を受けた50歳以上の118人を対象にしました。
調査した項目は以下の通りです。
◆ 血液検査(生活習慣病に関連)
- 空腹時血糖値(GLU)
- HbA1c(糖尿病の指標)
- HDL(善玉コレステロール)
- LDL(悪玉コレステロール)
- BUN(腎機能)
- eGFR(腎機能)
これらが “基準値の範囲内”か“範囲外”か を判定。
◆ 口腔機能のチェック(7項目)
- 舌苔指数(TCI)
舌にどれくらいコケ(白い苔)がついているか - 口腔乾燥度(ODN)
舌がどれくらい乾いているか - 残っている歯の数(RTN)
- 口腔ダイアドコキネシス(OD)
「パ・タ・カ」を素早く繰り返せるか - 舌圧
舌の力 - 咀嚼機能(MFN)
噛む力 - 嚥下機能(EAT-10)
食べ物を飲み込む機能
3. 研究結果:血糖・脂質・腎機能が悪い人ほど、口腔機能が低い
ここからが非常に興味深いポイントです。
研究の比較では、生活習慣病のリスクが高いグループほど、口の機能が明らかに低いという結果が続々と示されました。
(1)血糖値・HbA1cが高い人は…
→「歯の数が少ない」「舌の動きが鈍い」**
- 残っている歯が少ない
- 「タ」「カ」を言うスピードが遅い(舌の動きがにぶっている)
糖尿病の悪化で血管が傷つくと、歯ぐきの炎症が悪くなったり、口の筋肉の動かし方が弱くなると言われています。
(2)脂質異常(HDL低値・LDL高値)の人は…
→「舌の汚れが多い」「舌の運動が低下」**
- 舌苔指数(TCI)が高い
- OD(口腔ダイアドコキネシス)が低い
舌に汚れが溜まるのは、舌の動きが弱ったり、唾液が少なくなったりすると起こりやすくなります。
(3)腎機能(BUN・eGFR)が悪い人は…
→「歯が少なく」+「舌苔が多く」+「舌の動きが低い」**
腎臓の調子が悪い人ほど、
- 舌の汚れが多い
- 歯が少ない
- 「タ」「カ」の発音速度が遅い
という傾向が明確に見られました。
慢性腎臓病(CKD)は「口の中が不潔になりやすい」ことが以前から知られていますが、今回の結果もこれを裏付けるかたちです。
4. 口の機能が落ちるとなぜ生活習慣病とつながる?
研究では因果関係までは断定していませんが、
医学的には次のようなメカニズムが考えられます。
① 舌や歯の機能低下 → 食べられる食品が偏る
口の機能が衰えると、
- 肉
- 野菜
- 海鮮
- 玄米
など“噛む力が必要で栄養価の高い食材”が食べにくくなります。
その結果、
炭水化物や軟らかい甘いものに偏る → 生活習慣病のリスク上昇
という流れが起きやすくなります。
② 舌苔や歯周病 → 炎症が全身に広がる
舌や歯ぐきに細菌が増えると、炎症物質が血流に乗って全身に広がり、
- 糖尿病の悪化
- 動脈硬化の進行
- 腎機能の低下
につながることが知られています。
③ 口が乾く → 唾液が減り、細菌が増える
唾液には“自浄作用”があり、細菌から体を守ります。
口が乾くと細菌が増え、炎症が悪化しやすくなります。
④ 口の機能低下 → frailty(フレイル)へ
口腔機能の低下は、
- 食事量の低下
- 筋肉量の低下
- 活動性の低下
につながり、体全体の弱り(フレイル)を進める要因になります。
5. この研究からわかること:
「口の健康は全身の健康の入り口」**
今回の研究は観察研究のため、
「口が悪い → 病気が起こる」と断定できるわけではありません。
しかし、
口腔機能が低い人ほど、生活習慣病のリスク指標が悪い
という結果は明確に示されました。
つまり、家で簡単に気づける
- 歯の数
- 舌の汚れ
- 口の乾き
- 舌や唇の動き
といった“口のサイン”が、体の健康と深く関わっているということです。
6. では、どうすれば「お口の健康」を守れる?
ここからは、今日からできる実践的な対策を紹介します。
① 1日2回の歯磨き + 舌清掃を習慣化しよう
舌苔は細菌の温床。
舌ブラシで「奥から手前にやさしく1日1回」取るだけで清潔が保ちやすくなります。
② 口が乾く人は「唾液腺マッサージ」がおすすめ
- 耳下腺
- 顎下腺
- 舌下腺
をやさしく押して刺激すると唾液が出やすくなります。
③ 「パ・タ・カ体操」で舌や唇を鍛える
5秒間の発音を繰り返すだけで舌の筋肉が鍛えられます。
- パ:唇の動き
- タ:舌の先
- カ:舌の奥
食事・会話・飲み込みの全てに効果的。
④ 定期的に歯科健診を受ける
「痛くないから行かない」では遅いことが多いです。
半年〜1年ごとの健診は、口だけでなく全身の病気予防につながります。
⑤ よく噛んで食べる習慣をつける
噛む回数が増えると、
唾液が出る → 血糖が上がりにくくなる → 満腹感が得やすい
という良いことだらけ。
7. まとめ:口の中は“健康の鏡”。あなたの体の未来を映している
今回紹介した研究からわかることは、
口の機能が落ちる=生活習慣病のリスクサイン
ということです。
口腔機能の低下は自覚しにくく、気づいたときには
「栄養が偏っている」「筋力が落ちている」「飲み込みにくい」
など、全身の不調が進んでいることも少なくありません。
だからこそ、
口の健康を守ることは “病気の予防”かつ“健康寿命を伸ばす” 上で非常に重要なポイントになります。
最後に:今日できるチェックをしてみてください
- 舌が白くなっていない?
- 口が乾きやすくない?
- 「タ・カ」が言いにくくない?
- 硬いものが噛みにくくない?
- 歯医者に半年以上行っていない?
一つでも当てはまれば、
それは体からの小さなSOSかもしれません。
お口のケアは、あなたの未来の体を守る第一歩。
ぜひ今日から始めてみてください。
References
Kanie H, Yoshida M, Yokoi M, Okamoto M, Sasaki H, Ono K. Relationship Between Blood Test Results and Oral Function Tests in Individuals Undergoing Regular Physical Examinations. J Oral Rehabil. 2025 Sep;52(9):1261–1266. doi: 10.1111/joor.13977. Epub 2025 Apr 17. PMID: 40247468.


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