はじめに:添付文書の「禁忌」、本当に絶対使っちゃダメ?
医学生や研修医の方にとって、「添付文書上禁忌=絶対NG」と思いがちですが、実際には**「特定の状況下なら妊娠中でも使用される薬」**が存在します。
この記事ではその背景と、代表的な薬剤について解説します。
添付文書の「禁忌」の定義とは?
添付文書上の「禁忌」は、薬機法に基づき製薬企業が作成します。
ただし記載の背景は複雑で、記載要領が旧版か新版かによって意味合いも異なるため注意が必要です。
旧記載要領(~2019年3月までのもの)
- 「投与を避けること」「使用しないこと」などの表記
 - 「原則禁忌」も存在
 
新記載要領(2019年4月~)
- 「妊婦は禁忌」「投与しないこと」など、より明確な表記に一本化
 - 「原則禁忌」は廃止され、「特定の背景を有する患者に関する注意」に集約
 
ポイント: 添付文書の記載は「絶対NG」ではなく、あくまでガイド。患者にとっての利益>リスクの判断が重要。
妊娠中でも使われる「禁忌薬」たち(代表例)
以下の薬剤は「添付文書上は禁忌」だけれど、インフォームドコンセントの上で実際に使われることがあります。
| 薬剤名 | 使用されるケース例 | 備考 | 
|---|---|---|
| カルベジロール | 妊娠中の心機能低下、重症心不全 | 欧米では使用推奨例あり | 
| ビソプロロール | 同上 | 胎児発育不全などに注意 | 
| ニカルジピン | 妊娠高血圧症候群の治療 | ヒトでの催奇形性データなし | 
| ワルファリン | 機械弁置換後など、ヘパリンに切り替え困難な例 | CQ004-1参照 | 
| アスピリン(低用量) | 抗リン脂質抗体症候群、妊娠高血圧予防 | 妊娠36週まで推奨。以降は中止が望ましい | 
| コルヒチン | 家族性地中海熱など | ヒトではリスク低。FMFに限り禁忌ではない | 
| イトラコナゾール | 深在性真菌症 | ヒトでの催奇形性データは否定的 | 
臨床的ポイント
- 禁忌だから使えないではなく、母体への利益が明らかに上回る状況では使用も選択肢に入る
 - 使用の際は、十分なインフォームドコンセントと、PMDAの副作用救済制度の確認が必須
 - 添付文書の記載だけをうのみにせず、最新のガイドライン・海外文献も参照
 
問題
問題
妊娠中の使用が添付文書上「禁忌」とされている薬剤について、特定の状況下で使用が検討されうる薬剤として最も適切なのはどれか。
A. リシノプリル
B. ビソプロロール
C. トレチノイン
D. バルプロ酸ナトリウム
E. ミソプロストール
正解:B. ビソプロロール
解説
- A(リシノプリル):ACE阻害薬。胎児腎機能障害・羊水過少・死亡のリスクがあり、妊娠中は禁忌(代替あり)。
 - B(ビソプロロール):添付文書上は禁忌であるが、心不全合併妊婦での有益性投与の例がある。CQ104-2にも記載あり。
 - C(トレチノイン):ビタミンA誘導体。強力な催奇形性あり(胎児奇形との関連が証明されている)。禁忌。
 - D(バルプロ酸):中枢神経奇形(神経管閉鎖障害)などとの関連が強く、代替薬あり。
 - E(ミソプロストール):妊娠維持に重要なプロスタグランジン受容体に作用。妊娠中は原則使用不可。
 
まとめ
医師として、単に「禁忌」と書いてある薬を機械的に避けるのではなく、母体と胎児の利益を天秤にかけて考える視点を持ちましょう。
ガイドラインを読む際も、「本当にその薬がNGなのか?」を自分で判断できる力が求められています。
参考
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対象除外医薬品等
医薬品・医療機器・再生医療等製品の承認審査・安全対策・健康被害救済の3つの業務を行う組織。
  
  
  
  
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