はじめに
胞状奇胎(Hydatidiform mole)は、絨毛性疾患の一つで、妊娠関連疾患として初期診療において重要な位置を占めます。特に「見逃してはいけない疾患」であり、初期の所見・対応がその後の経過に大きな影響を及ぼします。
今回は、ガイドラインに基づきながらも丸写しではなく、重要ポイントを整理・解説します。
診断のポイント:見逃さないために
妊娠反応陽性+超音波で多嚢胞状の像
妊娠反応が陽性で、超音波検査にてぶどうの房のような所見(多数の小嚢胞)が見られた場合、胞状奇胎を強く疑います。
- 全胞状奇胎:胎児要素なし。典型的なぶどう状絨毛。
- 部分胞状奇胎:胎児成分を伴うことがある。見落としやすい。
hCG測定は必須
超音波で疑ったら、血中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を測定します。
- 全胞状奇胎では極端に高値となることが多い。
- 部分胞状奇胎では正常妊娠と同程度もあり注意。
子宮内容除去術+病理提出
疑いがある、または肉眼的にぶどう状の絨毛を確認した場合は、必ず病理提出を行いましょう。たとえ術前に疑っていなかったとしても、手術中の肉眼所見に敏感になることが大切です。
除去後の管理(一次・二次)
一次管理:hCGが下がるまで
除去術後は、1〜2週間ごとに血中hCGを測定します。
- 減少が順調であれば、5週:<1000、8週:<100、24週でカットオフ未満が目安。
- これを「一次管理」といい、hCGがカットオフ値以下になるまでフォロー。
ポイント: 減少が悪い、または途中でhCGが上がる場合は侵入奇胎や絨毛癌の可能性を疑って画像評価を。
二次管理:hCGが陰性化した後もフォロー
hCGがカットオフ未満になっても3〜4年間は定期的に測定します。
- この期間中のhCG上昇は、新しい妊娠か、絨毛癌の再発かの鑑別が必要。
- 原則、この間の妊娠は避けるように指導します。
鑑別・特殊検査
- p57Kip2免疫染色は、全胞状奇胎(父由来ゲノムのみ)の診断に有用(陰性になる)。
- 部分胞状奇胎や流産絨毛では陽性。
- 必要に応じてDNA多型解析なども参考になります(研究的検査)。
問題
妊娠9週の女性。妊娠悪阻様症状と性器出血を訴えて受診。経腟超音波にて子宮腔内に胎児心拍は認めず、多数の小嚢胞状構造を認める。尿中妊娠反応は陽性。血中hCGは200,000 mIU/mL。次に行うべき対応として最も適切なのはどれか。
A. 子宮内容除去術を行い、内容物を病理検査に提出する
B. 経過観察とし、1週間後に再度超音波検査を行う
C. 入院して化学療法を開始する
D. 子宮全摘術を施行する
E. 胎児の生存を期待し、妊娠継続を指導する
正解
A
解説
典型的な全胞状奇胎の臨床像です(高hCG+多囊胞像)。まずは子宮内容除去術を行い、病理検査に提出して確定診断を得ます。経過観察や妊娠継続は誤り。化学療法や子宮全摘は、侵入奇胎や絨毛癌に進展した場合に検討されます。
まとめ
超音波+hCGで疑う
肉眼所見も見逃さず、病理提出
hCGフォローは長期戦(3〜4年)
hCGの動きに注意して、続発疾患を早期にキャッチ!



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