CQ306-2:羊水過少の診断と管理をガイドラインから学ぶ

産科ガイドラインを勉強する

はじめに

妊婦健診で「子宮が小さい」「胎動が少ない」などと指摘されたとき、頭に浮かぶ鑑別のひとつが羊水過少です。

羊水量は、胎児の腎機能や胎盤機能、羊膜の状態などを反映するため、羊水過少は胎児・母体の異常のサインかもしれません。

今回は、産婦人科診療ガイドラインCQ306-2に沿って、羊水過少の診断と対応をわかりやすく解説していきます。


羊水過少とは?:診断のポイント

診断のきっかけ

  • 子宮底長が小さい
  • 胎動が減っている
  • 前期破水後の健診
  • 胎児発育不全(FGR)が疑われる場合

こうした場合には、羊水量を評価する超音波検査が必要です。


羊水量の評価方法(CQ306-1と共通)

方法羊水過少の基準
MVP(最大羊水深度)2cm未満
AFI(羊水インデックス)5cm未満

羊水過少の原因は?

ガイドラインでは、羊水過少の原因を「時期別」と「要因別」に分けて考えるよう推奨しています。


出現時期で分けると…

妊娠中期(~28週ごろまで)

  • 胎児泌尿器系の異常(腎無形成・尿路閉塞など)
  • 染色体異常や遺伝子疾患
  • 予後不良のことが多く、肺低形成による新生児死亡のリスクが高い

➡ この時期に羊水腔が確認できないほどの重度羊水過少は要注意!


妊娠末期(37週以降)

  • 胎盤機能不全(妊娠高血圧症候群、抗リン脂質抗体症候群など)
  • 前期破水
  • 生理的な羊水減少(過期妊娠)
  • 一部は原因不明

原因別分類

分類主な原因例
母体側妊娠高血圧症候群、自己免疫疾患、NSAIDsやACE阻害薬など
胎児側腎無形成、尿路閉塞、FGR、染色体異常、胎児死亡
胎盤・羊膜側前期破水、胎盤梗塞、双胎間輸血症候群
不明約半数が原因不明とされる

羊水過少が見つかったらどうする?

Step1:原因検索(推奨A)

  • 妊娠中期なら胎児の泌尿器系をチェック
  • 破水がないか?薬剤性ではないか?胎盤機能は?
  • 胎児形態異常や染色体異常の評価も考慮

Step2:胎児のwell-being評価(推奨B)

  • 胎動
  • NST(ノンストレステスト)
  • 羊水量・臍帯血流・胎児発育の超音波評価

➡ 特に妊娠後期では胎児機能不全の兆候を見逃さないことが重要


Step3:分娩のタイミングは?

  • 妊娠37週以降の羊水過少では、分娩誘発と待機的管理で予後に差はないとする研究あり
  • 一方で、34~36週の早産例では、分娩誘発によって帝王切開リスクが減ったという報告も

➡ 分娩のタイミングは羊水過少の重症度・胎児状態・在胎週数を踏まえて個別に判断


実臨床でありがちな誤解

「羊水が少ない?じゃあすぐに分娩だ!」

と焦りがちですが、それだけでは早計です。

  • 原因が破水なら感染兆候の確認も必要
  • 妊娠中期の重度羊水過少なら胎児異常を強く疑う
  • 妊娠末期なら生理的減少の可能性もあり、胎児評価で分娩可否を決める

問題

妊娠30週の妊婦。子宮底長が小さく、胎動も少ないという。超音波で最大羊水深度(MVP)は1.0cm。胎児膀胱は描出されず、腎臓も確認できなかった。最も考えられる胎児異常はどれか。

A. 尿道下裂
B. 腎無形成
C. 無脳症
D. 胎児貧血
E. 胎盤早期剝離


正解

B. 腎無形成


解説

  • MVP 1.0cm → 明らかな羊水過少
  • 膀胱が描出されず、腎臓も確認できない → **無機能腎(腎無形成や重度腎異形成)**を示唆
  • 尿が作られないため羊水が作れず、結果として羊水過少になる
  • この場合、肺低形成による新生児死亡リスクが高い

まとめ

  • 羊水過少は、「子宮底長の過小」や「胎動減少」から疑う
  • MVPやAFIによる評価で診断し、原因検索が最重要(推奨A)
  • 特に妊娠中期の重度羊水過少では胎児の予後が悪く、泌尿器異常が多い
  • 妊娠末期では胎盤機能不全や破水が多く、**胎児well-being評価(推奨B)**で分娩時期を検討
  • 原因不明例も多いため、慎重な経過観察と総合判断が求められる

羊水量は、胎児の「生きる力」を映す鏡です。
診断だけで終わらず、「なぜ少ないのか?」を掘り下げ、次の一手につなげる姿勢が、良い産科医への第一歩です。

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