はじめに
妊婦や授乳婦の飲酒については、ガイドラインでも非常に明確なメッセージがあります。
「禁酒が原則」です。
でも、なぜそこまで厳しいのでしょうか? 何が問題になるのか?どう説明すれば納得してもらえるのか?
本記事では、研修医や医学生の目線で、産婦人科ガイドラインCQ109を噛み砕いて解説し、国試レベルの演習問題もご紹介します。
妊婦の飲酒はなぜいけない?
胎児への影響は深刻
妊娠中の飲酒によって最も懸念されるのが、
**胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD:fetal alcohol spectrum disorders)**です。
FASDは以下のような障害を含みます:
- 顔貌異常(小頭症、短い眼裂、平坦な人中など)
- 発育不全(体重・身長ともに低い)
- 中枢神経障害(知的障害、多動、注意欠如)
- 学習障害、行動異常
さらに、胎児死亡・小児白血病・常位胎盤早期剥離・妊娠高血圧症候群などのリスクも報告されています。
日本人女性でもリスクあり
- 飲酒率は年々増加傾向。
- 特に妊娠を自覚する前の飲酒は珍しくなく、初診での問診が重要です。
妊娠中は「禁酒」が基本
「少しならいい」はNG
アルコール摂取に安全な量(閾値)は存在しないとされています。
したがって、「少しだけ飲む」は推奨されません。
ポイント:「安全な飲酒量は存在しない」→禁酒を勧める
医療者の指導で行動は変わる
- モチベーション面接や動画による教育はFASDの予防に効果的。
- 継続して飲酒している場合はアルコール依存症の可能性も考慮し、精神科への紹介を検討。
授乳婦はどうする?
母乳にアルコールは移行する
- 飲酒後、血中アルコール濃度と比例して母乳にもアルコールが移行。
- ピークは飲酒後約2時間。
→ 授乳まで2時間以上あけることが推奨されます。
授乳中のポイント
- 飲酒したからといって授乳を完全に避ける必要はない。
- ただし、過剰な飲酒は分泌量の低下・乳児への影響を招くため注意。
臨床現場での対応まとめ(医療者の立場で)
| 対象 | 推奨される対応 |
|---|---|
| 妊婦初診時 | 飲酒習慣の有無を問診で確認 |
| 飲酒している妊婦 | FASDのリスクを説明、禁酒を明確に指導 |
| 継続的な飲酒あり | 依存症の可能性を疑い、精神科紹介も視野に |
| 授乳婦 | 飲酒は2時間空ける、母乳のメリットが勝ると説明 |
問題
妊娠中の飲酒に関して正しいのはどれか。
A. 適量であれば胎児への影響はない
B. 胎児性アルコール・スペクトラム障害は顔貌異常を含まない
C. アルコールは胎盤を通過しない
D. 妊娠中の禁酒はFASDの予防に有効である
正解:D
**解説:**妊娠中の飲酒はFASDを引き起こすリスクがあり、予防には完全な禁酒が最も効果的です。
妊娠初期の外来で妊娠に気づかず飲酒をしていた妊婦がいた。対応として適切なのはどれか。
A. 少量であれば問題ないので経過観察とする
B. 禁酒を指導し、FASDリスクについて説明する
C. 胎児奇形リスクがあるので妊娠中絶を提案する
D. 授乳期に入るまでは自由に飲酒してよいと伝える
正解:B
**解説:**初期に飲酒歴があっても、今後の禁酒によってリスクを最小限に抑えることができるため、説明と禁酒指導が重要です。
まとめ
- 妊娠中・授乳中のアルコール摂取は胎児・乳児の健康に明確なリスクがある。
- 医療者の早期介入と指導が効果的。
- 「少しならOK」ではなく、禁酒が原則。
- 国家試験でも頻出、現場でも遭遇しやすいテーマです!

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