はじめに
子宮内膜症の治療薬として広く使われているジエノゲスト。
私の外来でも「この薬、長く飲んでも大丈夫ですか?」「がんになりやすくなったりしませんか?」という質問は非常によくいただきます。
確かに、ホルモン製剤は乳がんや子宮体がんとの関連が指摘されることもあり、特に長期服用の方は心配になるのも当然です。
そんな中、韓国の全国規模データを活用した大規模研究が発表され、ジエノゲストとがんリスクの関係について新たな知見が得られました。
この記事では、医師としての視点から研究の概要と臨床での活かし方をわかりやすく解説します。
ジエノゲストとは?
ジエノゲストは、第4世代の経口合成プロゲスチンで、
- GnRHアゴニストより副作用が少ない
- 長期使用が可能
- 月経痛や内膜症の再発予防効果が高い
といった特徴があります。
日本でも保険適用で処方され、海外では70カ国以上で承認されている実績があります。
子宮内膜症とがんリスクの背景
子宮内膜症のある女性は、統計的に
- 卵巣がんリスク:やや上昇
- 乳がんリスク:わずかに上昇の可能性
とされています。
そのため、ホルモン治療による発がんリスクがさらに上がらないかを不安視する方が多いのです。
韓国での大規模調査研究の概要
- 期間:2012〜2023年(11年間)
- 対象:子宮内膜症女性 約190万人
- 比較群:
- ジエノゲストを6か月以上使用した群(約1.5万人)
- GnRHアゴニストを使用した群(約18万人)
- 調整因子:年齢・手術歴・治療背景など(IPTW法使用)
研究結果
がんの種類 | リスク変化(aHR) | 結果 |
---|---|---|
乳がん | 1.01 | 上昇なし |
子宮体がん | 0.84 | 上昇なし |
卵管・卵巣がん | 0.92 | 上昇なし |
特に乳がんでは、**0.5〜1.5年使用群でリスクが有意に低下(aHR 0.72)**する傾向が見られました。
ただし、長期使用で明確な予防効果があったわけではないため、予防薬とまでは言えません。
医師としての見解と臨床応用
私の臨床経験上、ジエノゲストを長期使用する患者さんは、再発予防と生活の質向上の両立を期待しています。
今回の研究は「がんリスクを大きく上げない」という安心材料になりますが、以下の点には注意が必要です。
- 完全にゼロリスクではない
- 定期的な婦人科検診や乳がん検診は継続すべきです。
- 自己判断で中止しない
- 薬の中断は再発リスクを高める可能性があります。
- 他の持病やリスク因子を考慮する
- 家族歴、過去のがん歴、肥満、喫煙歴などで方針が変わる場合があります。
こんな場合はすぐに受診を
- 乳房にしこりや異常分泌がある
- 不正出血や下腹部痛の悪化
- 急な体重減少や体調変化
まとめ
- ジエノゲストはGnRHアゴニストと比べてもがんリスクを上げない
- 短期間(0.5〜1.5年)では乳がんリスク低下傾向も
- 長期的にも比較的安全に使用できる可能性が高い
- 定期検診と医師のフォローを受けながらの使用が安心
参考文献
Dienogest use and the risk of breast and gynecologic cancers: A nationwide population-based study
Hoyol Jhang, Saerom Kim, Hyun-Tae Park, Ju-Young Shin, Seung-Ah Choe
International Journal of Gynecology & Obstetrics, 2025. DOI: https://doi.org/10.1002/ijgo.70424
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