はじめに:コーヒーと頭痛の関係に感じた違和感
朝、コーヒーを飲まないと一日が始まらない。そう感じている人は少なくないのではないでしょうか。私もその一人です。毎朝のルーティーンとして、朝ランをこなした後、職場に向かう車の中や、メールチェックをしているときなど、いつもコーヒーが傍にあります。
そんなある日、大学時代の友人Kiと久々に会ったときのこと。彼はこんなことを言いました。
「とりあえずコーヒー飲みたい。頭が痛くなってきた。俺、カフェイン中毒なんだよ」
その発言に私は少し驚きつつも、「本当にコーヒーを飲まないと頭痛になることってあるのか?」と疑問を持ちました。たしかに私自身も、一日何杯もコーヒーを飲んでいた頃は、トイレが近くなったり、夜に眠れなくなったりという症状に悩まされた経験があります。それ以来、14時以降はコーヒーを飲まないというマイルールを作っています。
この「コーヒーと頭痛」の関係性をより深く理解するために文献を探してみたところ、非常に興味深い論文に出会いました。今回は、その論文をもとに「カフェインの習慣的摂取と頭痛の関係」についてご紹介しつつ、私なりの考察も交えてお話ししたいと思います。
研究の概要:カフェインは本当に片頭痛の引き金になるのか?
紹介する論文は、米国のAlbany Medical CollegeのMaggie R. Mittlemanらによる研究で、2024年2月に医学誌『Headache』に掲載されたものです(PMID: 38318677)。
本研究の目的は、**「習慣的なカフェイン飲料の摂取量と、頭痛の頻度・持続時間・痛みの強さとの関連性を評価すること」**です。
カフェインは片頭痛の誘因として知られており、医師は患者に対してカフェイン摂取を控えるように助言することがあります。ただし、それが科学的に裏付けられているかどうかについては、これまで系統的な研究が不足していました。
研究デザインと対象
この研究は、発作性片頭痛(episodic migraine)を持つ101人の成人患者を対象としたプロスペクティブコホート研究です。
- 期間: 2016年3月〜2017年8月
 - 観察方法: ベースライン時にカフェイン摂取に関するアンケートを実施し、その後6週間にわたって、頭痛の有無、発症時間、継続時間、最大痛みの強さなどを1日2回電子日誌に記録させました。
 - 解析対象者数: 97名(脱落者を除いた最終的なデータ提供者)
 
カフェイン摂取量と頭痛の頻度
カフェイン摂取の分類と頭痛日数(月換算)
| カフェイン摂取量 | 被験者数 | 平均頭痛日数(95%信頼区間) | 
|---|---|---|
| 0杯/日 | 20人 | 7.1日(5.1~9.2) | 
| 1~2杯/日 | 65人 | 7.4日(6.1~8.7) | 
| 3~4杯/日 | 12人 | 5.9日(3.3~8.4) | 
結果:習慣的なカフェイン摂取と頭痛の頻度に明確な関連は見られませんでした。
頭痛の持続時間と痛みの強さ
平均頭痛持続時間(時間)
- 0杯/日:8.6時間(95%CI: 3.8〜13.3)
 - 1〜2回/日:8.5時間(95%CI: 5.5〜11.5)
 - 3〜4回/日:8.8時間(95%CI: 2.3〜14.9)
 
頭痛の強さ(VAS 0〜100)
- 0杯/日:43.8(95%CI: 37.0〜50.5)
 - 1〜2回/日:43.1(95%CI: 38.9〜47.4)
 - 3〜4回/日:46.5(95%CI: 37.8〜55.3)
 
いずれも有意な差はなく、習慣的なカフェイン摂取が頭痛の「重さ」に影響するとは言えない結果でした。
医師としてこの結果をどう捉えるか
ここで改めて考えてみましょう。
「カフェインを飲まないと頭が痛くなる」というのは、“普段の習慣から逸脱したとき”に起こる現象である可能性が高いのです。
本研究ではあくまで「習慣的な」カフェイン摂取について調べており、「普段3杯飲む人が急に0杯にしたとき」などの“変化”が頭痛を誘発するかどうかは、今回の研究の範囲外です。
つまり、カフェインそのものが悪いのではなく、摂取量の急激な変化が問題となるケースがあるということ。
これは、臨床でもよく見かける「カフェイン離脱性頭痛(caffeine withdrawal headache)」と呼ばれる状態に近いと考えられます。
私自身の経験と“14時ルール”
私も一時期、コーヒーを日に何杯も飲んでいました。朝に1杯、昼に1杯、午後の合間に1杯、時には夕食後にもう1杯。
しかし、明らかにトイレが近くなり、夜に寝つけない日が増えたため、あるときから「14時以降はコーヒーを飲まない」というルールを自分に課すようになりました。
結果、睡眠の質は改善し、日中のパフォーマンスにも良い影響が出ました。
つまり、カフェインとの付き合い方が重要であり、「完全にやめる」必要はないが、「適量を守る」「時間帯を意識する」といった工夫が必要だと実感しています。
カフェインは頭痛治療にも使われている
意外に思われるかもしれませんが、カフェインは片頭痛治療薬の成分にも含まれています。
例えば、「エキセドリン(Excedrin)」や「ノーシンピュア」など、日本でも市販されている頭痛薬の中には、カフェインが含まれています。
カフェインには中枢神経刺激作用や血管収縮作用があり、特に血管性頭痛に対して一定の効果があるとされています。さらに、鎮痛剤の効果を高める補助的な役割も果たします。
ただし、**常用しすぎると“薬物乱用頭痛(medication overuse headache)”**のリスクもありますので、あくまで「時々使用する」ことが大切です。
今回の論文の限界と今後の展望
今回の研究は前向きコホートという質の高いデザインではありますが、以下のような限界もあります。
- サンプルサイズが少ない(97名):とくに3~4杯/日の群はわずか12名。
 - 5杯以上の摂取者が含まれていない:極端な高摂取群の影響が不明。
 - 日ごとの摂取変化の影響は評価されていない:離脱による頭痛の影響は未評価。
 
今後は、「普段より多く摂取した日」や「急にやめた日」が頭痛にどう影響するのか、より詳細なタイムラインに基づく研究が求められます。
結論:カフェインとどう付き合うべきか
本研究の結果を一言でまとめると、
「普段通りのカフェイン摂取なら、頭痛に影響しない」
ということになります。
だからといって、「いくらでも飲んでいい」というわけではありません。
- コーヒーやお茶は適度に楽しむ
 - 摂取量は1~2杯/日を目安に
 - 夜や就寝前は避ける
 - やめるときは少しずつ減らす
 
これが私が医師として、そしてコーヒー好きとしてたどり着いた“カフェインとの上手な付き合い方”です。
朝のコーヒーを楽しみながら、頭痛とも上手に付き合っていけたら、それが理想の生活スタイルではないでしょうか。
参考文献
NIHPA Author Manuscripts logo
Headache. Author manuscript; available in PMC: 2025 Mar 1.
Published in final edited form as: Headache. 2024 Feb 6;64(3):299–305. doi: 10.1111/head.14673
Habitual caffeinated beverage consumption and headaches among adults with episodic migraine: a prospective cohort study
Maggie R Mittleman¹, Elizabeth Mostofsky², Angeliki Vgontzas³⁴, Suzanne Bertisch³⁴⁵
PMCID: PMC10954400 NIHMSID: NIHMS1959736 PMID: 38318677
あとがき
もしあなたが「最近頭痛が多いな」と感じているのなら、まずは自分のカフェイン摂取習慣を振り返ってみることをおすすめします。そして、それが“習慣的な摂取”に収まっているか、それとも“波がある”のか、生活スタイルと照らし合わせてみてください。
きっと、あなたに合った「コーヒーとの心地よい距離感」が見つかるはずです。
  
  
  
  

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