はじめに
私は断然”朝はごはん派”である。炊きたての白米を頬張ると、一日の始まりにスイッチが入る感覚がある。とはいえ、我が家の朝食はパンが主流だ。妻にとって準備が楽なのだから、それは当然の選択で、私も文句を言うつもりはない。だけど、たまに訪れる”お米の朝”には思わずテンションが上がる。さらに、そこに納豆が加わると、まさに至福の朝食タイムとなる。
出張や学会などでビジネスホテルに泊まる機会が多いのだが、ホテルの朝食で納豆を見つけた瞬間、私は必ずと言っていいほどそれを手に取る。もはや習慣、いや、体が納豆を求めているのだろう。
そんな私にとって、今回発表された「納豆を週に数パック食べることで死亡リスクが40%も低下する」という研究結果は、まさに朗報である。本記事では、この研究の概要と私なりの考察を交えてご紹介したい。
納豆と死亡率の関係に迫った注目の研究
この研究は関西医科大学の藤田裕規氏らのチームによって行われ、2025年6月12日付でClinical Nutrition ESPEN誌に掲載されたものである。
研究の対象となったのは、65歳以上の日本人男性2,174人。うち、2,012人がベースライン調査を完了し、5年後と10年後に追跡調査が行われた。平均追跡期間は12年、最終的には1,548人のデータが解析対象となり、期間中に430人が亡くなった。
注目すべきは、納豆の摂取頻度と死亡率の関係である。
週に数パックの納豆がカギ
納豆の摂取頻度をもとに、対象者は以下のように分類された:
- 摂取なし
- 週に数パック(例:週2〜6回)
- 1日1パック以上
その結果、死亡リスク(全死亡のハザード比)は以下のように示された:
- 週に数パック:0.603(95% CI:0.441~0.825)
- 1日1パック以上:0.786(95% CI:0.539~1.145)
つまり、週に数パック納豆を食べている人は、納豆を全く食べない人に比べて死亡リスクが約40%も低いという結果である。さらに、長期にわたり継続して納豆を摂取している人においても、リスク低下が確認された。
なぜ納豆が命を救うのか?
納豆には以下のような健康効果が知られている:
- ナットウキナーゼ:血栓を溶かす酵素。脳梗塞や心筋梗塞の予防が期待されている。
- ビタミンK2:骨の健康維持、動脈硬化の抑制に関与。
- イソフラボン:抗酸化作用、ホルモンバランスの調整。
- 食物繊維と善玉菌:腸内環境を整える。
こうした成分が複合的に作用することで、循環器疾患やがん、糖尿病といった死亡に直結する疾患の予防につながる可能性があるのだ。
研究の意義と限界
今回の研究は、日本人高齢男性を対象とした前向きコホート研究という点で、信頼性の高いデータであると言える。しかし、いくつかの注意点もある:
- 対象はすべて65歳以上の男性であり、女性や若年層への当てはまりは不明。
- 納豆摂取は自己申告によるもので、食事内容の詳細や生活習慣のばらつきは調整しきれていない可能性がある。
- 納豆以外の健康的な生活習慣(運動、禁煙など)を持つ人が納豆を好んでいる可能性も。
したがって、「納豆を食べる=必ず長生きできる」とは言い切れないが、「納豆を含むバランスの良い食生活」が健康寿命に寄与する可能性は大いにある。
納豆と私
私は医師という職業柄、健康には人一倍気を使っている。しかし、あれこれ理屈をこねるよりも、自分が「美味しい」と感じる食事を楽しむことが、結果的に健康につながると信じている。
朝ごはんに納豆が並ぶ日、その一日はなんだか調子がいい。学会で泊まるホテルの朝食に納豆があれば、つい2パック取ってしまう。そんな”ちょっとした幸せ”が、実は命を守ってくれているのかもしれないと思うと、なんだか納豆に感謝したくなる。
そして、納豆のふるさと・水戸にはまだ一度も行ったことがない。納豆記念館や、藁に包まれた昔ながらの納豆など、実際にその文化に触れてみたいとずっと思っている。納豆好きとして、これは近いうちに実現したい小さな夢だ。
おわりに:納豆は「薬」ではなく「習慣」
今回の研究から言えるのは、「納豆は健康食品である」ということ以上に、「継続して食べること」が重要であるというメッセージだと感じる。
高価なサプリメントや流行の健康法に手を出す前に、まずは毎日の食卓に納豆を。安価で入手でき、調理も不要、しかも美味しい。そんな優秀な食品が、私たちの健康を quietly but surely 支えてくれている。
今日も朝ごはんに納豆が出てきたら、私はきっと笑顔になる。そして、納豆がある朝こそが、元気な一日への第一歩なのだと、改めて感じるのである。
参考文献
Fujita Y, Kouda K, Tamaki J, Tachiki T, Kajita E, Moon JS, Okamoto N, Iki M.
A 15-year cohort study of self-reported fermented soybean (natto) intake and all-cause mortality in elderly men.
Clin Nutr ESPEN. 2025 Aug;68:699–706.
doi: 10.1016/j.clnesp.2025.06.017

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