はじめに:前期破水とは?
**前期破水(PROM: Premature Rupture of Membranes)**とは、陣痛開始前に卵膜が破れることを指します。妊娠週数や感染の有無によって母児の管理が大きく変わるため、現場での迅速・的確な判断が求められます。
基本のステップ:まず何を確認する?
- 絨毛膜羊膜炎の有無を評価する
→ 発熱、子宮圧痛、悪臭のある帯下、白血球増多などに注目。Lenckiの基準が目安。 - 胎児の状態を評価する(26週以降ならNST)
- 妊娠週数を確認し、対応施設の可否を判断する
妊娠週数ごとの対応まとめ
| 妊娠週数 | 主な対応 |
|---|---|
| 37週以降 | 分娩誘発 or 陣痛待機(どちらでも可だが感染リスク考慮) |
| 34〜36週 | 原則は分娩誘発。ただし施設やGBS陽性の有無により調整 |
| 24〜33週 | 感染兆候がなければ抗菌薬を使って待機管理。ベタメタゾンも投与 |
| 22〜23週 | 小児科・施設能力を考慮し個別に対応。ベタメタゾンやMgSO₄も検討 |
| 24週未満 | 小児科医と協議し、個別に治療方針を決定 |
特に重要な管理ポイント
臨床的絨毛膜羊膜炎を疑うときのサイン
- 母体発熱(≧38℃)
- 子宮圧痛
- 母体頻脈(≧100/分)
- 羊水の悪臭
- WBC≧15,000/μL
上記のうち、発熱+1項目以上で診断(Lenckiの基準)
抗菌薬の使用
- 妊娠37週未満では抗菌薬を投与
- GBS陽性ならGBSカバー抗菌薬を
ステロイド(ベタメタゾン)
- 妊娠24〜34週未満:1週間以内に早産が予測されるなら2回筋注
- 22週以降24週未満:慎重に検討(効果ありとの報告あり)
MgSO₄の使用
- 妊娠32週未満:児の脳保護のために使用(WHO推奨)
管理のまとめ図(早見表)
| 項目 | あり | なし |
|---|---|---|
| 臨床的絨毛膜羊膜炎 | 分娩誘発 or 帝王切開 | 待機管理可 |
| 胎児well-being喪失 | 迅速に娩出 | 継続評価 |
| 妊娠34週未満 | NICU搬送 or 連携 | 対応施設で管理 |
| 発熱あり | 胎児心拍監視強化 | 通常管理 |
問題
妊娠32週の妊婦が前期破水のため受診した。腟鏡診で羊水流出を確認し、母体体温37.2℃、WBC 11,000/μL、CRP 0.8 mg/dLで、胎児心拍正常。NSTで変動一過性加速を認めた。今後の対応として適切なのはどれか。
A. 帝王切開
B. 分娩誘発
C. 抗菌薬を投与し待機
D. 子宮収縮抑制薬を長期間使用
E. 子宮内感染を疑い内診を行う
正解
C. 抗菌薬を投与し待機
解説
- 妊娠32週で、臨床的絨毛膜羊膜炎なし、胎児のwell-being良好な前期破水。
- 24〜34週のPROMでは抗菌薬投与下での待機管理が原則。
- 内診は感染リスクを上げるため、腟鏡診が基本。
- 子宮収縮抑制薬は短期なら考慮されるが、長期投与はリスクあり。
- 分娩誘発や帝王切開の適応ではない。
まとめ
前期破水の管理は「週数」と「感染兆候」の有無をしっかり見極め、施設の体制と小児科との連携がカギです。特に国家試験や現場では、Lenckiの基準・ステロイド・抗菌薬・MgSO₄の適応を押さえておくことが大切です。

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発行:日本産科婦人科学会 編集・監修:日本産科婦人科学会

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