はじめに
異所性妊娠(ectopic pregnancy)は、受精卵が子宮内膜以外に着床する病態で、妊娠の約1〜2%に起こるとされています。早期診断・早期治療が重要で、破裂すれば母体の命に関わることもあるため、特に若手医師や医学生にとって必須の知識です。今回は産科ガイドライン2023年のCQ:203を解説していきます。
異所性妊娠が疑われる所見とは?
妊娠反応(hCG陽性)で以下のいずれかを認めたら、異所性妊娠を強く疑います(Bランク):
- 妊娠5〜6週以降に子宮腔内に胎囊が見えない
 - 子宮外に胎囊様構造を認める
 - 流産後の組織に絨毛が見られない
 - 急性腹症(強い下腹部痛)を呈する
 - ダグラス窩に多量の貯留液がある
 - 出血性ショックを示唆する所見(頻脈、低血圧、貧血)
 
確定診断のポイント
- 子宮腔外に胎囊・卵黄囊・胎芽を認めたら、異所性妊娠と確定診断できます(Aランク)
 - 確定できない場合には、hCGの推移も判断材料になります(Bランク)
 
治療方針の決定
異所性妊娠と診断された後は、次の因子を総合して治療を決めます:
- 全身状態(安定か、ショック症状ありか)
 - 着床部位(卵管・子宮頸部・帝王切開瘢痕部など)
 - hCG値
 - 胎児心拍の有無
 - 腫瘤径
 - 今後の妊娠希望の有無
 
治療の3つの選択肢
手術療法(原則)
- 開腹 or 腹腔鏡:病院の設備と術者の熟練度で決定
 - 卵管摘出 vs 卵管温存(切開):妊孕性や対側卵管の状態を考慮
 - 卵管切開術は以下の条件を満たす場合に適応(日本産婦人科内視鏡学会)
- 挙児希望あり
 - 病巣径<5cm
 - hCG<10,000 IU/L
 - 胎児心拍なし
 - 初回発症、未破裂卵管
 
 
薬物療法(MTX:メトトレキサート)
- MTXは日本では適応外ですが、海外では第一選択
 - 適応例(RCOG/NICEより)
- 全身状態安定
 - 胎児心拍なし
 - 腫瘤径≦35mm
 - hCG<1,500〜5,000 IU/L
 - 無症候性
 
 
待機療法(慎重な観察が前提)
- hCGが低値(1,000〜1,500 IU/L未満)
 - 胎児心拍なし、腫瘤径30mm未満
 - 常に破裂リスクを考慮し、緊急対応が可能な体制が必要
 
hCG値の経過観察について
卵管温存術、薬物療法、待機療法いずれの場合でも、hCGが非妊時レベルになるまで経過観察が必要です。異所性妊娠存続症(persistent ectopic pregnancy)に注意が必要です。
番外編:正所異所同時妊娠とは?
- 子宮内と子宮外の両方に妊娠がある状態で、自然妊娠では極めて稀(15,000〜30,000件に1件)ですが、生殖補助医療後では0.15〜1%と高頻度になります。
 - 子宮内に胎囊が見えたからといって、油断してはいけません。
 
問題
次のうち、異所性妊娠を示唆する所見として最も適切なのはどれか?
A. 妊娠6週で尿中hCG陽性、子宮内に胎囊を認める
B. 妊娠反応陽性、経腟エコーでダグラス窩に貯留液を認める
C. 妊娠5週、子宮内に卵黄囊を確認
D. 妊娠4週、軽度の性器出血と下腹部違和感を自覚
E. 流産後、絨毛組織が確認された
正解:B
解説:
ダグラス窩に貯留液を認めるということは、腹腔内出血の可能性があり、異所性妊娠の破裂を強く示唆します。特に妊娠反応陽性との組み合わせで疑いが濃厚です。A・Cは正常妊娠の所見、Dは非特異的、Eは流産の可能性が高いです。
まとめ
異所性妊娠は「早期診断で回避できる重篤疾患」です。診断に悩む場面もありますが、**“妊娠反応陽性+胎囊なし”は要注意!**という意識を常に持つことが大切です。
  
  
  
  

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