はじめに
妊娠中の薬物治療は、母体の健康維持と胎児への安全性の両立が求められます。なかでも「有益性投与」とされる薬剤は、添付文書上で妊婦禁忌とはされていないものの、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」と記されており、使用に際して特別な注意が必要です。
今回の記事では、CQ104-4のガイドラインに基づき、「いわゆる有益性投与」の薬剤の中で特に胎児・新生児への影響に注意が必要な薬剤を解説します。後期研修医や初期研修医、医学生の方にとって臨床判断のヒントとなる内容を目指します。
「有益性投与」とは?
改定前の記載例:
- 「投与しないことを原則とするが、有益性が危険性を上回る場合にのみ投与」
- 「慎重に投与」「大量・長期投与を避ける」など
改定後の定義:
- 禁忌欄に妊婦の記載がない
- 妊婦の項に「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」と記載
このような薬剤は原則として慎重投与が求められますが、中には胎児毒性・催奇形性・離脱症候群など、より強い注意喚起が必要な薬剤があります。
胎児・新生児に対して特に注意すべき薬剤(抜粋)
| 薬剤分類 | 具体例 | 主なリスク |
|---|---|---|
| 抗うつ薬(SSRI) | パロキセチン | 心奇形、離脱症候群 |
| 抗てんかん薬 | バルプロ酸、カルバマゼピン | 催奇形性、認知機能障害、自閉症 |
| 抗不整脈薬 | アミオダロン | 胎児甲状腺機能低下、甲状腺腫 |
| ヨウ素含有薬 | ヨウ化カリウム、ポビドンヨード | 胎児・新生児甲状腺機能低下 |
| β遮断薬 | アテノロール | 胎児発育不全、新生児徐脈など |
| 抗悪性腫瘍薬 | 複数(※個別判断) | 胎児毒性(データ乏しい) |
| 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | インドメタシン、ジクロフェナク等 | 動脈管早期収縮、羊水過少 |
| テオフィリン | – | 新生児無呼吸 |
臨床でのポイント
- 非妊時からの投与調整が鍵:パロキセチンなどの向精神薬は、妊娠前の段階から代替薬への切り替えや減量を考慮することが望ましい。
- 妊娠判明後の急な中止は避ける:突然の服薬中止により母体が不安定になるリスクがある。
- 抗てんかん薬は単剤化を目指す:特にトリメタジオンは禁止、バルプロ酸は可能なら避ける。
- NSAIDsの使用は妊娠末期を避ける:動脈管閉鎖のリスクから末期には禁忌。
問題
妊婦に「添付文書上いわゆる有益性投与」とされる薬剤を投与する場合、特に胎児甲状腺機能低下のリスクに注意が必要な薬剤として最も適切なのはどれか。
A. アミオダロン
B. ジクロフェナク
C. カルバマゼピン
D. アテノロール
E. パロキセチン
【正解】
A. アミオダロン
【解説】
- アミオダロンは200mg中に75mgのヨードを含み、ヨウ素が胎盤を通過しやすいため、胎児の甲状腺機能低下や甲状腺腫のリスクがあります。
- Bのジクロフェナクは動脈管早期閉鎖、Cのカルバマゼピンは催奇形性、Dのアテノロールは胎児発育不全、Eのパロキセチンは心奇形の可能性があり、いずれも注意は必要ですが、甲状腺機能に対する影響が最も強く示されているのはアミオダロンです。
まとめ
- 「いわゆる有益性投与」の薬剤には、実質的に妊婦禁忌に近い注意を要するものも存在する。
- 妊娠中の薬物療法では、「リスクとベネフィット」の判断に加え、薬剤ごとの固有のリスクを把握することが重要。
- 妊娠を計画する患者への指導や、服薬調整もまた医師の役割の一部である。
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