FIREの出口戦略:「4%ルール」は本当に安全か?日本人が考えるべきリアルな取り崩し戦略

資産形成

はじめに

近年注目を集めている「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」。その達成後に待っているのは、「どう資産を取り崩して生活するか?」という新たな課題です。FIRE達成者の多くが参考にするのが「4%ルール」ですが、このルールは果たして誰にでも通用する万能の指針なのでしょうか?本記事では、アメリカで提唱された4%ルールの背景と研究的根拠、そして日本人が取り入れる際に留意すべき点を踏まえ、より現実的な取り崩し戦略について詳しく解説していきます。


4%ルールとは何か?

「4%ルール」とは、保有する資産のうち初年度に4%を取り崩し、以後はインフレ率を考慮しつつ同額を毎年取り崩すことで、30年間にわたり生活資金が尽きることなく過ごせるという資産運用・取り崩しの戦略です。

例:1億円の資産を持ってリタイアした場合、初年度に400万円を取り崩し、次年度以降はインフレ率に応じて取り崩し額を調整していきます。

この考え方は、1990年代にアメリカのトリニティ大学の研究者たちによって行われた研究(通称「トリニティ・スタディ」)や、ウィリアム・ベンゲン氏の論文により広まりました。


トリニティ・スタディの概要

1998年に発表されたトリニティ・スタディでは、1926年から1995年までの米国市場の実績データを用いて、様々な資産配分(株式と債券の比率)および取り崩し率で、資産が30年間枯渇しない確率をシミュレーションしました。

この研究から導き出された結果のひとつが「株式と債券のバランスをとりつつ、年間4%の取り崩しであれば、高確率で資産は30年間持続する」というものでした。

たとえば、株式75%、債券25%のポートフォリオで年間4%の取り崩しを行った場合、資産が枯渇しない確率は95%以上とされています。

ただし、これはあくまで過去のアメリカ市場のリターンに基づいた結果であり、現在・未来の日本人にそのまま当てはまるとは限りません。


4%ルールの前提と限界

4%ルールにはいくつかの前提条件があります:

  • ポートフォリオが一定のリターンを生み続けること(特に株式市場)
  • インフレ調整が適切に行われること
  • 取り崩し期間が30年であること

しかし、これらの前提は実生活では必ずしも保証されるものではありません。

リターンのばらつき(シーケンスリスク)

株式市場の平均リターンが年6〜7%であるといっても、その年ごとのリターンは大きくばらつきます。例えば、初期の数年間で株価が大きく下落した場合、同じ4%でも取り崩す資産の割合は実質的に大きくなり、将来的な資産枯渇のリスクが急増します。

為替リスク

日本人投資家の多くは、米国ETFや先進国株式など外貨建て資産に投資しています。この場合、円安・円高の影響を受けるため、実際の生活費として取り崩す際の額に変動が生じます。

日本の税制

アメリカと違い、日本では金融資産の取り崩しに際して、含み益部分に対して20.315%の譲渡益課税がかかります。元本取り崩しであれば非課税ですが、運用益を含む部分は課税されるため、単純に4%で生活費が賄えるとは限りません。


日本人にとっての現実的な取り崩し率

日本人がFIRE後に資産を取り崩して生活していく場合、アメリカの研究をそのまま当てはめるのではなく、以下のような独自の前提を考慮すべきです。

想定リターンを控えめにする

現在の世界的な低金利環境では、債券からの期待リターンは過去よりも低くなっています。株式市場の成長も今後は鈍化する可能性があるため、保守的な見積もりとしては、ポートフォリオ全体で年3〜4%程度のリターンを見込むのが現実的でしょう。

為替リスクと分散投資

為替リスクに備えるためにも、円建て資産(国内株式、J-REIT、個人向け国債など)も一定割合組み入れることが望ましいです。また、地域・資産クラスの分散を進め、特定の市場に依存しない戦略が重要です。

現実的な取り崩し率は「3〜3.5%」

前述のリスクを加味すると、日本人にとって現実的で安全な取り崩し率は「3〜3.5%」と考えられます。500万円の生活費が必要な場合、3.5%ルールであれば、1億4285万円の資産が必要になります。


生活費・税金・インフレをどう想定するか

生活費の再検討

FIREを考える上で重要なのは、年間いくらで生活するかを明確にすることです。独身と既婚、子どもの有無、居住地などによって生活費は大きく異なります。

税引後ベースでの取り崩し額の設計

税金がかかることを前提に、必要な生活費を税引後ベースで計算しましょう。たとえば、年間500万円が必要であれば、税引き前では625万円(税率20%と仮定)を取り崩す必要があるという計算になります。

インフレ耐性のあるポートフォリオ

物価上昇に対応できるよう、株式や不動産(REIT)を中心に構成するポートフォリオが推奨されます。定期的に資産配分を見直すことも重要です。


FIRE後の柔軟な戦略

可変取り崩し戦略(Variable Withdrawal Strategy)

固定で4%を取り崩すのではなく、市場環境に応じて取り崩し率を調整する方法です。市場が好調な年は4%以上を取り崩し、不調な年は3%以下に抑えることで資産寿命を延ばす効果が期待できます。

部分FIRE(セミリタイア)

完全なリタイアではなく、週2〜3日のパート勤務やスモールビジネス、副業を通じて月5万〜10万円程度の収入を得るだけでも、取り崩し圧力を大きく下げることができます。

セーフティネットとしての公的年金

公的年金制度はFIRE層にとっても重要なセーフティネットです。厚生年金や国民年金をしっかり納付し続けていれば、65歳以降の取り崩し率を減らすことも可能になります。


まとめ:4%ルールを信じすぎない、でも無視もしない

4%ルールは、「出口戦略を数値で可視化した」点で極めて有用なフレームワークです。しかし、それはあくまでアメリカ市場の過去のデータに基づいた理論値であり、日本人にとっては調整が必要です。

本当に重要なのは、「自分自身の前提条件(資産額・生活費・税金・為替・市場の変動)」を踏まえ、現実的な取り崩し戦略を立てること。未来を100%予測することはできませんが、柔軟で保守的なプランを持つことで、安心してFIRE後の生活を楽しむことができます。

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