妊婦健診では毎回おなじみの「血液型検査」ですが、その中でも特に重要なのが RhD陰性妊婦の管理 です。
日本人においてRhD陰性の頻度はわずか**約0.5%**と少ないものの、放置すると 胎児が重篤な貧血や胎児水腫 を起こす可能性があるため、見逃してはなりません。
本記事では、産科診療ガイドライン2020 CQ008-1をベースに、RhD陰性妊婦の周産期管理をわかりやすく解説します。
RhD不適合とは?
RhD不適合とは、RhD陰性の母親がRhD陽性の胎児を妊娠したときに、母体が抗RhD抗体を産生してしまう状態です(いわゆる「感作」)。この抗体が胎児の赤血球を攻撃し、胎児溶血性疾患(HDFN) を引き起こす危険があります。
ステップで覚える!RhD陰性妊婦の管理
① 初期スクリーニング
妊娠初期に全例で行う血液型検査で、RhD陰性と判明した場合は、**間接クームス試験(不規則抗体スクリーニング)**を実施。ここで陰性なら「未感作」となります。
妊娠28週で感作予防
RhD陰性かつ抗体陰性(未感作)の妊婦には、妊娠28週前後に抗D免疫グロブリン(250μg筋注)を投与します。
これは 感作の予防 を目的とした措置です。
抗D免疫グロブリンは血液製剤のため、投与には感染症リスクの説明とインフォームドコンセントが必要です。
分娩後の処置
出生児がRhD陽性であれば、分娩後72時間以内に再度抗D免疫グロブリンを投与します。出生児のRh型は臍帯血で確認。
- 分娩後の抗体検査(間接クームス試験)で陽性になっていても、28週時の予防投与による受動抗体であることが多いので心配いりません。
その他、感作リスクがある場面でも投与!
以下の状況でも、RhD陽性胎児の赤血球が母体に入る可能性があるため、抗D免疫グロブリン投与が必要です。
- 自然流産・人工妊娠中絶
- 異所性妊娠、胞状奇胎
- 羊水穿刺、絨毛採取、胎位外回転術
- 腹部打撲、双胎一児死亡
これらの投与は保険適用。ただし、人工中絶・羊水穿刺などは適用外になる場合があるので、施設で確認を。
⑤ すでに感作されていたら?
抗RhD抗体が陽性(感作あり)なら、定期的に抗体価を測定(4週ごと)。8~32倍以上で高値とされます。
高値が確認されたら、高次施設での管理が推奨されます。
胎児の状態はどうやって診るの?
胎児貧血の評価には、MCA-PSV(中大脳動脈の収縮期最高血流速度)を測定するドプラ法が主流です。
- MCA-PSVの1.5MoM以上が中等度以上の胎児貧血の目安
- 心拡大や胎児水腫などの超音波所見も参考に
weak Dの注意点
RhD抗原の中には、「weak D(Du)」というごく弱くD抗原を発現する亜型があります。
- weak Dの妊婦には抗D免疫グロブリンは投与不要
- 輸血時にはドナーではRhD陽性扱い/受血者ではRhD陰性扱いが基本
問題
妊娠初期の健診でRhD陰性と判明し、抗RhD抗体は陰性だった。今後の対応として正しいのはどれか。1つ選べ。
A.妊娠28週で抗体価が高ければ抗D免疫グロブリンを投与する
B.児のRh型に関係なく分娩後は抗D免疫グロブリンを投与する
C.妊娠28週で抗D免疫グロブリンを投与する
D.抗体が陰性なので分娩後の抗D免疫グロブリンは不要
E.weak D陽性であれば抗D免疫グロブリンを投与する
正解:C
**解説:**抗RhD抗体陰性=未感作であり、妊娠28週前後で抗D免疫グロブリンを予防的に投与するのが正しい。Bは誤りで、児がRhD陽性だった場合のみ投与する。Eも誤りで、weak D陽性には投与しない。
● まとめ
- RhD陰性妊婦は定期的な抗体チェックと抗D免疫グロブリンによる感作予防が重要!
- 妊娠28週と分娩後72時間以内が投与のタイミング
- 感作されていたら、MCA-PSVで胎児貧血を評価
- weak Dには注意!投与不要です!
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