CQ703:一絨毛膜双胎の特殊合併症 TTTS・sFGR・TAPS・TRAPの診断と管理

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はじめに:なぜ「早期発見・早期紹介」がすべてなのか?

一絨毛膜双胎の合併症(TTTS、sFGR、TAPS、TRAP)は、放置すれば両児死亡に至るリスクが極めて高い一方、適切なタイミングで「胎児治療」介入を行えば、劇的に予後を改善できる疾患群です。

私たちが外来でエコーを当てる最大の目的は、これらの「治療可能なタイミング」を逃さないことにあります。


1. TTTS(双胎間輸血症候群):スピード感が命

TTTSは、一絨毛膜双胎の約9%に発症します。供血児(Donor)から受血児(Recipient)へ血液が移行し、循環不全と羊水量の異常を引き起こす疾患です。

診断基準(再確認)

  • 受血児: 最大羊水ポケット(MVP)≧ 8cm(羊水過多)
  • 供血児: MVP ≤ 2cm(羊水過少)

Quintero Staging(クインテロ分類)

研修医がまず暗記すべきは、このステージ分類です。

  • Stage I: 羊水量異常のみ(供血児の膀胱は見える)。
  • Stage II: 供血児の膀胱が見えない
  • Stage III: 血流異常(臍帯動脈拡張期途絶・逆流、静脈管逆流、臍帯静脈拍動)。
  • Stage IV: 胎児水腫。
  • Stage V: 一児または両児死亡。

治療の黄金律:FLP(胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術)

妊娠26週未満(施設によってはそれ以降も検討)のStage II以上、あるいは進行の早いStage Iが適応となります。

  • 対応: TTTSを疑ったら、即座にFLP実施施設(日本胎児治療グループなど)へコンサルト。もたもたしている間にステージが進みます。

2. selective FGR(一児発育不全):血流の「波」を読む

sFGRは、MC双胎の約15%に起こります。TTTSとの違いは「羊水量の差ではなく、推定体重の差(体重差25%以上かつ一児が-1.5SD以下)」が主徴である点です。

臍帯動脈(UA)血流による分類

sFGRの予後を決めるのは、小さい方の児の「へその緒の血流」です。

  • Type I: UA血流が正常(拡張期血流がある)。予後は比較的良好。
  • Type II: UA血流が持続的に途絶・逆流(AREDF)。突然の胎児死亡リスクが高い。
  • Type III: UA血流が間欠的(周期的)に途絶・逆流。血管吻合が非常に太いことを示唆し、予後予測が困難。

管理のポイント

Type IIやIIIで、さらに羊水過少を伴う場合は極めてハイリスクです。妊娠26週未満であれば、一児を救うためのFLPが検討されることもあります。


3. TAPS(Twin Anemia Polycythemia Sequence):血の色を透視する

TAPSは、慢性の貧血・多血を来す疾患です。TTTSのような激しい羊水量の変化がないため、見逃されやすいのが特徴です。

診断の切り札:MCA-PSV

超音波Dopplerで中大脳動脈収縮期最高血流速度(MCA-PSV)を測ります。

  • 貧血児: MCA-PSV > 1.5 MoM(血液がサラサラで速い)
  • 多血児: MCA-PSV < 1.0 MoM(血液がドロドロで遅い)

FLP後(医原性)に起こることもあれば、自然発症することもあります。これも確定した管理指針はありませんが、胎児輸血や早期分娩が検討されます。


5. 無心体双胎(TRAP sequence):増大する「亡霊」

「一児死亡」と聞いていたのに、その児がなぜか大きくなってくる…。これが無心体双胎(TRAP sequence)の典型的な気づきです。

病態

心臓がない児(無心体)に対し、もう一人の児(ポンプ児)が自分の心臓で血液を送り届けてしまいます。

  • リスク: ポンプ児は2人分の血を回すため、高拍出性心不全に陥り、死亡率は約50%に達します。

治療:血流遮断術

ラジオ波焼灼術(RFA)や臍帯結紮術などで、無心体への血流を遮断します。これにより、ポンプ児の生存率を劇的に高めることができます。無心体のサイズがポンプ児の50%を超えてきたら、治療施設への紹介を急ぎます。


5. 実臨床でのアクションプラン:どこへ送る?

このCQの核心は、「自分の施設で抱え込まないこと」にあります。

  1. レベルIII NICUへの転院: TTTS、sFGR、TAPSを疑った時点で、新生児管理が可能な高次施設へ。
  2. 胎児治療施設へのコンサルト: 特に26週未満のTTTSやTRAP sequenceは、レーザーやラジオ波ができる専門施設(日本胎児治療グループなど)へ直通で連絡を。

問題 医師国家試験レベル

問題1

妊娠20週の一絨毛膜二羊膜(MD)双胎。超音波検査で、第1児(受血児)の最大羊水ポケット(MVP)は9.0cm、第2児(供血児)のMVPは1.5cmであった。第2児の膀胱は描出されているが、血流波形に異常は認めない。 Quintero Stagingとして正しいのはどれか。

A. Stage I B. Stage II C. Stage III D. Stage IV E. Stage V

【正解】A

【解説】 羊水量の不均衡(8cm超と2cm未満)があるためTTTSです。供血児の膀胱が見えているためStage IIには至っておらず、血流異常もないためStage Iと診断されます。Stage Iでも進行が早ければ胎児治療の対象となります。


問題2

一絨毛膜双胎の合併症と、その診断に最も有用な超音波指標の組み合わせで正しいのはどれか。

A. 双胎間輸血症候群(TTTS)  ―――  推定体重差

B. selective FGR  ―――  中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)

C. Twin anemia polycythemia sequence(TAPS)  ―――  最大羊水ポケット(MVP)

D. 無心体双胎(TRAP sequence)  ―――  臍帯動脈の逆行性血流

E. 一児死亡  ―――  羊水過多

【正解】D

【解説】 A:TTTSの診断は羊水量(MVP)です。 B:sFGRの診断は推定体重とUA血流パターンです。 C:TAPSの診断はMCA-PSVです。 D:正解。無心体側の臍帯動脈にポンプ児からの逆行性血流を認めるのが決め手です。 E:一児死亡だけでは羊水過多とは限りません。


まとめ

ブログの最後に、読者が明日から使えるチェックリストを載せて締めくくりましょう。

  1. MC双胎の検診は「2週に1回」: これを怠ると早期発見は不可能です。
  2. TTTSは「MVP 8/2」: この数字を見たら、即座にクインテロ分類を確認!
  3. sFGRは「へその緒の波形」: Type II(持続途絶)とType III(間欠途絶)は要注意。
  4. TAPSは「MCA-PSV」: 羊水に差がなくても、児の血流速度に差があれば疑う。
  5. TRAPは「心臓のない児の成長」: 一児死亡と決めつけず、血流を確認。
  6. 迷ったら「胎児治療グループ」: 専門施設との連携が赤ちゃんの命を救う唯一の道。

一絨毛膜双胎の合併症管理は、まさに「胎児を患者として診る」医療の最前線です。皆さんの鋭いエコー診断が、2人の赤ちゃんの未来を救うことを願っています!

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