はじめに:膜性診断は「予後の羅針盤」
双胎妊娠には、大きく分けて3つのタイプがあります。
- 二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎): 胎盤も部屋も別々。比較的低リスク。
- 一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎): 胎盤は1つ、部屋は2つ。TTTS(双胎間輸血症候群)のリスクがあり、厳重管理が必要。
- 一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎): 胎盤も部屋も1つ。臍帯相互巻絡のリスクがあり、極めて高リスク。
「ふたごですね」と言っただけで満足してはいけません。「どのタイプのふたごか」を早期に見極めることが、その後の母児の運命を左右します。
1. 膜性診断の「ゴールデンタイム」
ガイドラインでは、「妊娠14週まで」に診断することが強く推奨されています。
なぜ14週なのか?
妊娠が進むと、2つの羊膜や絨毛膜が子宮の中で押しつぶされ、癒合(くっついて)しまいます。そうなると、超音波で膜の重なりが見えにくくなり、後述する「サイン」が消失してしまうからです。
臨床のコツ:ベストは妊娠10週前後です。予定日を決めるのと同時に、絨毛膜の数を確定させるのが最もスマートな管理です。
2. 超音波での診断方法:基本のキ
膜性診断は、絨毛膜(外側の膜)と羊膜(内側の膜)の数を数える作業です。
① 絨毛膜数:胎囊(GS)の数を見る
- 妊娠初期(5〜6週)にGSが2つあれば、その時点でDD双胎(二絨毛膜)が確定します。これは非常に簡単で確実な診断です。
② 羊膜数:羊膜腔の数を見る
- 1つの胎囊の中に2つの胎芽が見える場合、一絨毛膜(MD or MM)です。
- その胎芽の間に、非常に薄い膜(隔膜)が見えればMD双胎。
- 14週になっても隔膜が見えず、2児が同じ空間で動いていればMM双胎を疑います。
3. 迷った時の「サイン」:λサイン vs Tサイン
妊娠10〜14週頃、2つの胎児を隔てている膜(隔膜)が子宮壁から立ち上がる部分の形状を観察します。これが膜性診断の「決め手」になります。
| サイン名 | 形状の特徴 | 診断 | 解説 |
| λ(ラムダ)サイン | 隔膜の起始部が厚く、三角形に白く見える | DD双胎 | 2枚の絨毛膜が入り込んでいるため、根元が厚くなります。 |
| T(ティー)サイン | 隔膜が薄く、T字型に垂直に立ち上がる | MD双胎 | 絨毛膜がないため、薄い羊膜2枚だけで構成されます。 |
注意:卵黄囊の数だけで判断しない!昔は「卵黄囊が2つなら二羊膜」と言われたこともありましたが、現在は不正確とされています。あくまで「隔膜」そのものを確認してください。
4. 14週を過ぎてしまったら?(晩期診断)
もし初診が遅れたり、14週までに診断できなかった場合は、以下の情報をパズルのように組み合わせて推測します。
- 性別: 男子と女子なら、ほぼ確実にDD双胎(一卵性のMDで性別が違うのは極めて稀)。
- 胎盤の数: 胎盤が明らかに2ヶ所に分かれていればDD双胎。
- 隔膜の厚さ: 厚ければDD、薄ければMDを疑う。
※どうしても診断できない場合:「安全第一」で、一絨毛膜(MD)双胎として管理します。MD双胎の管理(2週ごとのエコーなど)をDD双胎に行っても過剰診療になるだけですが、その逆は致命的な見落とし(TTTSの見逃し)に繋がるからです。
問題 医師国家試験レベル
問題1
妊娠10週の双胎妊娠。経腟超音波検査にて、1つの胎囊の中に2つの胎児を認め、その間に薄い隔膜を確認した。隔膜が子宮壁から立ち上がる部位は「T」の字状であった。この症例の膜性診断として正しいのはどれか。
A. 二絨毛膜二羊膜双胎(DD双胎)
B. 一絨毛膜二羊膜双胎(MD双胎)
C. 一絨毛膜一羊膜双胎(MM双胎)
D. 二卵性双胎
E. 結合双胎
【正解】B
【解説】
胎囊が1つ(一絨毛膜)、隔膜あり(二羊膜)、Tサイン(一絨毛膜)の組み合わせは、MD双胎の典型像です。
問題2
双胎妊娠の膜性診断について誤っているのはどれか。
A. 膜性診断は妊娠14週までに行うことが望ましい。
B. λサインを認める場合は、二絨毛膜双胎と診断する。
C. 胎囊(GS)が2つ確認できれば、二絨毛膜双胎と診断できる。
D. 卵黄囊が2つ確認できれば、二羊膜双胎と確定できる。
E. 膜性診断が困難な場合は、一絨毛膜双胎として管理する。
【正解】D
【解説】
D:解説文にあった通り、卵黄囊の数のみで羊膜数を確定させるのは推奨されません。必ず隔膜の有無を確認します。他はすべて正しい記述です。
7. まとめ
今回の内容を振り返り、臨床で迷わないためのポイントを整理しました。
- 時期: 理想は10週、遅くとも14週まで。
- サイン: 根元が太ければ λ(DD)、薄ければ T(MD)。
- 鉄則: 迷ったら、リスクの高い 一絨毛膜(MD)として管理 する。
- 意義: MD双胎はTTTSのリスクがあるため、DD双胎よりも高頻度な(原則2週ごと)エコーが必要になる。
双胎管理は「膜性に始まり、膜性に終わる」と言っても過言ではありません。初期の数分間のエコー検査が、その後の数ヶ月間の管理方針を決定します。
次の一歩として:もし明日、双胎の妊婦さんを受け持ったら、カルテを遡って「14週までのエコー写真」を探してみてください。λサインやTサインが綺麗に写っているはずです。自分の目で確認することが、一番の勉強になりますよ!

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