はじめに:一絨毛膜双胎が「ハイリスク」な本当の理由
双胎妊娠には、胎盤が2つある「二絨毛膜(DC)」と、胎盤を1つ共有している「一絨毛膜(MC)」があります。MC双胎の最大の特徴は、胎盤表面で両児の血管がつながっている「血管吻合」が存在することです。
この血管吻合を通じて血流のバランスが崩れると、一方の児からもう一方の児へ血液が流れ続けてしまう「双胎間輸血症候群(TTTS)」などの、MC双胎特有の恐ろしい合併症が起こります。
MC双胎に特有の四大疾患
- TTTS(双胎間輸血症候群): 羊水量の不均衡が主徴。
- selective FGR(一児発育不全): 胎盤占有面積の差による体重差。
- TAPS(Twin Anemia Polycythemia Sequence): 慢性の貧血・多血。
- TRAP sequence(無心体双胎): 逆流血によるポンプ児の負荷。
これらの疾患は急速に進行することがあるため、ガイドラインでは「高度な管理が可能な施設」での管理を強く推奨しています。
1. 管理の鉄則:16週からの「2週間ごとエコー」
ガイドラインのAnswer 2にある通り、一絨毛膜双胎(特にMD双胎)の管理で最も重要なのは、「妊娠16週以降、少なくとも2週に1回は超音波検査を行う」というルールです。
なぜ「2週間ごと」なのか?
TTTSは妊娠16週頃から発症し始め、放置すると数週間で両児死亡に至ることもあります。しかし、早期に発見できれば「胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)」などの胎児治療によって、救命率を劇的に向上させることが可能です。
エコーでチェックすべき3大項目
- 羊水量(MVP:最大羊水ポケット):
- 受血児(Recipient):MVP ≥ 8.0cm(羊水過多)
- 供血児(Donor):MVP ≤ 2.0cm(羊水過少)
- この「Poly/Oligoの組み合わせ」がTTTSの基本診断基準です。
- 胎児発育(EFW):
- 2児の推定体重差(Discordance)を計算します。
- 体重差が25%以上ある場合などは、selective FGRとして厳重に管理します。
- 膀胱の描出:
- 供血児の膀胱が見えない(無尿)場合、TTTSが進行しているサインです。
2. TTTS・sFGR・TAPSの診断基準を整理する
ここが試験や臨床で最も混同しやすいポイントです。表にまとめました。
| 疾患名 | 診断のキーポイント | 判定基準(主なもの) |
| TTTS | 羊水量の差(水のトラブル) | 受血児 MVP≥8cm かつ 供血児 MVP≤2cm |
| selective FGR | 推定体重の差(栄養のトラブル) | 一児がEFW < -1.5SD かつ 体重差 > 25% |
| TAPS | 血流速度の差(血液のトラブル) | MCA-PSV(中大脳動脈)の格差(1.5MoM以上と1.0以下など) |
研修医へのアドバイス:「水(羊水)がおかしいのがTTTS、体重が違うのがsFGR、血の色(貧血)が違うのがTAPS」と覚えると整理しやすいですよ。
3. MM双胎(一絨毛膜一羊膜)の特殊な管理
MC双胎の中でも、2人の間に仕切り(隔膜)が全くない「MM双胎」は、さらに別次元のハイリスクです。
臍帯相互巻絡(Cord Entanglement)
MM双胎では、2人のへその緒が絡まり合う「臍帯相互巻絡」がほぼ全例で起こります。かつてはこれが胎児死亡の主因と考えられていましたが、近年の研究では、死亡原因はそれだけではなく、突然の心不全やTTTSなども関与しているとされています。
管理と分娩時期
- 入院管理: 24〜26週頃から入院し、頻回のNST(ノンストレステスト)で胎児の状態を監視することが多いです。
- 分娩時期: 妊娠32〜34週頃に、予定帝王切開で出産させることが推奨されています。34週を過ぎると胎児死亡のリスクが上昇するため、あえて早産で産ませる戦略をとります。
問題 医師国家試験レベル
問題1
妊娠18週の一絨毛膜二羊膜(MD)双胎。妊婦健診の超音波検査にて、第1児の最大羊水ポケット(MVP)が9.5cm、第2児のMVPが1.5cmであった。第2児の膀胱は描出されず、第1児の心拡大を認める。
この症例について正しいのはどれか。
A. 二絨毛膜(DD)双胎でも同様の頻度で起こる。
B. 治療の第一選択は母体の安静と塩分制限である。
C. 第1児は供血児(Donor)である。
D. 胎児鏡下レーザー凝固術の適応となる可能性がある。
E. 次回の検診は4週間後で良い。
【正解】D
【解説】
A:血管吻合があるMC双胎特有の疾患です。
B:安静で治るものではなく、外科的介入が必要です。
C:羊水が多い(尿が多い)方が受血児(Recipient)です。よって第1児は受血児。
D:正解。TTTS(Stage II〜III相当)であり、高次施設でのFLPが検討されます。
E:進行が早いため、1週間以内、あるいは即時の精査が必要です。
問題2
一絨毛膜一羊膜(MM)双胎の管理について適切なのはどれか。
A. 膜性診断は妊娠20週以降に行うのが最も正確である。
B. 臍帯相互巻絡を認めたら、直ちに緊急帝王切開を行う。
C. TTTSの発症リスクはない。
D. 経腟分娩が第一選択である。
E. 妊娠32〜34週頃の予定帝王切開が推奨される。
【正解】E
【解説】
A:膜性診断は14週までが鉄則です(CQ701)。
B:巻絡はほぼ全例に起こるため、それだけで即手術とはしませんが、厳重管理の理由にはなります。
C:MM双胎でもTTTSは起こります。
D:臍帯脱出などのリスクが高いため、通常は帝王切開を選択します。
E:正解。ガイドラインで推奨されている時期です。
まとめ
最後に、この記事の重要事項をチェックリスト形式でまとめます。
- MC双胎を見たら「2週間ルール」: 16週からは2週間ごとのエコーを徹底する。
- 羊水量の不均衡をチェック: MVP 8/2(ハチ・ニ)の法則を覚える。
- sFGRとTAPSを忘れない: 体重差や血流速度(MCA-PSV)も定期的に評価。
- MM双胎は「32〜34週」がゴール: 早期入院と予定手術のプランを立てる。
- 高次施設との連携: TTTSを疑ったら、即座に胎児治療が可能な施設へコンサルト。
一絨毛膜双胎の管理は、産婦人科医の腕の見せ所でもあります。適切なタイミングで異常に気づき、適切な施設へつなぐこと。それが、2人の赤ちゃんを無事に抱っこしてもらうための最大の近道です。

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