CQ104-5:授乳中の薬はどこまでOK?ガイドラインに基づく「薬と母乳」の判断ガイド

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はじめに

授乳中の薬物使用に関して、「授乳しても大丈夫?」「服薬中はミルクにすべき?」といった相談は、臨床でよく受ける質問の一つです。かつては「母乳移行するから念のため授乳は避けて」と説明する場面もありましたが、現在では添付文書の記載が改定され、よりバランスのとれた判断が求められるようになっています。

本記事では、2022年改訂版ガイドラインCQ104-5をもとに、授乳中の薬剤使用における考え方・判断基準・患者説明のコツをわかりやすく解説し、最後に医師国家試験レベルの問題も掲載しています。


授乳婦への薬の説明、どうする?

原則の考え方

  • 大半の医薬品は授乳を中止しなくてもよい
  • 児への影響が「極めて少ない」薬がほとんど(表1A以外)

妊婦と違うポイント

  • 薬の母乳移行は子宮内曝露よりもごく微量(1~10%以下)
  • 「母乳を中止するか」は授乳婦自身の決定を支援する姿勢が重要

医師の説明で押さえるべき3つの柱

観点解説内容
① 薬の必要性母体の病状に対し、薬がどれほど重要か(中止すべきでない理由)
② 母乳の有益性母乳栄養が児に与えるメリット(免疫、発育、絆)
③ 児への影響RIDなど科学的な根拠に基づいた薬物の安全性評価

相対的乳児投与量(RID)とは?

**RID(Relative Infant Dose)**は、薬の授乳安全性を判断する指標で、次の式で計算されます:

RID(%) =(母乳経由で児が摂取する薬の量) ÷(児への常用量) × 100

  • RIDが10%未満 → 通常は安全域とみなす
  • RIDが10%以上 → 注意喚起が必要な場合あり

授乳中の薬で「注意・中止」が検討される薬(表1A例)

薬剤名注意点・理由
リチウム中毒リスク。血中濃度測定が望ましい
アミオダロンヨウ素性甲状腺機能障害を引き起こす可能性
抗てんかん薬(バルプロ酸など)中枢神経系への影響。血中濃度モニタリングで対応可能
コデインCYP2D6超代謝者ではモルヒネ中毒の報告あり(稀)

母乳中への薬移行に注意すべきケース

  • 長期投与・高用量
  • 新生児や未熟児(薬物代謝能力が未熟)
  • RID高値(10%以上)
  • 精神・神経系への作用薬(眠気、傾眠、哺乳力低下の恐れ)

医師の工夫:授乳を続けたい患者への提案

  1. 授乳後すぐに服薬(→児の摂取量を減らせる可能性)
  2. 症状の観察:機嫌・体重増加・傾眠など
  3. 必要時は薬剤濃度を測定:特に抗てんかん薬・リチウムなど
  4. 専門サイトや薬剤師と連携:「妊娠と薬情報センター」が有用

問題

授乳中の薬物使用について説明する際、根拠となる「相対的乳児投与量(RID)」の解釈として最も正しいのはどれか。

A. RIDが1%以上であれば授乳は禁止すべきである
B. RIDが10%以上でも母乳移行がなければ安全といえる
C. RIDは児の血中濃度から計算される安全性指標である
D. RIDが10%未満であれば児への薬物影響は少ないと考えられる
E. RIDは成人用量と比較して設定される


【正解】

D. RIDが10%未満であれば児への薬物影響は少ないと考えられる


【解説】

  • RIDは、「授乳婦から児に移行する薬の量が児の治療用量の何%か」を示す指標。
  • 一般的にRIDが10%未満であれば、児への有害な影響は少ないと判断される。
  • AやBは誤り(1%で禁止とは限らない/移行している時点で注意は必要)、Cも誤り(血中濃度ではなく推定摂取量で計算)、Eも誤り(成人用量ではなく児の投与量と比較)。

まとめ

  • 授乳中の薬剤使用は必ずしも禁忌ではなく、ケースバイケースの判断が必要
  • 判断材料として、RID・児の発育状況・薬の必要性・母乳の利点を多角的に説明する
  • 「授乳を続けるかどうか」は、患者(授乳婦)自身の意志を尊重し、情報提供と支援に徹する姿勢が求められる
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