はじめに
妊婦健診では、母体と胎児の健康を守るために様々なスクリーニングが行われます。その中でも重要なのが「糖代謝異常のスクリーニング」。妊娠糖尿病(GDM)は母児にさまざまなリスクをもたらすため、早期発見・早期介入が非常に重要です。この記事では、CQ005-1に基づき、妊娠中の糖代謝異常のスクリーニングと診断について、医学生・初期/後期研修医向けにわかりやすく解説します。
1. なぜ全妊婦にスクリーニングが必要なの?
GDM(妊娠糖尿病)は自覚症状に乏しく、放置すると胎児の巨大児、早産、妊娠高血圧症候群、母体の糖尿病発症リスク増大などを引き起こします。そのため、すべての妊婦にスクリーニングを行うことが強く推奨されており、CQでも推奨グレード「A」です。
2. スクリーニングの流れ(二段階法)
糖代謝異常のスクリーニングは「妊娠初期」と「妊娠中期(24~28週)」の二段階で行います。
妊娠初期のスクリーニング(初診〜妊娠14週頃)
- 方法:随時血糖測定
- カットオフ値:95または100 mg/dL(施設により異なる)
※随時血糖:食事のタイミングに関係なく測定した血糖。食後2~4時間を想定。
妊娠中期のスクリーニング(24~28週)
初期スクリーニングが陰性だった妊婦には以下いずれかを実施:
- 50gグルコースチャレンジテスト(50g GCT):
- 糖液50gを内服し、1時間後に採血。
- 140mg/dL以上で陽性
- 随時血糖測定(50gGCTが難しい場合)
- 100mg/dL以上で陽性
3. スクリーニング陽性だったら?診断検査を行う!
スクリーニング陽性者には「75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)」を行い、GDMの確定診断をします。
75gOGTT(3点測定)
- 空腹時
- 負荷後1時間
- 負荷後2時間
以下のいずれか1つ以上を満たせばGDMと診断:
- 空腹時 ≧ 92 mg/dL
- 1時間 ≧ 180 mg/dL
- 2時間 ≧ 153 mg/dL
(IADPSG基準に準拠)
また、初期スクリーニングで異常を認めた場合、HbA1c ≧ 6.5%または空腹時血糖 ≧ 126mg/dL であれば、「妊娠中の明らかな糖尿病」と判断し、早急な対応が必要です。
4. スクリーニングで異常なしでも要注意!劇症1型糖尿病の可能性
- 口渇、多飲、多尿、悪心、腹痛、嘔吐などの症状がある妊婦では、スクリーニングが陰性でも 劇症1型糖尿病 を常に疑うこと。
- 進行が早く致命的になるため、血糖・ケトン体測定→早期インスリン導入が重要です。
【まとめ】ポイント整理
項目 | 方法 | 判定基準 |
---|---|---|
妊娠初期スクリーニング | 随時血糖 | ≧95~100mg/dLで陽性 |
妊娠中期スクリーニング | 50gGCTまたは随時血糖 | ≧140mg/dL(GCT)または ≧100mg/dL(随時)で陽性 |
診断検査 | 75gOGTT | 3項目のうち1つ以上基準超えでGDM |
特別な注意 | 劇症1型糖尿病の症状に留意 | 血糖・ケトン体迅速評価 |
問題:妊娠24週の妊婦に対して、妊娠糖尿病のスクリーニングとして最も適切なのはどれか。
A. 空腹時血糖
B. HbA1c測定
C. 50gブドウ糖負荷試験(50gGCT)
D. 随時血糖測定(食後2時間)
E. 75gOGTT
正答:C
解説: 妊娠24~28週では、妊娠糖尿病のスクリーニングとして50gGCTが標準的に行われます。陽性例に対してのみ75gOGTTを行い、診断を確定する流れが一般的です。空腹時血糖やHbA1cはスクリーニング初期(初診時)に用いられることがありますが、妊娠中期では感度に劣るため不適切です。
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