はじめに
現代のオフィスワークや通勤、スマホやゲームなど、座って過ごす時間が圧倒的に長い生活が当たり前になっています。しかし、最新の研究では、たとえ日常的に運動習慣があっても、長時間座る生活は心臓や代謝の健康に悪影響を及ぼすことが明らかになってきました。特に若年期は健康に自信を持つ人が多いですが、実はこの時期の生活習慣が、数十年後の健康に直結することがあります。
米コロラド大学ボルダー校のChandra Reynolds氏らの研究チームは、米国で行われている疫学研究の参加者1,327人(平均年齢33.2歳、女性53%)を対象に、座位時間と運動習慣の影響を詳細に調査しました。参加者は週あたり80〜160分の中強度運動、135分未満の高強度運動を行う人が多く、全国平均よりも運動習慣が良好な集団でした。それでも、座位行動時間が長いと心血管リスクが上昇する傾向が見られたのです。
座りすぎは本当に危険?
研究では、心血管リスクや代謝健康を評価するために、次の指標を使用しました:
- BMI(体格指数):肥満度や体脂肪量の目安
- 総コレステロール/HDL比(TC/HDL-C比):動脈硬化や心血管リスクを示す指標
解析の結果、座位時間が長い人ほど、BMIやTC/HDL-C比が悪化する傾向がありました。
興味深い点は、1日20分程度の中強度運動(ウォーキングなど)をしていても、座位時間が長いと健康への悪影響を完全には防げないということです。
つまり、普段の「ちょっと歩く」程度の運動だけでは、長時間座る生活のリスクを十分に打ち消すことは難しいのです。
高強度運動で座りすぎの影響を軽減できる
一方で、毎日30分以上の**高強度運動(ランニングやサイクリングなど)**を行うと、座位行動の悪影響をある程度緩和できることが示されました。
例えば、次のようなケースがあります:
- 35歳で1日4時間座っているが、毎日30分以上ランニングをする人
- 同じ座位時間で高強度運動を行わない30歳の人
この2人のTC/HDL-C比はほぼ同じ水準。
つまり、高強度運動を取り入れることで、座っていても「心血管リスクの若返り」効果が得られる可能性があります。研究者はこれを「約5歳分の心血管若返り」と表現しています。
さらに、BMIに関しても同様の傾向が見られました。運動習慣が良好な人は、座位時間が長くても体格指数の悪化をある程度抑えられます。しかし、座りすぎを放置すると、若年期でも将来的な心血管リスクの上昇や代謝異常の可能性があるため注意が必要です。
年齢・性別によるリスクの差
座りすぎの影響は、年齢や性別によって異なります:
- 男性は若いうちからTC/HDL-C比が上昇しやすく、座位時間が長いと心血管リスクが早く高まる
- 女性は30代前半から中盤でリスクが上昇する傾向
特に、1日8時間以上座る人は、現行の運動推奨量を超える運動を取り入れなければ、リスクを防ぐことが難しいという結果が示されました。
双子研究から見える生活習慣の影響
この研究では、一卵性双子を用いた解析も行われました。双子間で座位時間や運動習慣が異なる場合を比較することで、遺伝的要因を排除して行動の影響を評価できるため、より信頼性の高い分析が可能です。
結果は明確でした:
- 座る時間が短く、激しい運動をしている方がTC/HDL-C比が良好
- 遺伝的要因よりも、日々の座りすぎや運動習慣が心血管健康に直接影響している
このことから、若いうちから座りすぎを減らし、高強度運動を取り入れることが、健康リスクの軽減に重要であることが分かります。
座りすぎを防ぐ具体的な方法
長時間座る生活は避けられない場合もありますが、研究者らは以下のような対策を提案しています:
- デスク周りの工夫
- スタンディングデスクを活用して、1時間に5〜10分立って作業する
- 電話やオンライン会議中は立ったまま参加する
- 日常に運動を組み込む
- 毎日30分以上の高強度運動(ランニング、サイクリング、HIITなど)を取り入れる
- 週末だけ集中して運動する「週末戦士」スタイルも有効
- エレベーターではなく階段を使う、徒歩や自転車通勤を増やすなど、日常生活の中で体を動かす時間を増やす
- 座位時間の管理
- スマホやPC作業の合間に意識的に立ち上がる
- 座る時間を減らすだけで、心血管リスクやBMIへの影響が軽減される
研究では、1日8時間以上座る人は週に80分以上の高強度運動を行うことで、心血管リスク指標を最適範囲に保てる可能性があるとされています。これは現行の最低運動推奨量よりも多めですが、座位が長い場合には必要な量です。
食生活との関係
運動だけでなく、食事も健康指標に影響します。研究では、果物と野菜の摂取がBMIには影響することが確認されました。しかし、TC/HDL-C比には明確な関連は見られませんでした。理由としては、今回の調査では特定の食品群(果物・野菜)の摂取のみを評価しており、肉や乳製品など他の栄養素の影響を反映していない可能性があります。
そのため、健康な体型と心血管リスク管理のためには、バランスの取れた食事と運動の両方を意識することが重要です。
若いうちからの対策がカギ
今回の研究のポイントは、若年期でも座りすぎが心血管リスクを高める可能性があることです。若いうちは健康に自信があっても、座りすぎや運動不足が積み重なると、将来的な心臓病や代謝異常のリスクを高めます。
特に注意が必要なのは:
- 男性は20代後半から、女性は30代前半から中盤にかけて、座りすぎの影響が出やすい
- 1日8時間以上座る場合は、現行の運動推奨量を超えた高強度運動が望ましい
- BMIやTC/HDL-C比の早期管理は、健康寿命を延ばすための重要な取り組み
まとめ
- 座りすぎは、運動習慣があっても心血管・代謝健康に影響する
- 高強度運動を追加することで、座位の悪影響を部分的に緩和できる
- 若いうちから座位時間の管理や運動習慣を整えることが、将来の心臓病・肥満・代謝異常の予防につながる
- 食事、特に果物・野菜の摂取もBMI管理に寄与するが、心血管指標には運動がより重要
- デスクワークや通勤など避けられない座位時間には、こまめに立つ・運動を増やす対策が有効
座る時間が長くなってしまう現代社会だからこそ、「座りすぎを減らすこと」と「高強度運動を意識的に増やすこと」が、健康寿命を守る鍵です。
参考文献
Bruellman R, Pahlen S, Ellingson JM, Corley RP, Wadsworth SJ, Reynolds CA. A twin-driven analysis on early aging biomarkers and associations with sitting-time and physical activity. PLoS One. 2024 Sep 11;19(9):e0308660. doi: 10.1371/journal.pone.0308660. PMCID: PMC11389938. PMID: 39259714.

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