医療現場から「心理的安全性」を考える

レビュー
組織を壊すのではなく、再構築するために

序章:「組織を壊したい」と思う理由

医療現場で働く中、無言の威圧感や肩書きによる上下関係を背景にした発言を目の当たりにすることがあります。自覚のないハラスメント的言動によって人が萎縮し、自由な発言や相談が難しくなる。その結果、患者の命を預かる大前提が脅かされる──。このような組織を前に、小泉元首相の「自民党をぶっ壊す」の言葉が強く響きます。

私はただ漠然と「組織をぶっ壊す」と考えるのではなく、むしろその“癌化した構造”にメスを入れ、不要な体質を取り除き、「心理的安全性のある組織」へと再構築したいと考えています。特に医療現場では、スタッフとのやりとりが患者の安全にも直結するため、一人ひとりの発言や関係性が組織の質を左右します。


心理的安全性とは何か

心理的安全性(Psychological Safety)は、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱され、「チーム内で対人関係のリスクをとっても安心できるという共通の信念」を指します。
言い換えれば、“意見を言える、質問できる、失敗を共有できる”状態が形成されていることです。

心理的安全性が高い職場には、以下のような利点があります:

  • チームのパフォーマンス向上
  • イノベーションや創造力の促進
  • 離職率の低下、メンバーの満足度アップ
  • 多様性が受け入れられ、多様な人材が活躍できる
  • 各メンバーが健康的に業務に取り組める環境

心理的安全性の4つの因子

日本の組織文化において、心理的安全性の核となる4つの因子は以下の通りです:

  1. 話しやすさ
  2. 助け合い
  3. 挑戦
  4. 新奇歓迎(新しい意見・個性の歓迎)

話しやすさ

  • 上司や同僚が質問・相談を歓迎する姿勢
  • 雑談やアイスブレークの意図的な設計
  • 「報告ありがとう」という受容の言葉

助け合い

  • 「困っていることはある?」という声かけ
  • ミスを責めず、プロセスを支援する
  • チーム成果を重視する文化

挑戦

  • アイデアや提案を歓迎
  • 小さな成功体験を積ませる
  • 失敗を“学び”として共有

新奇歓迎

  • 個性・多様性を歓迎
  • 配置・役割を柔軟に調整
  • ステレオタイプに縛られず本質を見る

心理的柔軟性がカギ

心理的安全性を支える要素として、心理的柔軟性が重要です。
これは「状況に応じて思考・行動を切り替える力」です。

  • ネガティブな感情も受け入れる
  • 変えられることには具体的に行動する
  • 境界をマインドフルに見極める

対話の質は、相手の背景を想像する力で大きく変わります。


行動分析:「きっかけ→行動→みかえり」

行動を変えるためのフレームワークとして、本書では以下を紹介しています:

  • きっかけ:発言を促す問いかけ
  • 行動:実際の報告や提案
  • みかえり:「ありがとう」「よかった」の言葉

例:報告が簡素でも「ありがとう」で受け止め、次回へつなげる姿勢。


各因子の行動例

話しやすさ向上

  • きっかけ:「アイデアを教えて」
  • 行動:意見を出す
  • みかえり:「その視点、助かる」

助け合い促進

  • きっかけ:「困っていたら相談してね」
  • 行動:助けを求める
  • みかえり:「教えてくれてありがとう」

挑戦を歓迎

  • きっかけ:「どう工夫すればいいと思う?」
  • 行動:提案・実行
  • みかえり:「挑戦してくれてありがとう」

新奇歓迎

  • きっかけ:「あなたの強みを聞かせて」
  • 行動:個性ある意見の表明
  • みかえり:「その視点、新鮮だった」

文化として定着させるには

  • 評価基準を言語化し共有する
  • 言葉で行動を強化する(価値を言語化)
  • 良い行動の見える化・共有を促進

ITツールの活用

  • Slack・Teams:気軽な対話の場
  • Trello・Asana:タスクの可視化
  • Google Docs・Notion:情報共有のハブ

報告や相談のハードルを下げるためのインフラ整備が重要です。


アセスメントで可視化

  • 心理的安全性診断(例:Attuned)で現状を評価
  • 部署ごとに比較・改善ポイントを把握
  • 無料で試せるサービスも

結論:まずは自分の行動から

心理的安全性は、トップの課題ではなく、全員の行動でつくられるものです。まずできることから始めてみましょう:

  • 報告に「ありがとう」と返す
  • 相手の立場に立って問いかける
  • 提案には価値を示す
  • ミス共有には感謝で応じる

おわりに

心理的安全性とは、「ぬるま湯」ではありません。健全な衝突や厳しさがあっても、誰もが安心して意見を言い、挑戦できる空間。
それが結果的に、患者の命を守る組織の強さへとつながっていきます。
一つひとつの声かけ、一つひとつの受け止めが、医療現場を変える原動力になるのです。


参考書籍

『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』

著者:エイミー・C・エドモンドソン(Harvard Business School教授)
訳者:野津智子
解説:村瀬俊朗(早稲田大学准教授)

恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
エイミー・C・エドモンドソン | 2021年02月03日頃発売 | 『チームが機能するとはどういうことか』(9刷、3.4万部【電子込み】)著者最新刊!Googleの研究で注目を集める心理的安全性。このコンセプトの生みの親であるハーバード大教...
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『心理的安全性のつくりかた』

著者:石井 遼介(ZENTech代表取締役・認知科学研究者)

心理的安全性のつくりかた
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