はじめに
妊婦健診で「子宮が大きいですね」と言われたとき、あなたなら何を考えますか?
**子宮底長が週数よりも大きいとき、まず疑うべきなのが“羊水過多”**です。
羊水過多は、胎児の先天異常や母体の糖尿病など、重大な背景疾患が隠れていることもあります。
今回は、ガイドラインCQ306-1に沿って、羊水過多の診断と管理のポイントを解説します。
羊水過多とは?:定義と診断
どうやって見つける?
- 妊婦健診で子宮底長が大きい
- 腹部膨満や呼吸苦などの母体症状
こんなときにまず疑うのが羊水過多です。
診断のための超音波評価
| 評価方法 | 基準値 | 羊水過多の定義 |
|---|---|---|
| MVP(最大羊水深度) | 通常2〜8cm | 8cm以上で羊水過多 |
| AFI(羊水インデックス) | 5〜24cm | 24〜25cm以上で羊水過多 |
※MVP≧13cmでは胎児異常のリスクがより高くなると言われています。
羊水過多の原因
原因は大きく3つに分けられる
- 胎児因子(羊水を飲めない/吸収できない)
- 消化管閉鎖、神経筋疾患、染色体異常、胎児水腫など - 胎児尿の過剰産生(高心拍出性)
- 双胎間輸血症候群、胎児貧血、Bartter症候群など - 母体因子
- 妊娠糖尿病、多胎妊娠など
→ しかし、約60%は原因不明とされています。
胎児のwell-being評価も忘れずに
羊水過多が見つかったら、胎児の健康状態をチェックすることも大切です。
- 胎動の減少・消失
- ノンストレステスト(NST)
- 胎児心拍モニタリング など
特にMVP≧13cmや胎動減少があるときは、染色体異常や遺伝性疾患のリスクが高いとされており、慎重な観察が必要です。
治療と管理の基本方針
原因に応じた治療
- 妊娠糖尿病 → 血糖管理
- Rh不適合妊娠 → 抗D抗体管理
- 双胎間輸血症候群 → 胎児治療(レーザー凝固など)
羊水除去(羊水穿刺)
- 腹部膨満や呼吸苦など母体の症状が強いときに実施
- 通常、1,000~3,000mLを除去
- 合併症(破水・早産・出血など)に注意
- 除去速度は100mL/分程度が目安
※「胎児の予後を改善する」ことが目的ではなく、あくまで母体の症状緩和のための対症療法です。
分娩時の注意点
羊水過多では以下のような合併症に注意する必要があります:
- 胎位異常
- 臍帯脱出
- 胎盤早期剝離
- 弛緩出血 など
破水時には羊水の急激な流出による臍帯脱出リスクがあるため、慎重な管理が求められます。
問題
妊娠32週の妊婦。子宮底長が大きく、羊水過多が疑われた。最大羊水深度(MVP)は9.0cmで、胎児に形態異常は認めない。次に行うべき検査として最も適切なのはどれか。
A. 分娩の誘発
B. 羊水除去のための羊水穿刺
C. 羊水染色体検査
D. 妊娠糖尿病のスクリーニング
E. 経過観察のみでよい
正解
D. 妊娠糖尿病のスクリーニング
解説
- MVP 9.0cm → 羊水過多と診断できるレベル
- 形態異常なし → 胎児因子は否定的
- 次にすべきは母体因子の検索
- 妊娠糖尿病は羊水過多の代表的な母体要因であり、スクリーニング検査が適切
まとめ
羊水過多は、子宮底長の異常から気づかれることが多く、超音波断層法によるMVPやAFIの評価が診断の第一歩です。原因は多岐にわたり、胎児の消化管閉鎖や神経疾患、染色体異常、妊娠糖尿病などが挙げられますが、実際には約6割が原因不明とされます。
診断された場合は、原因検索(CQ306-1推奨A)をしっかり行い、胎児のwell-being(胎動やNSTなど)を評価すること(推奨B)が重要です。症状が強い場合には羊水除去(羊水穿刺)を行うことも選択肢となりますが、合併症のリスクを説明したうえで慎重に行う必要があります。
また、分娩時には臍帯脱出や弛緩出血などのリスクがあるため、管理とタイミングの見極めが極めて重要です。羊水過多は「経過観察でいいや」と流してしまいがちですが、背景に重大な疾患が隠れていることもあります。
特に、MVP≧13cmや胎動減少は染色体異常や遺伝性疾患の重要なサインであり、妊婦健診でのささいな異常所見を見逃さない観察眼が求められます。
「羊水が多いだけ」で終わらせず、一歩踏み込んだ診療を意識することが、産科医としての信頼につながります。


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