CQ418-2:「産科危機的出血」への対応を徹底解説

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はじめに

分娩後異常出血は産婦人科領域で最も危険な合併症のひとつです。特に「産科危機的出血」へ移行すると、母体死亡のリスクが一気に高まります。
日本の母体死亡率は先進国の中でも依然として高い部分があり、その原因の多くを占めるのが出血関連です。
そのため、危機的出血を早期に認識し、適切に対応できることは産科医だけでなく、救急・麻酔・ICUなど多職種の医療者に必須のスキルです。


産科危機的出血」とは?

通常の分娩後異常出血から一歩進み、循環動態が破綻し命に直結する段階を指します。

定義に該当する条件のいずれかを認めたら「産科危機的出血」を宣言します:

  • 出血が持続し SI値(Shock Index)≧1.5
  • 乏尿・末梢冷感・バイタル異常の出現
  • 産科DICスコア 8点以上
  • フィブリノゲン 150mg/dL未満(単独でも可)

宣言の目的は「現場全体に緊急事態であることを共有する」ことです。これにより輸血準備・人員動員・高次施設搬送の判断が即座に動き出します。


診断のための指標

  • Shock Index(SI) = 心拍数 / 収縮期血圧
     例:HR 120 / BP 80mmHg → SI = 1.5(危険)
  • 産科DICスコア
     (血小板・FDP/Dダイマー・フィブリノゲン・出血症状などで点数化)
  • フィブリノゲン値
     出血の進行予測に有用。150mg/dLを切ると止血困難に。
  • バイタル・尿量・意識レベルの持続的観察も重要。

初期対応

危機的出血を疑ったら、以下を同時並行で行います。

  1. 止血処置
    • 子宮収縮薬投与(オキシトシン、カルバトグン、ミソプロストール)
    • 子宮マッサージ
    • 裂傷縫合
    • 胎盤遺残除去
  2. 輸血体制の準備
    • 赤血球(RBC)と新鮮凍結血漿(FFP)を1:1以上の比率で投与
    • クロスマッチ血が間に合わない場合は未交差同型血 → さらに緊急時には異型適合血も検討
  3. 高次施設搬送の判断
    • IVR、REBOA、集中治療を要する場合は早期に搬送

多職種連携と人員確保

  • 麻酔科 → 気道確保・輸液管理
  • 救急科/ICU → 集学的治療・循環動態管理
  • 臨床検査部/輸血部 → 血液製剤の迅速供給
  • 看護師・助産師 → 継続的モニタリング・出血量評価

宣言により「チーム全体が同じフレームで動ける」ことが救命の鍵です。


輸血戦略

  • RBC:FFP = 1:1以上
     大量出血では血漿不足 → 凝固障害を悪化させるため注意。
  • 血小板輸血:出血持続・血小板低下時に考慮。
  • 異型血使用:最終手段。心停止が迫る場合のみ。

止血のための手段

  • 外科的アプローチ
    • 子宮動脈結紮
    • 子宮圧迫縫合(B-Lynch法など)
    • 子宮摘出(最終手段)
  • IVR(Interventional Radiology)
    • 子宮動脈塞栓術(可能な施設では第一選択となることも)

薬物治療

  • フィブリノゲン製剤/クリオプレシピテート
    • フィブリノゲン <150 mg/dL で投与を検討
  • トラネキサム酸(TXA)
    • 出血が持続30分以上 or 再出血 → 追加投与検討
  • DIC治療薬
    • アンチトロンビン製剤
    • 遺伝子組換えトロンボモジュリン
    • 合成プロテアーゼ阻害薬(ナファモスタットなど)
  • rFVIIa(ノボセブン®)
    • 最終手段。通常の輸血治療に無反応な重篤例でのみ。

地域連携とシミュレーションの重要性

  • 院内マニュアル作成:どの段階で「危機的出血」と宣言するか明文化
  • シミュレーション訓練:医師・助産師・検査部・輸血部・麻酔科など全員で定期的に実施
  • 地域連携:搬送先・IVR可能施設・血液センターと普段から連絡経路を確認しておく

問題

32歳、経産婦。分娩後に大量出血が持続している。心拍数120/分、血圧80/50mmHg、尿量は減少し、手足は冷感を認める。検査でフィブリノゲン 120mg/dL。
この時点で最も適切な対応はどれか。

A.オキシトシン投与を続けて経過観察
B.「産科危機的出血」を宣言し輸血・止血処置を開始
C.抗生剤を投与し感染管理を優先
D.分娩室で数時間モニタリングしてから搬送判断

正解:B

解説

  • SI = 120/80 = 1.5 → 危険ライン
  • フィブリノゲン <150mg/dL → 単独で「産科危機的出血」宣言の基準
  • したがって、この時点で危機的出血と判断し、輸血・止血処置・搬送準備を同時並行で開始する必要がある。
     Aは不十分、Cは優先度が低い、Dは致死的遅延。

まとめ(臨床の実際で意識すべきこと)

  • 出血が続いたら「もしかして危機的出血?」と常に疑う
  • SI・DICスコア・フィブリノゲンを評価
  • 宣言でチームが一斉に動き出す
  • 止血・輸血・搬送を同時並行で実行
  • マニュアルとシミュレーションで「実際にできる」ことを準備しておく

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