CQ504:妊娠中に発見された付属器腫瘤の管理:手術はいつ?どんな場合に必要?

産科ガイドラインを勉強する

はじめに

研修医・初期研修医・医学生の皆さん、今日は妊娠中に付属器(卵巣・卵管)腫瘤が発見されたときの対応について、ガイドラインに沿って整理します。妊娠中という特別な状況では、母体・胎児ともに配慮すべき点が多く、一般非妊娠時の腫瘤対応とは異なる要素も出てきます。将来的に産婦人科・周産期医療に関わることを考えると、知っておいて損のない内容です。

本記事ではまず基本となる考え方を整理し、その後、5つの主要な推奨項目(Answer 1~5)を、なぜそうなのか・どこに注意すべきかを解説します。最後に、医師国家試験レベルの問題を付けて理解度をチェックできるようにします。


基本的な考え方

妊娠中に付属器腫瘤が見つかる頻度は、超音波検査の普及により約5〜6%程度という報告があります。
この状況では、「腫瘤が良性か悪性か」「経過観察か手術か」「母体・胎児リスクをどう考えるか」が対応のポイントになります。ガイドラインでは、妊娠中でもまずは超音波検査を中心に評価し、場合によってMRIの併用も検討する、としています。

妊娠中の医療では「母体利益が胎児リスクを上回るか」を常に考える必要があります。例えば、手術するか否か、あるいは撮像検査を行うか否か、など。この点が非妊娠時とは大きく異なる点です。
また、腫瘤が発見された時点で“すぐに手術”というわけではなく、「機能性の囊胞(例えばルテイン嚢胞)や子宮内膜症性嚢胞など、自然退縮が期待できるものかどうか」「捻転・破裂・分娩障害などのリスクをどう見積もるか」などを丁寧に検討します。

それでは、具体的な5つの項目(ガイドラインのAnswer 1〜5)を、順に解説していきましょう。


1.超音波検査によって,腫瘤の形状を観察し良悪性の評価を行う。

妊娠中に付属器腫瘤が発見された場合、まず第一選択となる検査は超音波検査です。ガイドラインでも明確に「超音波検査が第一選択」となっています。
その理由は以下の通りです。

  • 妊娠中でも比較的安全に観察が可能な検査であり、胎児への被曝がない。
  • 腫瘤の壁の肥厚や結節、内腔への乳頭状隆起、充実性部位の存在など、良悪性を疑う所見が比較的把握しやすい。
  • カラードプラーなど血流評価も併用されるが、妊娠中では偽陽性率が約50%と高く、「この所見だけ」で良悪性を判断するのは不十分です。
  • 場合によっては、超音波では観察が困難な部位に腫瘤がある、あるいは形状判断に迷う場合があり、そうした場合に次段階の検査としてMRIを検討します。

注意点・ポイント

  • 超音波検査で「壁の肥厚」・「結節あり」・「充実性部あり」・「乳頭状隆起あり」などを認めた場合、良性とは言い切れず、さらに精査を検討。
  • 妊娠中に腫瘤を発見しても、すぐに手術とは限らないという点を認識。超音波所見をもとに「良性が高そうか」「慎重に経過観察可能か」「早期手術すべきか」をこの段階で初めて検討します。
  • 妊娠中の腫瘤マーカー(CA125, AFP, hCGなど)は、妊娠そのものによって生理的に上昇するため、良悪性の鑑別にはあまり有用ではない。具体的には母体血中CA125の上限が200~350 U/mL程度という報告があります。
  • MRIを用いる場合、単純撮像では母体・胎児に対して明らかな害が報告されておらず必要時には検討可能とされますが、ガドリニウム造影剤併用は胎児リスク未公表という点に留意。

このように、超音波検査は妊娠中付属器腫瘤対応の出発点として非常に重要です。


2.腫瘤径の経時的な変化を観察する。

超音波検査で腫瘤が確認されたら、次に重要となるのが「大きさの変化を時間経過で追う」ということです。なぜこれは大切かを掘り下げます。

  • 多くの腫瘤は良性(たとえばルテイン囊胞、子宮内膜症性嚢胞など)であり、自然退縮ないしサイズ変化を伴うことがあります。ガイドラインでは特に、“サイズが5 cm以下”、かつ“ルテイン囊胞など機能的なものと考えられる”場合、約80%が妊娠16週頃までに消失するという報告があります。
  • 反対に、腫瘤径が5 cmを超えると真性腫瘍の可能性が上がり、自然退縮の頻度も低下するという報告があります。
  • 経時観察によって「サイズが増大している」「壁・結節所見が明らかになってきた」「構造が変わってきた」といった変化があれば、手術を検討すべきタイミングを逸しないための重要な手がかりになります。
  • 妊娠中は観察だけにしていても、捻転・破裂・分娩時障害といったリスクがゼロではないため、「観察しても安全」という判断を下すには、経時変化をモニタリングすることが前提です。ガイドラインでは捻転0.2〜22%、破裂0〜9%、分娩障害2〜25%という報告も出ています。

注意点・ポイント

  • 腫瘤径だけで良悪性・手術適応を決めてはいけません。構造変化・エコー所見・母胎・胎児の状況すべてを併せて考える必要があります。
  • 経時観察を行う際には、定期的な超音波フォロー体制を確保しておく必要があります。例えば、変化がなくても「妊娠16週」や「妊娠20週」など節目で見直すことを意識しましょう。
  • 「増大傾向あり」「所見悪化あり」「妊娠週数が進んできた」などの変化がみられた場合には、手術適応の検討、および周産期・腫瘍専門医との相談を早めに行う必要があります。
  • 悪性腫瘍のリスクを考慮しつつも、妊娠による観察期間の制約を理解しておくことが重要です。

3.ルテイン囊胞などの類腫瘍病変や子宮内膜症性囊胞が疑われる場合には,経過観察する。

ここでは「良性が強く疑われる」腫瘤についての対応です。いわば “待てる” ケースを見極める重要な実務ポイント。

背景

  • 妊娠中に発見される付属器腫瘤のほとんどが良性であり、代表的なものとして成熟嚢胞性奇形腫、ルテイン囊胞、嚢胞腺腫などがあります。
  • 例えば、ルテイン囊胞や機能性嚢胞と考えられるものであれば、自然退縮の可能性が高く、無駄な手術を避けて母体・胎児への侵襲を抑えるという観点から、“経過観察”が適切な選択となる場合があります。
  • ただし、子宮内膜症性嚢胞では、膿瘍化・破裂・急性腹症・悪性疑いの結節像出現などのリスクを伴う場合もあるため、観察中でも慎重な評価・フォローを怠ってはいけません。

実務上のポイント

  • 腫瘤径が例えば5 cm以下、かつ典型的な機能性嚢胞/ルテイン囊胞と考えられる構造(単房性、充実成分なし、壁の肥厚なし、結節なし)であれば、まずは経過観察が妥当と考えられます。ガイドラインではこのようなケースでの自然退縮率が高いという報告があります。
  • 観察期間中は、定期的な超音波チェック(例えば数週ごと)を行い、「サイズが増大していないか」「構造変化がないか」「母体・胎児に影響が出ていないか」を確認します。
  • 観察の選択をした際には、母体・胎児に対して「この観察という選択をとった場合、捻転・破裂・分娩時障害などリスクがゼロではない」という説明をきちんと行って、インフォームドコンセントを取る必要があります。ガイドラインでも保存療法を選択する際のリスクとして、手術適正の遅れ・破裂・捻転・分娩障害の可能性があることを記しています。
  • また、「妊娠中に観察していた腫瘤が実は悪性だった」という報告もあるため、観察から手術に切り替えるべきタイミングを見逃さないためにもフォロー体制を整えておくことが重要です。

適用から外れる場合

  • 壁肥厚・結節あり・充実性成分ありといった所見があれば「良性が強く疑われるから観察」という枠から外れます。
  • 腫瘤径が大きすぎる(例えば10 cmを超える)・捻転・破裂リスクが高そう・妊娠週数が進んでおり観察に不安がある場合なども、手術を早めに検討すべき状況となります。

4.良性腫瘍が疑われる場合には,原則的に非妊娠時の対応に準じて,手術療法か経過観察を選択する。

この項目は「良性だろうと思われる腫瘤」について、妊娠中であっても“原則的には”非妊娠時の対応(すなわち、手術か観察かをその腫瘤の性状・大きさ・リスクに応じて選ぶ)という考え方を示しています。

背景と考え方

  • 妊娠中の手術適応や時期には明確なエビデンスが豊富とは言えず、ガイドラインでも「標準化された対応はない」という記述があります。
  • しかしながら、良性腫瘤でも「捻転・破裂・分娩時障害(腫瘤が分娩を妨げるなど)」などのリスクがあるため、観察だけではリスクをゼロにできないという点が強調されています。ガイドラインによれば、妊娠中付属器腫瘤が存在した場合、捻転0.2~22%、破裂0~9%、分娩時障害2~25%の報告があります。
  • そのため「良性局面」であっても、腫瘤の大きさ・形・位置・妊娠週数・母体・胎児の状態などを総合して、手術か観察かを判断するというアプローチが推奨されます。

実務上の考え方・目安

  • 一般に、腫瘤径が6 cm以下で典型的な単房囊胞性構造であり、悪性所見が乏しければ“観察”を選びやすいという報告があります。
  • 腫瘤径が10 cmを超える場合、破裂・分娩時障害・悪性可能性が上がるという報告も多く、手術を推奨する報告が多数あります。
  • 腫瘤径が6 〜 10 cmの間では、構造が単純かどうか(隔壁・小結節・充実成分がないかどうか)や、妊娠週数・母胎・胎児の状況を勘案して“観察か手術か”を慎重に決定します。例えば、隔壁あり・小結節あり・充実成分ありなど、悪性を疑う所見が強ければ手術検討となります。
  • 観察を選んだ場合には、上述の通りフォローを厳格に行い、変化が見られたなら速やかに手術への転換を検討すべきです。

実施時のポイント

  • 妊娠中に手術を行う場合は、妊娠週数・母体・胎児の安定性・手術のタイミング・術式(開腹 vs 腹腔鏡)などを周産期・腫瘍専門医と検討することが望ましい。ガイドラインでも「腫瘍・周産期・新生児の専門知識を有する医師が協議して行うことが望ましい」と記されています。
  • 周囲(産婦人科医、腫瘍専門医、産科医、小児科)との協議・説明・インフォームドコンセントをしっかり行うこと。
  • 分娩時・術後の管理(母体・胎児ともに)も含めたリスク・フォロー体制を作ること。

5.悪性または境界悪性腫瘍が疑われる場合,大きさや妊娠週数にかかわらず原則として手術を選択する。

この項目は、いわゆる“疑いあり”の腫瘤を発見した時にどうするか、という対応です。

背景

  • 妊娠中に発見された付属器腫瘤で悪性または境界悪性が疑われる場合、母体・胎児双方の安全性・将来の予後を考えると、手術介入が原則とされます。ガイドラインでは、妊娠中の卵巣悪性腫瘍はほとんどがI期であるという報告もあり、早期に対応することにより母体予後を良く出来る可能性があります。
  • 腫瘍治療ガイドライン(例:卵巣がん・卵管がん・腹膜がん治療ガイドライン2020年版)を参照して、妊孕性(将来の妊娠希望)をどうするかも含め、慎重な治療計画が必要です。

実務上の考え方・ポイント

  • “大きさや妊娠週数にかかわらず”という表現があるように、たとえ妊娠初期・後期であっても、悪性疑いがあれば手術を検討するというのがガイドラインの考え方です。
  • 手術のタイミング(妊娠中期(妊娠16〜20週頃)が術後母胎・胎児ともに比較的リスクが少ないという報告もありますが、悪性疑いが強ければ早めの介入が考慮されます。
  • 術前検査・術中・術後管理・分娩計画・新生児管理など、手術だけでなく“母体・胎児・腫瘍”を包括したチーム医療体制を整えることが重要です。
  • インフォームドコンセントの際には、妊孕性温存を希望するか否か・手術時期・術式・リスク・代替案・観察選択のリスク(悪性進行・転移等)を丁寧に説明する必要があります。

実践上の注意

  • 妊娠中は画像検査(CT・造影MRIなど)に制約があるため、術前評価に制限がある点を考慮した上で、腫瘍専門・産科専門・麻酔・新生児チームと相談して進める必要があります。
  • 手術に至った場合の母体合併症・胎児への影響・早産リスクなども十分にリスク説明・準備を行っておくこと。
  • 術後のフォロー、分娩のタイミング・方法(帝王切開併用など)を、術前から産科チームと連携しておくことが望まれます。

問題

問題:
妊娠12週の妊婦において,34 mmの単房性囊胞性腫瘤が右卵巣付近に超音波で発見された。壁の肥厚・結節・充実性部位は認めず,妊娠週数も安定、母体・胎児ともに特に問題なし。次のうち,最も適切な対応はどれか。

  1. 直ちに手術を行う。
  2. 腫瘤径や構造の経時的変化を観察する。
  3. 腫瘤が5 cmを超えるまで待ってから手術を検討する。
  4. 腫瘤マーカー(CA 125など)を測定して判断する。
  5. 妊娠終了後まで治療を延期する。


正解:2.腫瘤径や構造の経時的変化を観察する。
解説:
このケースでは、妊娠12週、径34 mm(3.4 cm)という比較的小さい単房性囊胞性腫瘤であり、超音波的に壁肥厚・結節・充実性成分といった悪性を強く疑う所見もありません。さらに母体・胎児ともに安定しているという状況です。
ガイドライン(CQ504)では、こうした「機能性囊胞や類似良性の可能性が高い付属器腫瘤」については、まず経時的観察が推奨されています。観察を行う際には腫瘤の大きさ変化・構造変化を追うことが重要です。
選択肢1の「直ちに手術」は、良性が強く疑われる小径腫瘤では過剰介入となるリスクがあります。選択肢3の「5 cmを超えるまで待つ」は、観察戦略の一つではありますが、文書では「まず観察して構造変化・大きさ増大がないかを確認」の方が適切です。選択肢4の「腫瘤マーカーを測定」は、妊娠中ではCA125などの腫瘤マーカーは生理的に上昇するため鑑別診断には有用ではないとされています。 選択肢5の「妊娠終了後まで治療を延期」は、観察戦略としてはあり得ますが、妊娠中期・後期に入ると捻転・破裂・分娩障害のリスクが増すため、ただ「終了まで何もしない」という対応はガイドラインの趣旨からは適切とは言えません。
以上より、このケースでは「経時的な観察」が最も適切です。


まとめ

今回ご紹介した妊娠中に発見された付属器腫瘤の取り扱い」は、妊娠中という母体・胎児双方を考慮する特殊な状況での腫瘤対応です。重要なポイントを改めて整理します。

  • 妊娠中の付属器腫瘤は、超音波検査を第一選択として観察する。特に壁肥厚・結節・充実性成分などの悪性を疑う所見に注目。
  • 腫瘤径の経時変化をモニタリングすることが、観察戦略を選択する上で鍵となる。
  • 機能性囊胞(例:ルテイン囊胞)や子宮内膜症性嚢胞と考えられ、かつ構造的に良性寄りであれば、観察という選択肢が十分に合理的である。
  • 良性腫瘤と考えられる場合でも、非妊娠時と同様の手術・観察選択の原理に準じて、大きさ・構造・妊娠週数・母胎・胎児状態を総合して判断する。
  • 悪性または境界悪性が疑われる場合には、妊娠中という状況であっても大きさ・妊娠週数を問わず原則手術が推奨される。母体・胎児・将来の予後を勘案して、専門チームによる協議・インフォームドコンセントが不可欠である。
  • 観察を選んだ場合でも、捻転・破裂・分娩障害といったリスクがゼロではないため、定期的なフォローと「変化があれば速やかに手術検討」という視点を持っておくことが大切である。

研修医・初期研修医・医学生の皆さんには、このようなガイドラインの“背後にある論理”を理解することが、臨床現場で腫瘤を発見したときに「なんとなく手術/なんとなく観察」という曖昧な判断を避け、根拠を持って説明・判断できる力につながります。特に産婦人科・周産期医療・腫瘍医療に関わるなら、母体・胎児・腫瘍それぞれの観点から“いつどう動くか”をイメージしておきましょう。

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