― 新生児を救うための病型分類と分娩管理の鉄則 ―
こんにちは。今回は産婦人科診療ガイドラインの中でも、特に臨床現場での瞬発力が問われる「性器ヘルペス」について解説します。
性器ヘルペスは、適切に管理すれば経腟分娩が可能ですが、判断を誤ると赤ちゃんに重篤な後遺症や命の危険(新生児ヘルペス)を及ぼす可能性があります。ガイドラインの行間を読み解きながら、現場で使える知識に昇華させていきましょう。
はじめに|なぜ「性器ヘルペス」は怖いのか?
性器ヘルペス自体は、単純ヘルペスウイルス(HSV-1またはHSV-2)による感染症で、成人の多くは適切な治療で回復します。しかし、「妊婦の産道感染」となると話は別です。
新生児ヘルペスの脅威
赤ちゃんが産道でウイルスに曝露されると、生後1週間前後で「新生児ヘルペス」を発症することがあります。
- 全身型: 肝不全やDICを起こし、死亡率が高い。
- 中枢神経型: 脳炎を起こし、深刻な神経学的後遺症を残す。
- 表在型(SEM型): 皮膚・眼・口腔に病変が出る。
これらを防ぐために、私たちは「分娩時にウイルスが産道にいるか?」を見極め、必要であれば帝王切開を選択しなければなりません。
1. 【分類】もっとも重要な「病型」の判断
ヘルペスの管理で、もっとも研修医が混乱するのが**「初感染」か「再発」か**の区別です。ここが分かれば、ガイドラインの半分を理解したも同然です。
① 初感染初発(もっとも危険!)
- 状態: 過去にHSV-1にも2にも感染したことがなく、今回初めて感染して発症。
- リスク: 母体に抗体がないため、ウイルス量が非常に多く、排除に時間がかかる。産道感染率は**40〜80%**と極めて高い。
② 非初感染初発
- 状態: 例えば「口唇ヘルペス(HSV-1)」の抗体はあるが、今回初めて「性器ヘルペス(HSV-2)」を発症したケース。
- リスク: 多少の交差免疫があるため、①よりは軽症。
③ 再発
- 状態: すでに神経節に潜伏していたウイルスが、妊娠による免疫低下などで再燃。
- リスク: 母体に抗体があるため、ウイルス量は少なく、治癒も早い。産道感染率は3%以下と低い。
2. 【治療】抗ウイルス薬の使用をためらわない
「妊婦さんに抗ウイルス薬を使って大丈夫?」と不安になるかもしれませんが、ガイドラインでは積極的な治療を推奨しています(推奨レベルB)。
薬物療法の基本
- 内服: アシクロビル(200mg×5回/日)またはバラシクロビル(500mg×2回/日)。
- 期間: 通常5〜10日間。
- 重症時: 入院の上、アシクロビルの点滴静注を検討します。
妊娠初期(器官形成期)であっても、局所への軟膏使用や、重症度に応じた内服治療は可能です。これまでアシクロビルによる胎児奇形の報告は認められておらず、治療のメリットがリスクを大きく上回ります。
3. 【分娩管理】帝王切開か、経腟分娩か?
ここが核心です。ガイドラインは「分娩時にウイルスが産道にいるリスク」を時間軸で切っています。
帝王切開を選択すべき3つのケース
- 分娩時に病変がある: 入院時に外陰部に潰瘍や水疱があれば、原則として帝王切開です(推奨レベルA)。
- 初感染初発から1か月以内: 抗体が十分に産生されず、病変が消えてもウイルスが排出されている可能性があるため、帝王切開を推奨します(推奨レベルC)。
- 再発から1週間以内: 再発であっても、発症から1週間以内はウイルス排泄のリスクがあるため、帝王切開を選択するのが一般的です(推奨レベルC)。
現場の知恵: 「再発で、薬を飲んで1週間経っていないけれど、病変は完全に消えている」というケース。ガイドライン上は帝王切開が推奨されますが、状況によっては経腟分娩を検討することもあり、非常に個別性の高い判断が求められます。
4. 【新生児対応】生まれた後のバトンタッチ
もしヘルペス病変がある状態で生まれてしまった、あるいは帝王切開が間に合わなかった場合、小児科との連携が必須です。
- 検査: 赤ちゃんの眼・口・鼻・性器などから検体を採取し、PCRやウイルス分離を行います。
- 予防的投与: 感染リスクが高い場合、検査結果を待たずにアシクロビルの投与を開始することもあります。
- 水平感染の防止: お母さんや医療スタッフからの「手」や「口(口唇ヘルペス)」を介した感染を防ぐため、徹底した手洗いと、乳頭病変がある場合の授乳制限を指導します。
演習問題 医師国家試験レベル
問題1
妊娠38週の初産婦。分娩目的で入院した際、外陰部に強い痛みのある水疱と潰瘍を認めた。患者はこれまで性器ヘルペスの既往はない。もっとも適切な対応はどれか。
A. 経腟分娩を続行し、出生児にのみ抗ウイルス薬を投与する。 B. 直ちに帝王切開術を行う。 C. 軟膏塗布のみで経過観察し、自然分娩を待つ。 D. 抗菌薬の点滴静注を行う。 E. 分娩後に母体へワクチンを接種する。
【正解】B 【解説】 分娩時に活動性のヘルペス病変(特に初発疑い)を認める場合、新生児ヘルペス予防のための帝王切開は必須のアクションです(推奨レベルA)。
問題2
妊娠中の性器ヘルペスについて正しいのはどれか。
A. アシクロビルは妊婦への投与が禁忌である。 B. 再発性のヘルペスの場合、産道感染のリスクは50%以上である。 C. 初感染初発の場合、発症から2週間経過していれば経腟分娩が推奨される。 D. 乳頭周囲に病変を認める場合は、授乳を制限する。 E. 帝王切開を行えば、新生児ヘルペスの発症リスクはゼロになる。
【正解】D 【解説】 A:妊婦への投与は可能です。 B:再発の場合、感染リスクは3%以下と低いです。 C:初感染初発は「1か月」あけるのが原則です。 D:正しい。接触による水平感染を防ぎます。 E:胎内感染や出生後の水平感染があるため、リスクはゼロにはなりません。
まとめ
記事の内容を振り返り、明日からの診療に活かせるポイントをまとめました。
- 病型を見極める: 「人生初めてのヘルペス(初感染)」は超ハイリスク。
- 治療は迅速に: アシクロビル、バラシクロビルの投与を躊躇しない。
- 分娩のデッドライン: **「初感染なら1か月、再発なら1週間」**以内に分娩になるなら帝王切開を考慮。
- 分娩時の診察: ヘルペス既往のある妊婦さんは、入院時の外陰部チェックを怠らない。
- 水平感染も注意: 産後の手洗い、口唇ヘルペス、乳頭病変の指導もセットで。
性器ヘルペスの管理は、お母さんのQOLと赤ちゃんの未来を同時に守る大切な仕事です。このガイドラインの基準を「お守り」として、自信を持って診療にあたってくださいね!

コメント