CQ602:妊娠中の性器クラミジア感染症(Chlamydia trachomatis)管理ガイド

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妊娠中の性器クラミジア感染症は、日本で最も報告数の多い性感染症の一つです。無症状のことが多く見逃されやすい一方で、母子感染による新生児結膜炎や肺炎などの合併症を引き起こす可能性があるため、妊婦健診での適切なスクリーニングと治療が重要です。今回は、日本産科婦人科学会(JSOG)のCQ602をもとに、臨床現場で役立つ情報をわかりやすく解説します。


性器クラミジア感染症とは?

1-1. 病態と疫学

クラミジア・トラコマティスは、細胞内寄生性のグラム陰性菌で、子宮頸管や尿道などの粘膜上皮に感染します。日本では性感染症の中で最も報告数が多く、特に若年妊婦に多い傾向があります。

  • 妊婦における感染率:約3〜10%(年齢により変動)
  • 多くは無症状(自覚症状が乏しい)
  • 母子感染リスク:新生児結膜炎・咽頭炎・肺炎

1-2. 母子感染と早産リスク

妊娠中にクラミジア感染がある場合、以下のリスクがあります。

リスク説明
母子感染経産道感染により新生児クラミジア結膜炎、肺炎
早産オッズ比1.27で軽度上昇
前期破水オッズ比1.81で上昇
再感染リスクパートナー未治療の場合あり

ただし、早産や前期破水の予防効果については意見が分かれており、治療の主目的は母子感染防止です。


ガイドラインのポイント

JSOGガイドラインでは、妊娠中のクラミジア感染に対して以下の対応を推奨しています。

No推奨内容推奨度
1母子感染予防のため、子宮頸管のクラミジア検査を行うB
2治療にはアジスロマイシンまたはクラリスロマイシンを使用B
3投薬終了後3週間以上あけて治癒判定を行うB
4陽性者にはパートナーのクラミジア検査・治療を勧めるB

2-1. 推奨1:妊婦スクリーニングの目的

妊婦スクリーニングは母子感染予防が主目的です。

  • 新型出生児のクラミジア結膜炎、肺炎を予防
  • 妊婦自身の症状が軽度または無症状でも感染を見逃さない
  • 妊娠30週頃までにスクリーニングして治療可能な期間を確保

検査方法

方法特徴
核酸増幅法(TMA、PCR、SDA)高感度・高特異度
核酸検出法、EIA法感度はやや劣るが使用可
血清抗体検査妊婦スクリーニングには不適切(直接的証明ではない)

2-2. 推奨2:治療薬

妊婦に使用可能な抗菌薬はマクロライド系が中心です。

薬剤用法備考
アジスロマイシンジスロマック®錠250mg ×4錠 1回, またはジスロマックSR 2g1回投与で完結
クラリスロマイシンクラリス®錠200mg 1日2回, 7日間胎児への安全性考慮済
  • マクロライド系はQT延長・心室性頻脈のリスクがあるため注意(CQ506参照)
  • 治療終了後は3週間以上空けて治癒判定(偽陽性防止)

2-3. 推奨3:治癒判定

  • 治療後のクラミジア陰転化確認には核酸増幅法EIA法を使用
  • 投薬終了直後に判定すると、残存DNAで偽陽性になる場合あり
  • 安全に治療効果を評価するため、3週間以上あけることが望ましい

2-4. 推奨4:パートナーへの対応

  • 再感染防止のため、性行為パートナーも検査・治療を勧める
  • 治療を受けない場合、妊婦の再感染リスクが高くなる
  • 家族計画や産後ケアの中でも重要なポイント

実臨床でのアプローチ例

3-1. 妊婦健診でのフロー

  1. 妊娠初期または妊娠30週までにクラミジアスクリーニング
  2. 陽性者はアジスロマイシンまたはクラリスロマイシンで治療
  3. 投薬終了後3週間以上あけて治癒判定
  4. パートナーにも検査・治療を推奨
  5. 必要に応じて再スクリーニング(特にリスクが高い場合)

3-2. 症例シナリオ

症例1:25歳、妊娠12週、初産、無症状

  • PCRでクラミジア陽性
  • アジスロマイシン単回投与
  • 治癒判定は投薬後3週間以降

症例2:30歳、妊娠28週、複数のパートナー歴あり

  • PCR陽性
  • クラリスロマイシン7日間投与
  • パートナーも同時治療

問題

問題1
妊娠20週の妊婦で、クラミジアスクリーニングにて陽性が判明した。最も適切な初回治療はどれか。

A. メトロニダゾール250mg 1日3回 7日間
B. アジスロマイシン2g 1回内服
C. ペニシリン系抗菌薬 7日間
D. 治療せず再検査のみ

正解:B

解説

  • 妊婦クラミジア感染症には、マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシン)が推奨。
  • アジスロマイシン2g単回内服は治療完結型で母子感染予防に有効。
  • メトロニダゾールはクラミジアには効果なし。

問題2
妊娠中にクラミジア感染が確認され、アジスロマイシン単回投与を行った。治癒判定として最も適切なのはどれか。

A. 投薬終了翌日にPCRで評価
B. 投薬終了1週間後にEIA法で評価
C. 投薬終了3週間以上経過後に核酸増幅法で評価
D. 治療後判定は不要

正解:C

解説

  • 投薬直後の評価は残存DNAで偽陽性の可能性があるため避ける
  • 投薬終了後3週間以上経過してからの核酸増幅法による判定が推奨される

まとめ

  1. 妊婦スクリーニングの目的は母子感染防止
  2. 治療にはアジスロマイシン単回投与またはクラリスロマイシンを使用
  3. 治療後は3週間以上空けて治癒判定
  4. パートナーにも検査・治療を勧める
  5. 無症状でもスクリーニングで陽性なら治療対象

妊婦クラミジア感染症は、母子感染の予防が最優先です。臨床では、スクリーニング・治療・治癒判定・パートナー対応の一連の流れを理解して管理することが重要です。

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