妊娠中の細菌性腟症(Bacterial Vaginosis: BV)は、産科領域で非常に重要な疾患の一つです。細菌性腟症は自覚症状が乏しいことが多く、妊婦健診で見逃されることもありますが、早産リスクとの関連が報告されているため、臨床での適切な対応が求められます。今回は、日本産科婦人科学会(JSOG)のCQ601をベースに、臨床現場で役立つ情報をわかりやすく解説します。
細菌性腟症とは?
1-1. 病態と診断基準
細菌性腟症は、腟内フローラの乱れにより乳酸桿菌が減少し、Gardnerella vaginalis などの嫌気性菌が優勢になる状態を指します。特徴的な所見は以下です。
- 腟分泌物:灰白色・均一・薄い膜状
- pHの上昇:腟pH >4.5
- 魚臭い匂い:10% KOH試験で悪臭(Whiff test)
- 顕微鏡所見:Clue cells(上皮細胞に付着した細菌)
これらの中で、Nugentスコアを用いた顕微鏡評価が診断の標準とされます。
Nugentスコアとは?
グラム染色標本を見て、乳酸桿菌(好気性)・Gardnerella類・Mobiluncusなどの嫌気性菌の比率をスコア化します。スコアが7〜10点でBVと判定されます。
(0〜3点:正常、4〜6点:中間群、7〜10点:細菌性腟症)
1-2. 妊娠中のBVの頻度と意義
- 妊婦におけるBVの頻度は 約15〜20% と報告されています。
- 自然治癒するケースも1/3程度あります。
- BVは 早産や低出生体重児のリスク因子 とされています。
また、HIVやHSV-2、クラミジア、淋菌など性感染症のリスク増加とも関連があります。
ガイドラインのポイント
JSOGガイドラインでは、妊娠中のBVに対して以下のような対応を推奨しています。
| No | 推奨内容 | 推奨度 |
|---|---|---|
| 1 | 細菌性腟症と診断されたら、早産ハイリスクとして管理する | B |
| 2 | 早産予防目的のスクリーニングは妊娠20週未満に実施 | C |
| 3 | 症状のある妊婦には抗菌薬で治療 | B |
| 4 | スクリーニングでBVと診断された妊婦には抗菌薬で治療 | C |
2-1. 推奨1:BV=早産ハイリスク
妊娠中のBVは 早産リスクを高める とされ、特に37週未満の早産と関連があります。
ただし、症状のない妊婦全員にスクリーニングと治療を行った場合、早産率の減少については十分なエビデンスはありません。
2-2. 推奨2:早産予防のためのスクリーニング
- 妊娠20週未満にBVスクリーニングを行うことが推奨されています。
- 対象は早産既往のある妊婦や、リスク因子を持つ妊婦に限定されることが多いです。
- 検査方法:
- Nugentスコア(顕微鏡)
- トリコモナス・カンジダ症の同時検査も推奨される場合があります。
2015年のCochrane reviewでは、妊娠20週未満にBV・カンジダ・トリコモナスのスクリーニングを行い、陽性者に治療を行うと早産率が有意に減少したことが報告されています。
2-3. 推奨3:症状のある妊婦の治療
症状がある場合は、妊娠の有無に関わらず 抗菌薬による治療が必要 です。
治療薬
| 薬剤 | 用法 | 備考 |
|---|---|---|
| メトロニダゾール | 250mg, 1日3回, 7日間経口 | 妊娠中使用可 |
| メトロニダゾール | 500mg, 1日2回, 5〜7日間経口または腟内投与 | 内服と同等効果 |
| クリンダマイシン | 300mg, 1日2回, 5日間経口 | 日本では保険適用なし |
- メトロニダゾールの催奇形性は否定的
- 妊娠初期3か月以内の経口投与は原則禁忌(リスクより利益が上回る場合を除く)
- 内服と腟内投与で早産予防効果は同等だが、内服の方がわずかに出生体重や妊娠延長で有利
2-4. 推奨4:スクリーニングで陽性の場合の治療
- 無症状でも BVや中間群 が確認された場合には抗菌薬治療が推奨される場合があります。
- 早産既往や高リスク妊婦では、積極的に介入することで早産予防の可能性があります。
実臨床でのアプローチ例
3-1. 妊婦健診でのフロー
- 妊娠初期に問診・分泌物の確認
- 必要に応じてBVスクリーニング(Nugentスコア)
- 症状あり → メトロニダゾール治療
- 無症状でも高リスク妊婦 → スクリーニング陽性者に治療検討
- 治療後フォローで再評価
3-2. 症例シナリオ
症例1:28歳、妊娠12週、初産、BV無症状
- Nugentスコア8 → 高リスク妊婦ではメトロニダゾール内服検討
症例2:32歳、妊娠18週、早産既往あり、BV有症状
- メトロニダゾール250mg, 1日3回, 7日間内服
問題
問題1
妊娠20週の妊婦で、無症状の細菌性腟症(Nugentスコア8)がスクリーニングで判明した。最も適切な対応はどれか。
A. 経過観察のみ
B. メトロニダゾール内服による治療
C. クリンダマイシン外用剤で治療
D. 妊娠28週まで再検査せず放置
正解:B
解説:
- 無症状でも高リスク妊婦(妊娠20週未満、早産リスクあり)では、抗菌薬治療が推奨されます。
- メトロニダゾールが第一選択。クリンダマイシンは保険適用なし、外用剤は推奨度が低い。
問題2
妊娠10週の妊婦にBV症状(膣分泌物・臭気)があり、メトロニダゾール治療を検討。最も適切な説明はどれか。
A. 妊娠初期3か月以内の内服は原則禁忌
B. 内服は催奇形性が報告されているため避ける
C. 腟内投与は内服より有効
D. 治療不要、自然治癒を待つ
正解:A
解説:
- メトロニダゾールの催奇形性は否定的ですが、妊娠初期3か月以内の経口投与は原則禁忌とされます。
- 児への影響より母体利益が上回る場合は使用可。
まとめ
- 妊娠中のBVは早産リスク があるため、注意して管理する
- 早産予防目的のスクリーニング は妊娠20週未満に実施する
- 症状がある場合は治療必須(メトロニダゾールが第一選択)
- 無症状でも高リスク妊婦は治療検討(Nugentスコアや早産既往を考慮)
- 妊娠初期3か月以内のメトロニダゾール内服は原則禁忌だが、必要に応じて使用可
BVの診断・治療は妊娠管理の中で非常に重要です。臨床現場では、スクリーニング・症状確認・治療判断・フォローの流れを押さえておくことがポイントです。


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